想定読者

  • 先行きの見えない市場環境に、漠然とした不安を抱える経営者・起業家
  • 事業計画を立てても、いつも「計画通り」に進まずに悩んでいる方
  • 変化に強く、レジリエント(強靭)な組織を作りたいと考えているリーダー

結論:未来は「予測」するな。「複数の未来」に備えよ

「来期の市場は、きっとこうなるはずだ」

そう信じて立てた事業計画が、数ヶ月後には全くの絵空事になっていた…。そんな経験は、ありませんか?現代のように、変化が激しく、複雑で、曖昧な(VUCA)時代において、未来を「一点読み」で予測しようとすることは、不可能であり、極めて危険な行為です。

では、私たちは、ただ未来の不確実性に怯え、思考停止するしかないのでしょうか?いいえ、違います。そのための思考法が、「シナリオ・プランニング」です。

これは、単に「最悪の事態を想定する」という悲観論ではありません。起こりうる複数の未来(最悪の未来、最高の未来、そして、予想もしていなかった未来)を具体的に描き、どの未来が訪れても、柔軟に対応できる「戦略の選択肢」をあらかじめ準備しておくための、極めて戦略的な思考法なのです。

あなたの事業計画は「天気予報」になっていないか?

多くの事業計画は、「来期は晴れ(好景気)の予報です」という、一つの未来だけを想定して作られています。しかし、天気予報が外れるように、未来予測も必ず外れます。「晴れ」を信じて傘を持たずに出かければ、突然のゲリラ豪雨(予期せぬ危機)に、なすすべもなく濡れてしまうでしょう。

シナリオ・プランニングは、未来を「当てる」ことを目的としません。晴れの日の計画はもちろん、大雨の日、嵐の日、さらには、なぜか雪が降った日のことまで考え、「どんな天候になっても、自分たちは大丈夫だ」という状態を作り出すことを、目的としています。「予測」から「備え」へ。この発想の転換こそが、第一歩です。

「最悪の未来を想定する」は、ネガティブな行為ではない

この記事のテーマを見て、「常に最悪の未来を想定しておくということ?私が高校生の時、友人にも言ったことのあるくらい大事にしていた言葉です」と感じた方がいます。まさに、その通りです。

しかし、重要なのは、その行為がネガティブなものではない、ということです。最悪の事態を具体的に直視し、「もし、そうなったら、うちはこう動こう」という対応策まで考えておく。ここまでできて初めて、経営者は、漠然とした未来への不安から解放されます。

最悪への備えは、思考停止する悲観論ではなく、いかなる事態にも対応できるという「自信」と「安心」の源泉です。そして、その安心感があるからこそ、経営者は、目の前のチャンスに大胆に挑戦することができる。これは、究極のポジティブ思考なのです。

シナリオ・プランニング実践の4ステップ

では、具体的にどう進めるのか。基本的な4つのステップを紹介します。

ステップ1:テーマと時間軸を決める

まず、「何を、いつの時点で見通したいのか」というテーマと時間軸を設定します。例えば、「5年後の、自社の主力事業を取り巻く環境」や「3年後の、採用市場の動向」といった形です。

ステップ2:外部環境の“不確実性の軸”を2つ特定する

次に、設定したテーマに対して、「自社ではコントロール不可能」で、かつ「事業への影響が非常に大きい」、最も不確実な要素を2つ選び出します。例えば、新サービス事業であれば、「市場の成長性(高/低)」と「競合の参入(多/少)」などが考えられます。

ステップ3:4つのシナリオ世界を描く

特定した2つの軸を、縦と横に交差させ、4つの象限を持つマトリクスを作ります。そして、それぞれの象限が表す未来の世界を、具体的に、物語(シナリオ)として記述していくのです。

  • シナリオA: 市場は急成長し、競合も少ない(最高の未来)
  • シナリオB: 市場は急成長するが、競合もひしめき合う(厳しい競争の未来)
  • シナリオC: 市場は停滞し、競合は少ない(ニッチ市場での生存の未来)
  • シナリオD: 市場は停滞し、競合も多い(最悪の未来)

「この世界では、顧客は何を求め、社会はどうなっているか?」と、解像度高く想像することが重要です。

ステップ4:各シナリオでの「打ち手」を考える

最後に、描き出した4つの未来のそれぞれについて、「もし、本当にこの未来が来たら、自社はどう動くべきか?」「そのために、今から何を準備しておくべきか?」という、具体的な戦略(打ち手)を考えます。そして、複数のシナリオに共通して有効な、強靭な戦略を見つけ出すのです。

未来の解像度を上げる、思考の習慣

シナリオ・プランニングは、大掛かりなワークショップだけではありません。日々の思考習慣として、そのエッセンスを取り入れることができます。

  • 「もし、〇〇が起きたら?」と常に自問する: 「もし、主要な取引先が倒産したら?」「もし、画期的な競合サービスが現れたら?」と、常に未来の可能性をシミュレーションするクセをつけましょう。
  • 多様な情報源に触れ、自分の「当たり前」を疑う: 自分の業界の専門誌だけでなく、全く異なる分野のニュースや、歴史、SF小説などに触れることで、未来を想像するための引き出しは増えていきます。

未来は、今日のあなたの選択の積み重ねで作られています。シナリオ・プランニングで、未来の解像度を上げ、より賢明な今日の選択をしていきましょう。

よくある質問

Q: どのくらい先の未来まで考えれば良いですか?

A: 事業の特性によりますが、一般的には3年〜10年程度の中長期で考えることが多いです。変化の激しいIT業界などでは1〜3年、設備投資などが必要な製造業では10年以上と、あなたのビジネスのサイクルに合わせて設定するのが良いでしょう。

Q: 不確実性の軸が、うまく2つに絞れません。

A: 最初は、影響が大きそうな要素を、付箋などにたくさん書き出してみましょう。そして、それらをグルーピングしたり、因果関係を考えたりする中で、最も根源的で、影響の大きい2つの軸に集約していく、というプロセスが有効です。完璧な軸を選ぶことよりも、チームで議論するプロセスそのものに価値があります。

Q: 作成したシナリオが、ただの「絵に描いた餅」で終わってしまいそうです。

A: シナリオを「作りっぱなし」にしないことが重要です。各シナリオの「兆候(サイン)」をあらかじめ定義しておき、世の中のニュースやデータを見ながら、「今、我々はどのシナリオ世界に近づいているか?」を、定期的にチームで確認するのです。そうすることで、シナリオは、経営の意思決定に活かされる「生きたツール」になります。

Q: 小さな会社で、そんな壮大なことを考えるリソースがありません。

A: 半日でも、数時間でも構いません。経営陣や主要メンバーが集まり、外部の情報をシャットアウトして、「自分たちの未来」について、真剣に対話する時間を作ること自体が、非常に重要です。壮大な分析よりも、まずは「もしも…」を語り合う文化を作るところから始めてみてください。

筆者について

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