想定読者
- Z世代の部下や、若者向けのマーケティングを考えるビジネスパーソン
- 「推し活」という巨大な経済圏の熱量の源泉を知りたい方
- 自分自身、あるいは家族の「推し活」への情熱を、客観的に理解したい方
結論:「推し活」は、もはや趣味ではない。それは、貢献感、自己実現、他者との繋がりを実感できる、Z世代にとって最も合理的な「幸福」への投資である。
「同じCDを何十枚も買うなんて、理解できない」 「グッズやライブに、なぜあんな大金をつぎ込むんだろう?」
もし、あなたがそう感じているなら、それは「推し活」を、旧来の「趣味」や「アイドルの追っかけ」という物差しで測っているからかもしれません。
現代の「推し活」は、全く新しい次元の経済圏であり、Z世代を中心とした若者たちの、新しい"幸福"の形そのものです。彼らは、単にモノを所有する「モノ消費」や、体験を味わう「コト消費」を超え、**推しを応援し、その成長に貢献するという「イミ消費」**に、時間とお金を投資しているのです。
それは、不安定で、努力が必ずしも報われるとは限らない現代社会において、最も確実で、最もコストパフォーマンスの良い「幸福」を手に入れるための、極めて合理的な生存戦略とも言えるのです。
もはや「趣味」ではない。社会現象としての「推し活」
矢野経済研究所の調査によれば、2021年度の「オタク」市場17分野のうち、「アイドル」市場は前年度比で大幅にプラスになるなど、その規模は拡大を続けています。これは、単なる一部の熱狂的なファンの話ではなく、多くの若者にとって「推し活」が、生活の一部として定着していることを示しています。
彼らは、CDを「音楽を聴くため」だけに買うのではありません。CDに付随するイベント参加券や、応援の気持ちを「売上」という形で可視化するために買うのです。これは、消費の価値基準が、機能的価値から「情緒的価値」や「貢献価値」へと完全にシフトしている証拠です。
人が「推し」に大金を投じる5つの心理的メカニズム
メカニズム1:貢献実感と自己肯定感
「自分の1票が、推しの順位を上げた」「グッズを買うことが、次の活動に繋がる」。自分の応援が、目に見える形で推しの成功に貢献しているという実感は、何物にも代えがたい自己肯定感をもたらします。「自分は、誰かの役に立っている」という感覚です。
メカニズム2:コミュニティへの所属欲求
同じ「推し」を持つファン同士は、SNSやイベントを通じて繋がり、強い連帯感を育みます。そこでは、推しへの愛という共通言語で誰もが平等に語り合え、「いいね」や共感を通じて、強力な承認欲求が満たされます。
メカニズム3:自己実現とアイデンティティの投影
無名だった推しが、自分の応援でスターダムにのし上がっていく。そのプロセスは、まるで自分自身が成功していくかのような、強烈な自己実現の感覚を与えます。そして、「〇〇(推し)を応援している自分」というアイデンティティは、自己紹介のフックともなり、他者との差異化を図る記号としても機能します。
メカニズム4:予測可能な報酬と安心感
応援すれば、推しは新曲やSNSの更新、ライブといった「供給」で応えてくれます。この「行動すれば、報われる」という確実な報酬サイクルは、先行きの見えない現実世界と比べて、絶大な安心感と満足感を与えてくれます。
メカニズム5:パラソーシャル関係(一方的な親密さ)
ファンは、メディアを通じて推しの活動に触れる中で、まるで友人のように、あるいは家族のように、一方的でありながら親密な感情的な絆(パラソーシャル関係)を築きます。この絆が、応援行動をさらに加速させるのです。
【独自考察】なぜZ世代は「推し」に幸福を見出すのか?
この熱狂の背景には、Z世代が生きる現代社会の特性が深く関わっています。
不確実な時代と「確実な幸福」
良い大学に入り、大企業に就職すれば安泰、という時代は終わりました。将来への経済的な不安も大きい。そんな不確実な社会では、努力が必ずしも報われるとは限りません。一方で、「推し活」は、投じたお金や時間が、「推しの活躍」「コミュニティでの共感」「確実な供給」という形で、比較的すぐに、そして確実に報われます。これは、Z世代にとって、極めてコストパフォーマンスの良い「幸福追求」の形なのです。
SNSと「応援の可視化」
Z世代は、SNSネイティブです。自分の応援活動(購入したグッズ、イベントへの参加)は、SNSを通じて簡単に世界に発信され、「いいね」やコメントで承認されます。また、他者の熱心な活動も可視化されるため、「自分ももっと頑張らなくては」という良い意味での競争心や、「みんなでこのムーブメントを大きくしよう」という連帯感が、経済圏全体をさらに活性化させているのです。
「推し活」経済圏から、ビジネスが学ぶべきこと
この巨大な熱狂から、すべてのビジネスが学ぶべき点は数多くあります。
- ファンを「パートナー」として巻き込む: 顧客を単なる「お金を払う人」としてではなく、ブランドを共に育て、価値を広めてくれる「パートナー」として扱い、そのための仕組み(例:製品開発への意見募集、ファンミーティング)を用意する。
- 「意味」や「ストーリー」で共感を呼ぶ: 製品の機能的価値だけでなく、その背景にある開発者の想いや、ブランドが目指すビジョンといった「ストーリー」を語り、顧客が「応援する意味」を見出せるようにする。
- コミュニティを意図的に設計する: ファン同士が安全に交流し、情報交換し、熱量を高め合えるようなプラットフォーム(オンラインサロン、公式フォーラムなど)を設計し、提供する。
よくある質問
Q: 「推し活」と、昔の「おっかけ」とは何が違うのですか?
A: 対象への熱量は似ていますが、最大の違いは「双方向性」と「可視化」です。SNSの普及により、ファンは自分の応援を推し本人や他のファンに届けやすくなりました。また、クラウドファンディングのように、ファンの応援が直接的にプロジェクトを動かすことも可能になり、より「貢献実感」を得やすくなっています。
Q: 家族が「推し活」にハマりすぎて、生活が心配です。
A: まずは、頭ごなしに否定しないことが重要です。本人にとって、それが生きがいであり、大切なコミュニティである可能性を理解しようと努めましょう。その上で、金銭的な負担について心配していることを正直に伝え、月の予算を決めるなど、現実的なルールについて冷静に話し合うことが大切です。
Q: 「推し」が引退したり、不祥事を起こしたら、どうなるのですか?
A: ファンにとって、それは計り知れないショックであり、「推しロス」と呼ばれる深刻な喪失感に襲われることもあります。しかし、多くの場合、ファンコミュニティの仲間と悲しみを分かち合ったり、別の新しい「推し」を見つけたりすることで、時間をかけて乗り越えていきます。
Q: 企業が「推し活」を利用するのは、ファンの純粋な気持ちを「搾取」することになりませんか?
A: 非常に重要な論点です。企業がファンの熱狂を単なる金儲けの手段としか見ていない場合、それは「搾取」と見なされ、いずれファンは離れていきます。重要なのは、企業側も「推し」とファンへのリスペクトを持ち、ファンが投じたお金や時間が、確かに「推し」の未来に繋がっていると実感できるような、透明性の高い仕組みを構築することです。
筆者について
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