想定読者

  • 部下への指示の出し方に悩み、手戻りの多さに困っているマネージャー、リーダーの方
  • チームの生産性を向上させ、メンバーの自律的な行動を促したいと考えている方
  • 感覚的なマネジメントから脱却し、ロジカルなコミュニケーションを身につけたい方

結論:部下が動けないのは、能力の問題ではありません。あなたの「指示」という名のプログラムに、バグがあるのです。

「この件、いい感じによろしく頼む」 「なるべく早めに、この資料まとめておいて」

よかれと思って出した指示が、なぜか期待通りの成果物として上がってこない。部下の能力を疑う前に、一度、ご自身の「指示の出し方」を振り返ってみる必要はないでしょうか。

プログラミングの世界では、コンピューターは曖昧な指示では一切動いてくれません。「何を(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」といった要件を、1から10まで正確に定義して初めて、期待通りの結果を返してくれます。実は、これは人間社会のマネジメントにおいても、全く同じことが言えるのです。

部下が期待通りに動いてくれない時、その多くは、部下の能力ややる気の問題ではありません。あなたの指示が、目的も仕様も曖昧な「バグだらけのプログラム」になっている可能性が高いのです。この記事では、プログラミング思考、特に「要件定義」の考え方をマネジメントに応用し、チームの生産性を劇的に向上させるための、具体的で再現性のある指示の出し方を解説します。

なぜ、あなたの指示は部下に「正しく」伝わらないのでしょうか?

曖昧な指示は、チームにとって「百害あって一利なし」と言っても過言ではありません。

手戻りの発生による、生産性の低下

指示が曖昧なため、部下は推測で作業を進めるしかありません。結果として、あなたの意図とズレた成果物ができあがり、「そうじゃないんだよな…」という一言で、部下の費やした時間と労力は無駄になります。この手戻りこそが、チームの生産性を蝕む最大の要因です。

部下のモチベーション低下と、指示待ち人間の発生

何度も手戻りを経験した部下は、やがて「どうせやり直すなら、言われたことだけやろう」「自分で考えるだけ無駄だ」と感じるようになります。曖昧な指示は、部下の主体性を奪い、思考停止した「指示待ち人間」を生み出す温床となるのです。

プログラミング思考に学ぶ「伝わる指示」の3大要素

良い指示とは、プログラミングにおける「良い要件定義」と同じです。最低でも、以下の3つの要素を含んでいる必要があります。

1. 目的(Why):なぜ、この作業が必要なのか

人は、その作業の「意味」や「目的」を理解して初めて、主体的に動くことができます。「誰のために」「何のために」この作業が必要なのかを伝えることで、部下は単なる作業者ではなく、目的達成のための当事者として、より質の高いアウトプットを出そうと努力します。

2. 成果物(What):何を、どのような形で作るのか

「資料」と言っても、WordなのかPowerPointなのか、箇条書きなのかグラフなのかで、全く別物になります。期待するアウトプットの具体的なイメージ(フォーマット、構成、品質レベルなど)を明確に定義し、可能であれば見本を示すことが、認識のズレを防ぐ上で極めて重要です。

3. 制約条件(How):どのようなルールや条件の下で行うのか

納期、予算、使用するデータ、参考にするべき資料、相談すべき相手など、作業を行う上での「制約」や「ルール」を明確に伝えます。この制約条件が、部下が道に迷わないための「ガードレール」の役割を果たします。

明日から使える「マネジメント要件定義」5つのステップ

ステップ1:【目的の共有】このタスクの「背景」と「ゴール」を伝える

  • 悪い例:「このアンケート、集計しといて」
  • 良い例:「次の商品開発会議で、顧客のニーズを正確に把握するために、このアンケート結果が必要です。最終的には、A商品とB商品のどちらを優先開発するかの判断材料にします」

ステップ2:【成果物の定義】期待するアウトプットの「見本」を示す

  • 悪い例:「分かりやすくグラフにしといて」
  • 良い例:「添付した先月の報告書にある、円グラフと棒グラフの組み合わせのような形でお願いします。特に、20代女性の回答を強調して見せたいです」

ステップ3:【制約条件の明示】「納期」と「品質」の基準を伝える

  • 悪い例:「なるべく早く、いい感じで」
  • 良い例:「明日の15時までに、まずはドラフト版をください。完璧じゃなくていいので、全体の構成が分かるレベルで大丈夫です」

ステップ4:【担当者の明確化】「誰が」「何を」やるのかを定義する

  • 悪い例:「みんなで協力して、このイベント準備よろしく」
  • 良い例:「会場の手配と連絡はAさん、告知物の作成はBさん、当日の司会はCさんにお願いします。全体の進捗管理は私が責任を持ちます」

ステップ5:【質疑応答】最後に「何か質問は?」で認識を合わせる

指示を一方的に伝えて終わりにするのではなく、必ず最後に「この進め方で、何か分からないことや、やりにくいことはありますか?」と問いかけ、双方向のコミュニケーションで認識のズレを完全に埋めることが重要です。

よくある質問

Q: そこまで細かく指示すると、部下が自分で考えなくなるのでは?

A: 重要なのは、「What(何を)」と「Why(なぜ)」は明確に伝え、「How(どうやるか)」の部分は、ある程度部下の裁量に任せることです。目的とゴールさえ共有できていれば、そこに至る道筋は部下の創造性に任せることで、主体性を育むことができます。マイクロマネジメントと、明確な要件定義は全くの別物です。

Q: 緊急の仕事で、細かく指示している時間がありません。

A: 緊急時であるならば尚更、最初の指示が重要になります。5分でも良いので、目的とゴール、そして最低限の制約条件だけでも明確に伝えることで、結果的に手戻りがなくなり、トータルの時間は短縮されるはずです。「急がば回れ」は、マネジメントにおいても真理です。

Q: 指示した通りにしかやらない、応用力のない部下にはどうすれば?

A: もしかしたら、それは過去の曖昧な指示によって、彼(彼女)が「自分で考えても無駄だ」と学習してしまった結果かもしれません。まずは、この記事で紹介したような明確な指示を徹底し、「目的の範囲内であれば、君のやり方を尊重する」というメッセージを伝え続けることで、少しずつ信頼関係を再構築していく必要があります。

Q: そもそも「要件」を定義する私自身が、何をすべきか分かっていません。

A: それはマネージャーとして、最も真摯に向き合うべき課題です。もしゴールが明確でないなら、そのタスクを指示する前に、さらに上の上司に「この仕事の目的と、期待されている成果物は何か」を明確に確認すべきです。マネージャーが霧の中にいれば、チーム全体が遭難してしまいます。

筆者について

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