想定読者

  • 部門間の連携不足や、手戻りの多さに悩んでいる経営者
  • チーム全体の業務効率と品質を向上させたいリーダー
  • 自らの仕事の付加価値を根本から見直したいビジネスパーソン

結論:良い仕事とは、リレーのバトンパスを最適化する行為である

ビジネスにおける仕事の本質は、個々のタスクの完了ではなく、組織全体の目的を達成するための、一連の連携したプロセスです。良い仕事とは、このプロセスの中で、自分の工程から次の工程へ、最もスムーズで、最も受け取りやすい形で成果物というバトンを渡す行為に他なりません。この意識こそが、組織の生産性を最大化し、個人の信頼を構築するのです。

なぜ、あなたの仕事は「そこで終わり」になってしまうのか?

「自分の仕事は完了した」という思考の罠

多くのビジネスパーソンは、自らに割り当てられたタスクが完了した瞬間、その仕事は終わりだと認識します。資料が完成した、プログラムのコーディングが終わった、営業先からの受注が決まった。その時点で、達成感と共に、その仕事に対する責任感もまた、そこで完結してしまいがちです。

しかし、組織という観点から見れば、それは全くの誤りです。あなたの仕事の完了は、決してゴールではありません。それは、リレーにおける次走者へのバトンパスの瞬間に過ぎないのです。あなたが作成した資料は、次の会議での意思決定に使われます。あなたが書いたコードは、次のテスト工程へと引き継がれます。あなたが獲得した受注情報は、製造部門やカスタマーサポート部門の業務の起点となります。このプロセスの連続性に対する想像力の欠如こそが、組織内に無数の非効率とトラブルを生み出す、根本的な原因なのです。

組織を蝕む「サイロ化」という病

この近視眼的な思考が組織全体に蔓延すると、サイロ化と呼ばれる深刻な問題を引き起こします。サイロ化とは、組織内の各部門やチームが、まるで農場に立つ独立したサイロ(貯蔵庫)のように、互いに連携することなく、孤立して業務を遂行する状態のことです。

サイロ化した組織では、従業員は自分の部門の目標達成のみを追求し、組織全体の目標に対する意識が希薄になります。情報の共有は行われず、部門間の利害が対立し、協力よりも縄張り意識が優先されます。自分の仕事が完了すれば、それが次の工程にどのような悪影響を及ぼすかを顧みない。この部分最適の積み重ねが、組織全体の生産性を著しく低下させ、顧客への価値提供を阻害する、極めて危険な状態なのです。

見えないコスト:「手戻り」と「調整」という名の時間浪費

次の担当者のことを考えずに作られた成果物は、必ずと言っていいほど、手戻り調整という、極めて非生産的な時間を発生させます。

「このデータの定義が分からないので、教えてください」
「このフォーマットでは、次のシステムに取り込めないので、修正してください」
「そもそも、この資料の目的は何でしたっけ?」

これらの確認や修正作業に費やされる時間は、本来であれば、もっと付加価値の高い活動に使われるべき時間です。そして、この調整コストは、多くの場合、公式な業務時間として計測されることなく、担当者間の見えない負担としてのしかかります。これが積み重なることで、組織の生産性は著しく低下し、従業員のモチベーションは削がれ、部門間の関係性も悪化していくのです。

「次の工程は顧客である」という思考法

この問題を根本から解決するための、極めて強力な思考法があります。それは、製造業の品質管理の世界で生まれた、次の工程は顧客であるという考え方です。

仕事の成果物を「製品」として捉える

この思考法の本質は、自分の仕事のアウトプットを、単なる作業の完了物ではなく、次の担当者という社内の顧客に納品する製品として捉え直すことです。

顧客に製品を納品する時、私たちは何を考えるでしょうか。その製品は、顧客が使いやすいか、マニュアルは分かりやすいか、期待されている品質を満たしているか。これらの視点を、社内のすべての業務に適用するのです。あなたが作成する報告書、あなたが送る一本のメール、あなたが行う一つの設定作業。そのすべてが、次の担当者という顧客にとって、最高の品質を持つ製品でなければならないのです。この内部顧客という視点を持つことで、仕事の基準は劇的に変わります。

信頼は「インターフェース」で生まれる

組織内の業務プロセスは、個々のタスクというと、それらを繋ぐで構成されています。そして、サイロ化が引き起こす問題のほとんどは、タスクそのものではなく、タスクとタスクの繋ぎ目、すなわちインターフェースで発生します。

「次の担当者が楽になる仕事」とは、このインターフェースを、可能な限りスムーズで、摩擦のないものへと設計する行為です。あなたの仕事の品質は、あなたのアウトプットを受け取った次の担当者が、一切の疑問やストレスなく、スムーズに自分の仕事を開始できたかどうかによって測られるのです。この円滑なバトンパスの積み重ねこそが、部署や役職を超えた、プロフェッショナルとしての信頼を構築するのです。

システム思考:部分最適の罠から抜け出す

自分の担当業務や部門の効率だけを追求する思考を部分最適と呼びます。一方で、自分の行動がシステム全体にどのような影響を与えるかを考える思考をシステム思考と呼びます。

「次の工程は顧客である」という考え方は、私たちをこの部分最適の罠から救い出し、システム思考へと導いてくれます。たとえ自分の作業に少し余計な時間がかかったとしても、その一手間が、次の工程の作業時間を大幅に短縮し、結果として組織全体のリードタイムを短縮するのであれば、それは全体最適の観点から見て、極めて正しい判断です。この視点の転換が、組織の生産性を飛躍的に向上させる鍵となります。

次の担当者を楽にする、3つの具体的技術

では、具体的にどのような行動が、次の担当者を楽にするのでしょうか。ここでは、明日から実践できる3つの技術を紹介します。

技術1:再現性の担保:「テンプレート」と「チェックリスト」

あなたの仕事のアウトプットが、毎回異なるフォーマットや粒度で作られていたとしたら、次の担当者は、それを受け取るたびに、まずその解読から始めなければなりません。この無駄をなくすために、繰り返し発生する業務については、テンプレートチェックリストを作成し、標準化することが極めて有効です。

これにより、アウトプットの品質が安定し、次の担当者は、常に予測可能な形で情報を受け取ることができます。これは、業務の再現性を担保し、属人化を防ぐ、組織としての重要なリスク管理でもあります。

技術2:意図の伝達:「なぜ」を共有するコミュニケーション

成果物を渡す際に、そのアウトプットだけでなく、なぜ、このアウトプットがこの形になったのかという、その背景にある目的や思考のプロセスを、簡潔に申し送ることが重要です。

この背景情報があることで、次の担当者は、単なる作業者ではなく、目的を共有するパートナーとして、より主体的に業務に取り組むことができます。万が一、予期せぬ問題が発生した場合でも、目的を理解していれば、独断で誤った判断を下すことなく、適切な対応を取ることが可能になります。

技術3:相手の視点に立つ:「セルフレビュー」の習慣

成果物を完成させたら、すぐに次の担当者に渡すのではなく、一度、自分が次の担当者だったらという視点に立って、セルフレビューを行う習慣を持ちます。

「この資料を受け取ったとして、疑問に思う点はないか?」
「このデータを見ただけで、次に行うべき作業は明確に分かるか?」
「専門用語を使いすぎて、分かりにくくなっていないか?」

この客観的な視点での見直しが、相手の立場に立った、真に親切な仕事を生み出すのです。

「リレーの文化」を組織に根付かせるリーダーシップ

この「次の工程を考える」文化は、リーダーの意図的な働きかけなくして、組織に定着することはありません。

プロセスの可視化:全体像の共有

従業員が次の工程を意識するためには、その前提として、プロジェクトや業務の全体像が見えている必要があります。リーダーは、カンバンボードやプロセスマップといったツールを活用し、業務全体の流れと、各担当者の位置づけを可視化する責任があります。自分がリレーのどの区間を走っているのかが分かって初めて、次の走者への最適なバトンパスを意識できるようになるのです。

評価制度の再設計:協力行動の奨励

個人成果主義に偏った評価制度は、サイロ化を助長します。リーダーは、個人の業績だけでなく、次の工程への貢献度や、プロセス改善への貢献といった、チームワークを促進する項目を、正式な評価制度に組み込むことを検討すべきです。何が評価されるかが、従業員の行動を規定します。

リーダー自身が最高の「前工程」であれ

最終的に、組織の文化はリーダーの行動の鏡です。リーダーが部下に仕事を依頼する際、その指示が曖昧で、目的も不明確で、必要な情報も不足している。そんな質の低いバトンパスをしていては、部下が次の工程を考えるようになるはずがありません。

リーダー自らが、部下という次の工程の担当者が、最もスムーズに、そして最高のパフォーマンスで仕事を開始できるよう、完璧に準備された状態で仕事を依頼する。リーダーが最高の前工程として振る舞うこと。それこそが、組織にリレーの文化を根付かせるための、最も強力なメッセージとなるのです。

よくある質問

Q: 忙しくて、次の担当者のことまで考える余裕がありません。

A: その考え方こそが、組織全体の忙しさを生み出している元凶かもしれません。初期段階であなたが少しだけ時間を投資し、質の高いバトンパスを行うことで、後工程で発生するであろう、より大きな手戻りや調整の時間を未然に防ぐことができます。これは、長期的に見て、あなた自身の仕事をも楽にする、最も効果的な時間の使い方です。

Q: 次の担当者が無能で、どれだけ丁寧に準備しても無駄に感じます。

A: その場合でも、あなたのプロフェッショナルとしての基準を下げるべきではありません。完璧な状態でバトンを渡すことで、問題の所在が、前工程であるあなたではなく、次工程の担当者にあることが明確になります。これは、組織が適切な人員配置や教育を検討するための、客観的なデータを提供することにも繋がります。

Q: 自分の仕事の「次の工程」が誰なのか、よく分かりません。

A: それは、組織のプロセスが可視化されていないという、マネジメント上の問題です。まずは、あなたの上司に、「私のこの仕事は、次に誰のどのような業務に繋がるのでしょうか?」と質問することから始めましょう。

Q: この考え方は、創造的な仕事にも当てはまりますか?

A: はい、当てはまります。例えば、デザイナーが作成したデザインデータを、次に受け取るエンジニアが、意図を正確に理解し、スムーズに実装できるような形で整理して渡す。あるいは、企画者が考えたアイデアを、その背景にある思考プロセスや調査データと共に、開発チームに共有する。どのような仕事にも、必ず次の工程が存在します。

Q: 次の担当者から、感謝の言葉がなくても続けるべきですか?

A: はい、続けるべきです。あなたの仕事の基準は、他者からの感謝によって左右されるべきではありません。それは、あなた自身のプロフェッショナルとしてのプライドの問題です。ただし、感謝や協力を奨励する文化が組織に欠けているのであれば、それはリーダーが解決すべき別の課題です。

Q: 自分の仕事だけで手一杯なのに、他部署の仕事まで手伝うことになるのでは?

A: この考え方は、他部署の仕事を手伝うということではありません。あくまで、自分の担当業務のアウトプットの品質を、次の担当者の視点に立って最大化する、ということです。責任範囲を越えるものではありません。

筆者について

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