想定読者
- 部下の主体性のなさに悩んでいる経営者
- リーダーシップの発揮に行き詰まりを感じているマネージャー
- 組織のNo.2として、リーダーをどう支えるべきか考えているビジネスパーソン
結論:フォロワーシップとは、組織目標を達成するための自律的な貢献能力である
フォロワーシップとは、単なるリーダーへの従属や指示待ちの姿勢ではありません。それは、組織全体の目標達成という大目的のために、リーダーに対して主体的かつ建設的に関与し、自らの能力をもって支援・提言する自律的な能力のことです。リーダーシップとフォロワーシップは相互に機能して初めて、組織の推進力を最大化します。
リーダーシップ論の死角:「フォロワー」の重要性
なぜリーダーシップだけでは組織は機能しないのか?
世の中には、リーダーシップに関する書籍やセミナーが溢れています。強力なビジョンを掲げ、チームを牽引する理想のリーダー像。多くの経営者やマネージャーが、そうしたリーダーになるべく努力を重ねています。しかし、ここで一つの重要な視点が抜け落ちています。それは、リーダー一人では何も成し遂げられないという厳然たる事実です。
どれほど優れたリーダーであっても、そのビジョンを実現し、日々の業務を遂行するのは、リーダー以外のメンバー、すなわちフォロワーです。組織の成果とは、リーダー一人の能力で決まるのではなく、リーダーシップとフォロワーシップの掛け算によって決まります。もし、リーダーの能力が100であっても、フォロワーたちの能力や貢献意欲がゼロであれば、組織全体の成果もゼロなのです。
私たちは、リーダーシップとフォロワーシップを、支配する側とされる側、といった対立的な関係で捉えがちです。しかし、これは根本的な誤りです。両者は、組織の目標達成という共通の目的に向かうための、相互補完的な役割に過ぎません。車の両輪のように、どちらか一方だけでは組織は真っ直ぐに進むことすらできないのです。
フォロワーシップとは何か?従順さとの決別
フォロワーシップという言葉を聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、リーダーの指示に忠実に従う従順な部下の姿かもしれません。しかし、それはフォロワーシップの本質ではありません。むしろ、思考停止のイエスマンや指示待ち人間は、組織にとって極めて有害な存在です。
現代のフォロワーシップ理論の基礎を築いたカーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授は、フォロワーシップを組織の目標達成に向けて、リーダーを補佐し、自律的に思考し、主体的に貢献する能力と定義しました。
ここでの重要なポイントは、自律的かつ主体的という部分です。真のフォロワーは、リーダーの決定を鵜呑みにせず、それが本当に組織の目標達成に貢献するのかを自らの頭で考えます。そして、もしリーダーの判断に誤りや見落としがあると考えれば、それを指摘し、代替案を提言する勇気と責任感を持ち合わせています。これは、単なる受動的な部下ではなく、組織の目標達成責任をリーダーと共有する、能動的なパートナーとしての姿勢です。
優秀なフォロワーの5つの類型:ケリー教授のモデル
ロバート・ケリー教授は、フォロワーの行動特性を2つの軸で分析し、5つの類型に分類しました。このモデルは、自社の従業員がどのタイプに当てはまるかを客観的に把握し、適切な育成策を考える上で非常に有効です。
フォロワーシップを構成する2つの軸
一つ目の軸は、縦軸で示される批判的思考(Critical Thinking)です。これは、リーダーの指示や方針を無批判に受け入れるのではなく、自らの頭でその妥当性やリスクを考え、建設的な意見を持つ能力を指します。
二つ目の軸は、横軸で示される積極的関与(Active Engagement)です。これは、組織の目標達成のために、指示された以上の貢献をしようとする主体的・能動的な姿勢を指します。
この2つの軸の強弱によって、フォロワーは以下の5つのタイプに分類されます。
- 模範的フォロワー(Exemplary Follower)
批判的思考と積極的関与の両方が高い、最も理想的なフォロワーです。彼らは、リーダーのビジョンを深く理解した上で、その実現に向けて主体的に行動します。リーダーの決定に疑問があれば、組織をより良くするための建設的な提言や異論を唱えることを恐れません。リーダーの強みを最大限に活かし、弱点を的確に補完する、まさにリーダーの右腕と呼べる存在です。 - 順応的フォロワー(Conformist Follower)
積極的関与は高いものの、批判的思考が低いタイプです。一般的にイエスマンと呼ばれるのがこの類型です。彼らはリーダーの指示に忠実で、熱心に働きます。しかし、自ら考えることをしないため、リーダーが誤った方向に進もうとしても、それを止めることができません。リーダーにとっては扱いやすい存在かもしれませんが、組織全体としては思考停止のリスクをはらんでいます。 - 孤立型フォロワー(Alienated Follower)
批判的思考は高いものの、積極的関与が低いタイプです。組織やリーダーに対する不満や問題点を鋭く指摘しますが、自らがそれを解決するために行動しようとはしません。皮肉屋で、会議の場ではもっともらしい批判ばかりを繰り返すため、評論家と揶揄されることもあります。彼らの持つ高い分析能力が、組織への貢献に向けられていない、非常にもったいない状態です。 - 消極的フォロワー(Passive Follower)
批判的思考と積極的関与の両方が低いタイプです。彼らは、自ら考えて行動することを徹底的に避け、指示された最低限の業務しか行いません。責任を負うことを嫌い、組織への帰属意識も希薄です。組織にとっては、給与分の働きすらしていない可能性が高い、最も生産性の低い存在です。 - 実務型フォロワー(Pragmatist Follower)
上記4つのタイプのちょうど中間に位置し、状況に応じて態度を変える現実主義者です。彼らは、組織の現状を冷静に観察し、大きなリスクを冒すことを嫌います。現状維持を好み、変化に対しては慎重な姿勢を取るため、組織の安定には貢献しますが、変革の推進力にはなりにくいタイプです。
組織の「フォロワーシップ」をいかに育成するか?
経営者の役割は、組織内の順応型や孤立型、消極型のフォロワーを、いかにして模範的フォロワーへと育成していくか、その環境を設計することにあります。
「評論家」と「イエスマン」を「模範的フォロワー」に変える
多くの組織が抱える課題は、孤立型フォロワー(評論家)と順応的フォロワー(イエスマン)の扱いです。彼らを模範的フォロワーに転換させるには、それぞれ異なるアプローチが必要です。
孤立型フォロワーに対しては、彼らの持つ批判的思考能力を公式に認め、尊重することが第一歩です。彼らの批判を単なる不満として退けるのではなく、具体的な課題として取り上げ、その解決プロジェクトのリーダーに任命するなど、行動する責任と権限を与えます。彼らの高い分析能力を、具体的な貢献へと方向付けることで、積極的関与の度合いを高めることができます。
順応的フォロワーに対しては、批判的思考を促す訓練が必要です。リーダーからの指示に対して、なぜ、この業務が必要だと思うか?、この進め方以外に、もっと良い方法はないだろうか?といった問いかけを繰り返し、本人に考えさせる習慣をつけさせます。また、小さな失敗を許容し、自らの意見を表明しても決して罰せられないという心理的安全性を確保することが不可欠です。
リーダー自身の行動がフォロワーシップを規定する
結局のところ、どのようなフォロワーが育つかは、リーダー自身の行動に大きく依存します。フォロワーは、リーダーの行動を映す鏡なのです。
リーダーが情報を独占せず、会社の現状や意思決定の背景をオープンに共有すれば、フォロワーは組織全体の視点から物事を考えるようになり、批判的思考が育ちます。リーダーが部下の意見に真摯に耳を傾け、異論や提言を歓迎する姿勢を示せば、フォロワーは安心して発言できるようになり、積極的関与が高まります。リーダーがフォロワーを信頼し、権限を委譲すれば、フォロワーは当事者意識を持ち、自律的に行動するようになります。フォロワーシップの育成は、リーダーの自己変革から始まるのです。
リーダーがフォロワーに本当に求めるべき2つの貢献
優れたリーダーは、フォロワーに対して単なる業務遂行以上の、より本質的な2つの貢献を求めます。
貢献1:リーダーの弱点を補完すること
この世に完璧な人間が存在しないように、完璧なリーダーも存在しません。リーダーには必ず強みと弱み、得意な領域と不得手な領域があります。優秀なフォロワーは、リーダーの弱点を客観的に認識し、それを非難するのではなく、自らの強みで補完しようと主体的に行動します。
例えば、ビジョンを描くのは得意だが、緻密な計画立案が苦手なリーダーには、計画性に優れたフォロワーが必要です。アイデアは豊富だが、実行力が不足しているリーダーには、行動力のあるフォロワーが必要です。経営者は、自分と似たタイプの人間ばかりを集めると、組織の弱点が偏り、リスク対応能力が著しく低下することを認識すべきです。自分とは異なるタイプの、耳の痛いことを言ってくれるフォロワーを側に置く勇気が、組織の持続的成長には不可欠です。
貢献2:勇気ある提言と異論を唱えること
リーダーが重大な判断ミスを犯しそうになった時、あるいは組織の倫理観や社会的な規範から逸脱した行動を取ろうとした時に、勇気を持ってそれは間違っていますと異を唱えること。これは、フォロワーが果たすべき最も重要かつ困難な責務です。
これは単なる反抗ではありません。リーダー個人と、組織全体を、取り返しのつかない失敗から守るための、極めて誠実な貢献です。心理学でいう集団思考(Groupthink)、すなわち同調圧力が強い組織では、誰もがリーダーの誤りに気づいていながら、それを指摘できずに全員で破滅に向かうという悲劇が起こり得ます。健全な異論が存在することこそが、組織が健全である証なのです。
よくある質問
Q: リーダーシップとフォロワーシップ、どちらがより重要ですか?
A: どちらが重要かという問い自体が適切ではありません。両者は組織の目標達成という目的を共有する、異なる役割に過ぎません。車の右輪と左輪のように、どちらか一方だけでは機能せず、両方が揃って初めて組織は前に進むことができます。
Q: 自分自身がフォロワーの立場として、リーダーをどう支えれば良いですか?
A: まず、リーダーのビジョンや目標を深く理解することです。その上で、リーダーの指示の背景を考え、より良くするための提案を行う姿勢が重要です。また、リーダーの弱点を補完できる自分の強みは何かを考え、それを積極的に発揮することが求められます。
Q: 部下が評論家ばかりで、行動してくれません。
A: 彼らの批判的な意見の中に、組織の課題解決に繋がるヒントがないか、まずは真摯に耳を傾けてみてください。その上で、彼らに具体的な課題解決の役割と責任を与えることで、批判を行動に繋げるよう促すことが有効です。
Q: リーダーである私自身に問題があるのかもしれないと感じています。
A: そのように内省できること自体が、優れたリーダーである証拠です。部下の行動は、あなたのリーダーシップの鏡です。もし部下に主体性がないと感じるなら、自分が権限を委譲してこなかったのではないか、と振り返ってみることが第一歩です。
Q: フォロワーシップは生まれつきの性格で決まるのではないですか?
A: 性格的な傾向は確かにあるかもしれませんが、フォロワーシップは後天的に開発できる能力です。特に「批判的思考」は、訓練によって誰でも高めることができます。重要なのは、そのような思考が奨励され、評価される組織文化を作ることです。
Q: 小さな会社でもフォロワーシップは重要ですか?
A: むしろ、経営者と従業員の距離が近い小さな会社ほど、フォロワーシップの重要性は高まります。一人ひとりの従業員が、経営者のパートナーとして主体的に考え、行動することが、組織全体のパフォーマンスに直結するからです。
Q: 優秀なフォロワーがリーダーを追い越してしまうことはありませんか?
A: それは組織にとって非常に望ましい事態です。優秀なフォロワーが育ち、次世代のリーダーとなることで、組織は持続的に成長できます。経営者の役割は、自分を追い越していくような優秀な人材を育成することにある、と考えるべきです。
筆者について
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