この記事について

安くても売れない!価格設定のお話をしてみようと思います。

価格設定は、プロダクト開発において最も重要でありながら、最も複雑な要素の一つです。多くの開発者や起業家が「安くすればたくさん売れる」と考えがちですが、実際にはそう単純ではありません。今回は、私のスプレッドサイトの実例を交えながら、価格設定の本質について深掘りしていきます。

SpreadSiteの価格戦略

私のスプレッドサイトでは月1480円のサブスクリプションという価格設定をしております。プラス、フリープランも用意しています。これはフリーミアムモデルと言って、無料で使えるけどもっと良い機能や多い機能を使う場合は有料プランに移行してもらう、という価格体系です。

この1480円という価格は、決して偶然決まった数字ではありません。競合分析、価値提供の検証、収益モデルの構築など、様々な要素を考慮して導き出された戦略的な価格です。

価格設定について、SpreadSiteの1480円がどんなことを考えて出した値段かも交えながら話してみます。

価格設定の基本原則:高すぎても低すぎてもダメ

まず、価格は高すぎても低すぎてもダメです。

高すぎる場合の問題点

当たり前ですが、高すぎると価値に対して価格が見合っていないということで、当然売れませんし、価格を上げれば上げるほど、お客さんの数というのは基本的には減ります。これは需要と供給の基本的な法則で、価格が上がると需要は下がります。

ただし、高価格戦略が必ずしも悪いわけではありません。高価格により以下のメリットもあります:

  • ブランド価値の向上: 高価格は品質の高さを暗示します
  • 利益率の向上: 少ない顧客でも高い利益を確保できます
  • ターゲットの明確化: 真剣な顧客のみを獲得できます
  • サポートコストの削減: 価格が高いと軽率な購入が減ります

低すぎる場合の問題点

一方で低すぎるとどうなるかというと、まず儲からないということが一番です。また、後で詳しく話しますが、価格が低すぎると、そもそも売れないというパターンがあります。なので高すぎても低すぎてもダメです。

低価格の問題は単純に利益が少ないだけではありません:

  • 品質への疑問: 「安かろう悪かろう」の先入観
  • ブランド価値の毀損: 安価なイメージが定着
  • 価格改定の困難: 後から値上げするのは非常に困難
  • サポートコストの増大: 安価な顧客ほど要求が多い傾向
  • 競合との価格競争: 値下げ合戦に巻き込まれるリスク

あえて最安値を選ばなかった理由

スプレッドサイトは業界最安値にしようと思えばできました。大体800円くらいになるでしょうか、もう少し安いかもしれません。しようと思えばできましたが、あえてしていません。

WixやSTUDIOといった競合ツールの一番人気とされている価格よりも下げることも、しようと思えばできましたが、あえてそうはしていません。

価値に対しての適正価格を設定

なぜかというと、価値に対しての価格を出したいからです。私の意識としては、価値がこのぐらいあるというのを伝えたいことと、安さで選ばれる必要がない、安さで選んでほしくないというのもあります。

価格は単なるコストの指標ではなく、価値の表現でもあります。SpreadSiteが提供する価値を考えた時に:

  • 時間の節約: 従来なら何日もかかるWebサイト制作が数時間で完了
  • 技術的専門知識の不要: プログラミング知識なしでプロ級のサイトが作成可能
  • 継続的なメンテナンス: セキュリティアップデートやバグ修正を自動実行
  • カスタマーサポート: 技術的な質問に対する迅速な対応

これらの価値を総合すると、1480円という価格は決して高くないと考えています。

安さ競争からの脱却

安さで売るというのは、安いから使ってという、見せるところが価値ではなく値段なんです。(ちょっと伝わりづらかったらすみません)

価格競争に陥ると、以下のような悪循環が生まれます:

  1. 競合も値下げ: 価格競争が激化
  2. 利益の圧迫: サービス品質の低下
  3. ブランド価値の低下: 「安いサービス」として認知
  4. 顧客の質の低下: 価格重視の顧客が増加
  5. イノベーションの停滞: 開発投資の余裕がなくなる

もちろん値段で買う層(安けりゃなんでも良い)も一定数いますが、そうではない層に向けてサービスとして届けるということで、スプレッドサイトのブランド価値を高めるということを意図しています。というのが、一つの決め方です。

安すぎると逆に売れないパターン

そして安くしてはいけない理由として、先ほど話したような安すぎると逆に売れないパターンがあります。安すぎると、あまりいいサービスではないのではないかという先入観であったり、潜在意識と言ってもいいと思いますが、こういうのが働きます。

価格が品質の指標になる心理

皆さんも、1万円のコース500円のコース、どちらを食べたいですかと言われたら、買えるか買えないかは別として、1万円の方が美味しそうな気がしますよね。

これは行動経済学でいう「価格品質推論」という現象です。消費者は価格を品質の指標として使用する傾向があります。特に:

  • 経験財: 実際に使ってみないと品質がわからない商品
  • 信頼財: 使った後でも品質の評価が困難な商品
  • 複雑な商品: 技術的な仕様が理解困難な商品

ソフトウェアサービスは、これらすべての特徴を持っています。

極端な例:100万円のかき氷

もっと極端な話で言うと、100万円のかき氷などと言われたらなんか凄そうじゃないですか?そんなのがあったら不思議ですが(笑)、気になってしまいますよね。

実際に、高級レストランでは以下のような心理的効果を狙った価格設定が行われています:

  • アンカリング効果: 最初に見た価格が基準となる
  • 希少性の演出: 高価格により特別感を創出
  • ステータスシンボル: 高価格商品の所有による自己実現

プレゼントの価格心理

というのが価格の魅力というか不思議なところで、なぜか高いと価値があるのではないかという(本来逆であるはずの)錯覚も入ってきます。(この辺を悪用すると詐欺につながります...)

逆も然りで、いくら良いものであっても300円のものをプレゼントには買わなくないですか? バレンタインでGODIVAのチョコをもらったとして、そのお返しに「世界一うまい300円のクッキー」みたいなものを返すかと言われると、少し迷いませんか?

味が他の数千円のクッキーより美味しかったとしても、つまり、品質は高かったとしてもです。

これは社会的な価値と経済的価値の関係を示しています。プレゼントの価格は:

  • 相手への敬意: 高価格は相手を大切に思う気持ちの表現
  • 社会的地位: 経済的余裕の証明
  • 関係性の深さ: 投資した金額が関係の重要度を示す

価格が価値を決定する側面

というのが安すぎると良くないという理由のイメージです。

要するに何が言いたいかというと、価格が価値を決めている側面もあるというところです。

認知的不協和の解消

消費者は価格と品質に矛盾を感じると、無意識にその矛盾を解消しようとします:

  • 高価格 → 高品質: 「高いから良いものに違いない」
  • 低価格 → 低品質: 「安いから品質も相応だろう」

この心理的メカニズムを理解して価格設定を行うことが重要です。

ブランド価値との連動

価格はブランド価値と密接に関連しています:

  • プレミアム価格: 高品質・高価値ブランドのポジショニング
  • バリュー価格: コストパフォーマンス重視のポジショニング
  • エコノミー価格: 基本機能重視のポジショニング

SpreadSiteは「プレミアム価格」戦略を採用し、高品質なWebサイト構築サービスとしてのブランドポジションを確立しようとしています。

サービス継続のための現実的な価格設定

あとは、ここはすごく現実的というか、皆さんの嬉しい話なのですが、安すぎるとやはりサービスが回りません

個人開発者の生活費シミュレーション

個人開発だけで食べていこうとした時に、100円のものを売って生活しようと思ったら、仮に生活費20万円だとしたら2000人に売らないといけません。

しかもそこからサーバー費等経費が差し引かれていくとなると、もう少し多くの人に売らなければいけません。2000人です。2000人に売ってやっと20万円の売上です。生活の軸にするならばこれは地獄ですよね。

より詳細な計算をしてみましょう:

月額100円サービスの場合

  • 目標売上:20万円
  • 必要顧客数:2,000人

月額1,000円サービスの場合

  • 目標売上:20万円
  • 必要顧客数:200人

月額1,480円サービス(SpreadSite)の場合

  • 目標売上:20万円
  • 必要顧客数:135人

この差は歪然です。135人の満足度の高い顧客を獲得することと、2,000人の顧客を獲得することでは、難易度が全く異なります。

運営コストの現実

なので、そういった自分の生活費とかサービスの運営費、サーバー代、諸々の経費を確保するというのを念頭に置くと、安すぎるのは良くないです。(お金が尽きると、サービス終了です)

顧客からの信頼性

見る人によっては(特に経営者)、「480円で1年サポートします!」みたいなことをやっていたら、「本当に大丈夫なのか?このサービスは」と心配されます。この例ではもはや不信感につながります。

低価格による信頼性の問題:

  • 持続可能性への疑問: 「そんな価格でサービスを継続できるのか?」
  • 品質への懸念: 「安すぎるということは、どこかで手を抜いているのでは?」
  • サポート体制への不安: 「困った時にちゃんと対応してもらえるのか?」
  • 企業の安定性: 「すぐにサービス終了するのではないか?」

特にBtoB市場では、サービス停止のリスクは業務に重大な影響を与えるため、価格の安さよりも継続性が重視されます。

価格設定の実践的アドバイス

なので、あなたの生活費を確保するとか、少しでも儲かるというのを意識して、価格を考えてみましょう。せっかく自分が作ったものを安売りすると何も良いことがありません。なので、ある程度は高くして売るということを意識してみると良いと思います。

価格設定の手順

  1. コスト計算: 固定費・変動費・目標利益を算出
  2. 競合分析: 同等サービスの価格帯を調査
  3. 価値提案: 提供価値を定量化
  4. 顧客インタビュー: 支払い意思額を確認
  5. テスト価格: 小規模でテスト実施

価格帯の決定方法

ハイエンド価格戦略

  • 高品質・高付加価値を訴求
  • ブランド価値を重視
  • サポート充実

ミドルレンジ価格戦略

  • コストパフォーマンスを訴求
  • 機能と価格のバランス
  • 最も競争が激しい価格帯

ローエンド価格戦略

  • 基本機能に特化
  • シンプルさを訴求
  • 大量の顧客獲得が必要

価格変更の難しさと重要性

とは言え、価格設定はものすごく難しいですし、奥が深いです。私もスプレッドサイトの価格設定には、そんなに自信はありません。

なのでこの辺を参考にしながらも、あくまで自分のサービスだったらどうか?このケースのこの場合だったらどうか?というのを考えながら、慎重に価格設定してみてください。

初期価格設定の重要性

一番最初に設定する価格でミスると後々かなり厄介になります。価格改定は値上げするにしても値下げするにしても「前までは安かったじゃないか」とか、「俺の時はもっと払っていたじゃないか」という、どちらのパターンもあり得るので。

価格変更に伴う問題:

値上げの場合

  • 既存顧客の反発
  • 解約率の増加
  • ブランドイメージの悪化
  • 新規顧客獲得への影響

値下げの場合

  • 既存顧客からの返金要求
  • 品質への疑問の増大
  • ブランド価値の毀損
  • 利益率の悪化

価格変更を成功させる方法

もし価格変更が必要になった場合の戦略:

段階的変更

  • 一度に大幅変更せず、段階的に実施
  • 変更理由の明確な説明
  • 十分な事前告知期間の確保

グランドファザリング

  • 既存顧客は従来価格を維持
  • 新規顧客のみ新価格を適用
  • 顧客満足度を維持しながら価格改定

機能追加との組み合わせ

  • 新機能追加と同時に値上げ
  • 価値向上の明確な根拠
  • 顧客の納得感を獲得

まとめと次のステップ

サービスをリリースする前、あるいは有料プランを解放する前に慎重に考えてみてください。

価格設定で考慮すべき要素:

  1. コスト構造の把握
  2. 市場価格の調査
  3. 価値提案の明確化
  4. ターゲット顧客の特定
  5. 競合との差別化
  6. 長期的なブランド戦略
  7. 収益目標の設定

価格設定は一度決めたら終わりではありません。市場の変化、競合の動向、顧客のフィードバックを基に、継続的に見直していく必要があります。

ただし、頻繁な価格変更は顧客の信頼を損なうため、慎重な判断が求められます。データに基づいた意思決定を心がけ、顧客とのコミュニケーションを大切にしながら、適正な価格設定を目指しましょう!

よくある質問

Q: 競合他社より高い価格設定にして本当に売れるのですか?

A: はい、適切な価値提供ができていれば売れます。重要なのは価格ではなく「価値に対する価格の妥当性」です。SpreadSiteでは競合より高い価格設定ですが、時間の節約、技術的専門知識の不要、継続的なメンテナンス、充実したサポートなどの価値を提供しています。顧客は「安い」ものではなく「価値のある」ものを求めています。価格競争ではなく価値競争を意識しましょう。

Q: 最初は安く設定して、後で値上げする戦略はどうでしょうか?

A: これは「浸透価格戦略」と呼ばれる手法ですが、リスクも高いのでお勧めしません。値上げ時に「前は安かったじゃないか」という既存顧客の反発、解約率の増加、ブランドイメージの悪化などの問題が発生します。最初から適正価格を設定し、機能追加と共に段階的に価値を向上させる方が健全です。価格変更は後々非常に厄介になるため、初期設定を慎重に行うことが重要です。

Q: フリーミアムモデルのメリットとデメリットは何ですか?

A: フリーミアムモデルにはメリットとデメリットの両面があります。メリットは:導入障壁の低さ、ユーザー数の拡大、口コミ効果の期待、有料転換による収益化です。一方デメリットは:無料ユーザーのサポートコスト、有料転換率の低さ(一般的に2-5%)、サーバー費用の増大、無料で満足してしまうユーザーの存在です。成功させるには無料版と有料版の機能差を戦略的に設計し、無料ユーザーが価値を実感できるようにする必要があります。

Q: 個人開発者が価格設定で失敗しないためのポイントは?

A: 最も重要なのは「生活できる価格設定」をすることです。月収20万円が目標なら、月額100円サービスでは2,000人以上の顧客が必要で現実的ではありません。最低でも月額500円以上、できれば1,000円以上の設定を推奨します。また、コスト計算を必ず行い、固定費(サーバー代、ツール代)、変動費(決済手数料、サポート費)、目標利益を含めた価格設定をしましょう。安売りは何も良いことがないので、価値に見合った適正価格を設定することが重要です。

Q: 価格が高いことで顧客に敬遠されませんか?

A: 適切な価値提供ができていれば、むしろ高価格の方が信頼されます。「安すぎると逆に売れない」現象があり、消費者は価格を品質の指標として使用します。1万円のコースと500円のコース、どちらが美味しそうかと聞かれれば多くの人が前者を選ぶでしょう。また、「480円で1年サポート」のような極端に安い価格は「本当に大丈夫なのか?」という不信感につながります。価格は価値の表現でもあるため、ブランド価値を高めるためにも適正な価格設定が必要です。

Q: 価格設定の際に最も重要な指標は何ですか?

A: 最も重要な指標は「顧客生涯価値(LTV)」です。一度の購入金額ではなく、顧客が生涯にわたって支払う総額を最大化することを考えましょう。サブスクリプションモデルの場合、月額価格×平均継続月数がLTVになります。例えば月額1,480円で平均12ヶ月継続されれば17,760円のLTVです。この数字を基に、顧客獲得コスト(CAC)を設定し、LTV/CAC比率が3:1以上になるような価格設定を目指しましょう。単発の安売りよりも、長期的な関係構築を重視した価格戦略が成功の鍵です。