想定読者
- 部下の言い訳や責任転嫁に悩む経営者
- 問題発生時にチームが機能不全に陥ることに課題を感じるリーダー
- 外部環境の変化に振り回されず、主体的に事業を推進したいビジネスオーナー
結論:他責は防御本能、当事者意識は成長戦略である
他責思考は、失敗や困難に直面した際に、自らの有能感や自尊心を守ろうとする、人間の脳に組み込まれた短期的な防御反応に過ぎません。一方で、すべての出来事を自分ごととして捉える当事者意識は、あらゆる経験から学びの機会を抽出し、自らの行動を改善し続けることで、長期的な成長を最大化するための、極めて合理的で効果的な知的戦略なのです。
なぜ、私たちは無意識に「他責」にしてしまうのか?
自己防衛本能としての他責思考
景気が悪いから売れない。部下の能力が低いからプロジェクトが進まない。取引先の対応が遅いから納期に間に合わない。ビジネスの現場では、問題の原因を外部に求める言葉が日常的に聞かれます。なぜ、私たちはこれほどまでに、無意識のうちに他責思考に陥ってしまうのでしょうか。
その根本的な原因は、人間の脳が持つ強力な自己防衛本能にあります。失敗や困難な状況に直面した時、その原因を自分自身の能力不足や判断ミスに帰結させることは、私たちの自尊心や有能感を直接的に傷つけ、精神的に大きな苦痛を伴います。この苦痛から逃れるため、脳は原因は自分の外側にあると解釈することで、自尊心を守ろうとするのです。
この心理は、社会心理学における自己奉仕バイアスという概念で説明できます。これは、成功した時はその原因を自分自身の能力や努力といった内的要因に求め、失敗した時はその原因を他者や不運、環境といった外的要因に求める、人間の普遍的な認知的な傾向です。つまり、他責思考は、特定の個人の性格が悪いから生じるのではなく、誰の脳にも標準搭載されている、極めて自然な反応なのです。
責任の重圧から逃れたいという心理
ビジネスにおける責任は、単なる役割ではありません。それは、意思決定の結果を引き受け、問題を解決するために行動するという、精神的に大きなエネルギーを消費する負荷です。他責思考は、この重い負荷から一時的に自らを解放するための、安易な逃避行動でもあります。
自分のせいではないと結論づけることで、その問題を解決する責任は自分にはない、と宣言することができます。これにより、困難な課題と向き合う精神的な苦痛や、解決策を見出すための知的労働から、一時的に逃れることができるのです。しかし、この短期的な安堵と引き換えに、個人と組織は、はるかに大きな長期的代償を支払うことになります。
他責思考が組織を蝕むメカニズム
他責思考が組織内に蔓延すると、それは組織の成長を根底から蝕む、静かで致命的な病となります。
第一に、組織的な学習が完全に停止します。失敗の原因を常に外部環境や他者に求めている限り、自らの組織の戦略、プロセス、あるいは文化といった内部的な要因を省みる機会は永遠に失われます。その結果、組織は同じ過ちを何度も繰り返し、環境の変化に適応することができなくなります。
第二に、信頼関係が崩壊します。互いに責任を押し付け合うことが常態化した職場では、従業員は自己防衛のために情報を隠蔽し、リスクを取ることを避けるようになります。これは、健全な協力関係や建設的な議論を阻害し、組織の心理的安全性を根本から破壊します。
そして最後に、問題解決能力が著しく低下します。問題の根本原因が、組織内部にあるにもかかわらず、誰もそこに目を向けようとしないため、対症療法的な解決策に終始し、真の問題は放置され続けます。他責思考の蔓延は、組織を、学びもせず、信頼もなく、問題も解決できない、極めて脆弱な状態へと導くのです。
「当事者意識」の正体とは何か?
他責思考の対極にある概念が、当事者意識です。しかし、この言葉もまた、しばしば責任感が強いといった、曖昧な精神論で語られがちです。当事者意識の本質を、より科学的に理解する必要があります。
責任感という精神論からの脱却
当事者意識は、責任感が強いといった、生まれ持った性格や資質の問題ではありません。それは、世界をどのように認識し、解釈するかという、後天的に習得可能な思考のスタイルです。その鍵となるのが、心理学における統制の所在(Locus of Control)という概念です。
統制の所在とは、自分の人生で起こる出来事の原因や結果を、何に帰属させると信じているか、という個人の信念の傾向を指します。これは、大きく二つのタイプに分けられます。
- 内的統制型: 出来事の結果は、自分自身の行動、能力、努力といった、自分自身がコントロールできる要因によって決まると考える。
- 外的統制型: 出来事の結果は、運、他者、社会情勢、環境といった、自分ではコントロールできない外部の要因によって決まると考える。
言うまでもなく、他責思考は外的統制型の典型的な現れです。一方で、当事者意識とは、意識的に内的統制型の視点を採用し、自分の人生の舵は、自分自身が握っていると信じる知的態度のことなのです。
自分ごと化がもたらす圧倒的な成長機会
この内的統制型の視点、すなわちすべてを自分ごととして捉えるという思考スタイルを身につけると、世界の景色は一変します。あらゆる出来事が、自分を成長させるための貴重な学習機会へと変わるのです。
例えば、ある商談が失敗に終わったとします。外的統制型の視点では、顧客の予算がなかったから、競合の製品が優れていたからと、自分以外の要因に原因を求め、そこで思考は停止します。
しかし、内的統制型の視点では、自分の準備が不足していたのではないか?、顧客の真のニーズを深く理解できていなかったのではないか?、自社製品の価値を十分に伝えきれなかったのではないか?と、自らの行動の中に改善点を探します。この内省的なプロセスを通じて、次の商談で成功するための、具体的で実行可能な改善策が導き出されます。
成功からも、失敗からも、自分の行動を改善するための具体的なフィードバックを得ることができる。これこそが、自分ごと化がもたらす、複利効果で増大していく圧倒的な成長機会なのです。
他責思考から脱却し、「自分ごと」で考えるための具体的トレーニング
他責思考という脳のデフォルト設定を上書きし、当事者意識を習慣化するためには、意識的なトレーニングが必要です。
ステップ1:コントロール可能な領域に焦点を当てる
経営思想家のスティーブン・コヴィーは、私たちが関心を持つ事柄のすべてを関心の輪、その中で自分自身が影響を及ぼすことができる事柄を影響の輪と名付けました。
他責思考の人は、そのエネルギーのほとんどを、自分ではコントロール不可能な関心の輪(景気、競合の動向、他人の感情など)に注ぎ、不満や不安を募らせます。一方で、当事者意識の高い人は、自らのエネルギーを、自分が直接コントロール可能な影響の輪(自分の行動、言動、学習、習慣など)に集中させます。
問題に直面した時、まずこの状況の中で、自分がコントロールできることは何か?と自問する。このシンプルな問いかけが、あなたの意識を、無力な嘆きから、主体的な行動へと切り替える第一歩となります。
ステップ2:「もし自分に1%でも責任があるとしたら?」と問いかける
反射的に外部に原因を探してしまう思考の癖を断ち切るために、強制的に視点を転換させる思考実験を行います。
どんなに理不尽で、明らかに他者に非があると思われる問題に直面した場合でも、一度立ち止まり、この状況に対して、仮に1%でも自分にコントロールできる部分があったとしたら、それは何だろうか?と、あえて自問するのです。
- 取引先の対応が遅い → 自分の依頼の仕方に、相手が動きやすくなるような工夫の余地はなかったか?
- 部下のパフォーマンスが低い → 自分の指示の出し方や、育成方法に改善点はないか?
この問いは、あなたを被害者の立場から、状況を改善できる主体者の立場へと引き戻します。たとえ1%でも自分にできることを見つけ、それを実行することで、あなたは状況に支配されるのではなく、状況を支配する側へと回ることができるのです。
ステップ3:失敗を「データ」として再定義する
他責思考の根源には、失敗を人格の否定や能力の欠如と結びつけてしまう恐怖があります。この恐怖から自らを解放するためには、失敗に対する意味づけそのものを変える必要があります。
失敗とは、期待していた結果と、実際の結果が異なっていたという、単なる客観的なデータに過ぎません。そのデータに、ダメだとか無能だといった感情的なレッテルを貼る必要は一切ないのです。
なぜ、このデータが得られたのだろうか?、このデータから、次に何を改善すれば良いだろうか?という、科学者が実験結果を分析するような、冷静で分析的な視点を持つ。これにより、失敗はもはや恐れるべきものではなく、より良い結果を得るための、最も価値のある情報源へと変わるのです。
リーダーが組織に「当事者意識」を根付かせる方法
失敗を罰する文化から、学習を称賛する文化へ
組織に他責思考が蔓延する最大の原因は、失敗が罰せられることへの恐怖です。リーダーが実践すべき最も重要なことは、この恐怖を組織から取り除くことです。問題や失敗を正直に報告した従業員を、決して非難してはなりません。むしろ、問題を早期に共有し、組織に貴重な学習の機会を提供してくれた貢献者として、公式に称賛するべきです。
犯人探しではなく、原因究明を徹底する
問題が発生した際に、リーダーが発する最初の問いが、組織の文化を決定づけます。
誰のせいだ?
この問いは、組織を犯人探しのための裁判所へと変え、従業員は自己防衛のために口を閉ざし、責任をなすりつけ合います。
なぜ、この問題は起きたのか?
この問いは、組織を学習のための研究室へと変えます。従業員は、個人攻撃の恐怖から解放され、再発防止という共通の目的に向けて、安心して事実を共有し、建設的な議論に参加できるようになります。リーダーの役割は、犯人を見つけることではなく、システムやプロセスに潜む真の原因を、チーム全体で究明する場を設計することなのです。
リーダー自身が最高の「当事者意識」の実践者であれ
最終的に、従業員はリーダーの言葉ではなく、行動を見ています。事業がうまくいかない時に、景気や市場環境、あるいは競合のせいにして嘆くリーダーの下で、部下が当事者意識を持つことは決してありません。
リーダー自らが、あらゆる困難な状況に対して、これは自分自身の戦略や行動を改善する機会だと捉え、主体的に状況を打開しようとする姿勢を見せること。その背中こそが、組織に当事者意識という文化を根付かせるための、最も強力で、唯一の方法なのです。
よくある質問
Q: 明らかに他人に非がある場合でも、自分ごととして捉えるべきですか?
A: はい、捉えるべきです。ただし、それはすべての責任を自分一人で負うという意味ではありません。他者の行動はコントロールできませんが、その状況に対して自分がどう反応し、どう行動するかは100%コントロールできます。その「自分の反応」に責任を持つ、という意味で自分ごととして捉えるのです。
Q: 自分ばかりが責任を負うことになり、不公平に感じてしまいます。
A: 当事者意識を持つことは、必ずしもすべての実行責任を一人で背負うことではありません。問題を自分ごととして捉え、解決に向けた最初の一歩を踏み出す役割を担う、ということです。その上で、他者を巻き込み、協力を仰ぐことも、当事者意識の高い行動の一部です。
Q: 当事者意識が強すぎて、何でも抱え込んでしまう人への対策は?
A: その従業員に対しては、「チームで成果を出すこと」の重要性を教える必要があります。一人で抱え込まず、他者に適切に助けを求めたり、権限を委譲したりすることも、組織に対する重要な責任の一つである、と伝えるのです。
Q: 部下の他責思考をどうすれば変えられますか?
A: 直接的に「他責にするな」と指摘しても、反発を招くだけです。この記事で紹介したように、まずは失敗を許容する心理的安全性を確保します。その上で、「この状況を良くするために、君自身にできることは何だと思う?」と、影響の輪に焦点を当てる問いかけを続けることが有効です。
Q: 自分ごと化と、過剰な自己否定はどう違うのですか?
A: 両者は全く異なります。自己否定は、「自分はダメな人間だ」という、人格への感情的な攻撃で終わり、次の行動に繋がりません。一方、自分ごと化は、「自分のあの行動が、この結果を招いた。次はこう改善しよう」という、行動レベルでの冷静な分析であり、未来志向の学習に繋がります。
Q: 他責思考の強い組織で、個人としてどう振る舞えば良いですか?
A: まず、あなた自身が、自らの影響の輪の中で、当事者意識を持った行動を貫くことです。あなたのその姿勢は、必ず誰かが見ています。そして、あなたのその行動が小さな成功を生み始めれば、周囲も徐々にその影響を受け、変わっていく可能性があります。環境を変えるための、最初の一歩になるのです。
筆者について
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