想定読者

  • 従業員の主体性のなさに悩んでいる経営者
  • チームのパフォーマンスを最大限に引き出したいリーダー
  • やらされ感から脱却し、仕事に情熱を取り戻したいと考えているビジネスオーナー

結論:当事者意識は、育むものであり、求めるものではない

当事者意識とは、責任感や主体性といった精神論ではなく、課題を自分自身の問題として認識し、その解決プロセスに自ら影響を与えられるという感覚、すなわち心理的オーナーシップそのものです。この感覚は、本人の資質や性格に依存するものではなく、情報の透明性と自己決定権の付与という環境によって育まれます。

なぜ当事者意識は生まれないのか? 心理学が解き明かす“傍観者効果”の罠

指示待ち人間が生まれる本当の理由

多くの経営者が、従業員の当事者意識の欠如に頭を悩ませています。指示されたことはこなすけれど、それ以上の行動を起こさない。問題が起きても、誰かが解決してくれるのを待っている。こうした指示待ちの姿勢は、組織の成長を阻害する大きな要因となります。

しかし、これは本当に従業員個人のやる気や資質の問題なのでしょうか。私たちは、この問題を個人の責任に帰結させてしまいがちですが、その本質はもっと根深いところにあります。実は、当事者意識が生まれない背景には、人間の心理的なメカニズムが大きく関わっています。

当事者意識を持て、と精神論を説くのは簡単です。しかし、それは何の解決にもなりません。なぜなら、多くの場合、従業員は当事者意識を持ちたくても持てない状況に置かれているからです。仕事の全体像が見えない。なぜこの作業が必要なのか理解できない。自分の意見を言っても無駄だと感じている。このような環境下で、自ら主体的に動けというのは無理な話です。当事者意識の欠如は、個人の問題ではなく、組織の構造や環境が生み出す必然的な結果なのです。

責任の拡散が引き起こす傍観者効果

当事者意識の欠如を説明する上で非常に重要な心理学の概念に、傍観者効果というものがあります。これは、ある事件や事故が発生した際に、周囲に多くの人がいるほど、一人ひとりが率先して行動を起こさなくなる現象を指します。なぜなら、自分がやらなくても誰かがやるだろう、という心理が働き、責任が拡散してしまうからです。

この傍観者効果は、ビジネスの現場でも頻繁に発生します。例えば、あるプロジェクトで問題が発生したとします。その問題解決の責任者が明確に定められていない場合、チームのメンバーは互いに顔を見合わせるだけで、誰も率先して動こうとはしません。これは、誰かが解決してくれるだろうという期待、あるいは自分が下手に動いて失敗したくないという恐れから生じます。

責任の所在が曖昧な組織、役割分担が不明確なチームでは、この傍観者効果が蔓延しやすくなります。結果として、誰もが評論家のように問題を指摘するだけで、実行者になろうとはしません。これが、組織における当事者意識の欠如の正体です。つまり、自分がその問題の唯一の解決担当者であるという認識が持てない限り、人は傍観者であり続けてしまうのです。

あなたの組織は大丈夫か?当事者意識欠如のサイン

自社の組織に当事者意識が欠けているかどうかを判断するために、いくつかの具体的なサインがあります。もし以下の項目に複数当てはまるようであれば、注意が必要です。

  • 会議での発言者がいつも同じである: 多くの従業員が沈黙し、一部の人間だけが話している状況は、多くの人が議論を自分ごととして捉えられていない証拠です。
  • 問題発生時に他責の言葉が先に出る: どうすれば解決できるかではなく、誰のせいかという犯人探しが始まるのは、誰もその問題を自分の責任だと感じていない典型的な兆候です。
  • 改善提案や新しいアイデアが出てこない: 現状維持が最も安全だと感じ、挑戦する意欲が失われている状態です。これは、提案しても無駄だという無力感を学習してしまった結果かもしれません。

これらのサインは、氷山の一角に過ぎません。水面下では、従業員のエンゲージメント低下、生産性の悪化、そして優秀な人材の離職といった、より深刻な問題が進行している可能性があります。経営者は、これらのサインを軽視せず、組織の根本的な問題として向き合う必要があります。

当事者意識の正体は“心理的オーナーシップ”である

精神論からの脱却

私たちは、当事者意識という言葉をあまりにも安易に、そして精神論的に使いすぎてきました。もっと責任感を持て、もっと主体的に動け、という言葉は、具体的な行動指針を示さない、単なる叱咤激励に過ぎません。これでは、従業員は何をどうすれば良いのか分からず、ただプレッシャーを感じるだけです。

当事者意識を育むための第一歩は、この精神論から完全に脱却することです。そして、当事者意識とは一体何なのか、その正体を科学的に理解する必要があります。

その鍵となる概念が、経営学や組織行動論で注目されている心理的オーナーシップです。これは、ある対象に対して、法的な所有権とは関係なく、これは自分のものだと感じる主観的な感覚のことを指します。従業員が自分の仕事やプロジェクト、さらには組織そのものに対して、この心理的オーナーシップを感じたとき、本当の意味での当事者意識が芽生えるのです。

自分のものだと感じる感覚、心理的オーナーシップとは

心理的オーナーシップは、単なる愛着や責任感とは異なります。それは、対象をコントロールできる、影響を与えられるという感覚に基づいています。例えば、自分の部屋を自由に模様替えできるように、自分の仕事の進め方や内容を、ある程度自分の裁量で決定できると感じられる状態です。

この感覚を持つ従業員は、仕事にやらされ感を抱きません。なぜなら、その仕事は会社から与えられたタスクではなく、自分自身のプロジェクトだと認識しているからです。自分のプロジェクトであれば、問題が発生すれば自ら解決しようとしますし、より良くするための改善案も自然と湧き出てきます。誰かに言われなくても、自発的に情報を集め、必要なスキルを学び、周囲を巻き込んで行動するようになります。

つまり、経営者が目指すべきは、従業員に当事者意識を持てと命令することではなく、従業員が担当業務に対して心理的オーナーシップを感じられるような環境を設計することなのです。

心理的オーナーシップを構成する3つの要素

では、どうすれば従業員は心理的オーナーシップを感じることができるのでしょうか。研究によれば、心理的オーナーシップは主に3つの要素によって構成されるとされています。

  • 自己効力感: 自分にはこの仕事や課題をうまくやり遂げる能力がある、という自信や信念のことです。成功体験を積む機会や、適切なフィードバックによって育まれます。
  • 自己決定感: 自分の行動を自分自身でコントロールしている、選択しているという感覚です。仕事の目標設定やプロセスの決定に、自分自身が関与できていると感じることが重要になります。
  • 帰属意識: 自分がその組織やチームにとって重要な一員であると感じられる感覚です。自分の仕事が組織全体の目標達成にどう貢献しているのかを理解し、仲間から承認されることで高まります。

経営者は、これら3つの要素を、日々のマネジメントや組織運営の中でいかに高めていけるかを考える必要があります。これが、当事者意識を育むための本質的なアプローチです。

“やらされ仕事”を“自分ごと”に変える具体的なステップ

心理的オーナーシップを育むためには、具体的な仕組みと仕掛けが必要です。ここでは、やらされ仕事を自分ごとに変えるための3つの実践的なステップを紹介します。

ステップ1: 情報を徹底的にオープンにする

当事者意識が生まれる大前提は、判断の材料となる情報を持っていることです。会社の経営状況、現在の市場環境、プロジェクトの全体像や目的、なぜこのタスクが必要なのかという背景。これらの情報が与えられていない状態で、主体的に動けというのは不可能です。それは、地図もコンパスも持たずに、目的地にたどり着けと言っているのと同じです。

多くの経営者は、情報を与えすぎると従業員が不安になるのではないかと懸念します。しかし、それは逆です。情報が不足しているからこそ、従業員は憶測で物事を判断し、不安や不満を募らせるのです。

まずは、経営状況や売上、利益といった数字を可能な範囲でオープンにすることから始めましょう。そして、各プロジェクトの目的や背景を、しつこいと思われるくらい丁寧に説明することを心がけてください。なぜという問いに答えられない仕事は、ただの作業となり、やらされ感を生む温床となります。情報の透明性を確保することは、従業員を信頼し、同じ船に乗るパートナーとして認めるという、経営者からの重要なメッセージにもなるのです。

ステップ2: 意思決定のプロセスに関与させる

情報が共有されたら、次のステップは意思決定のプロセスに従業員を関与させることです。これは、心理的オーナーシップの核となる自己決定感を育む上で、最も重要なステップです。

もちろん、全ての意思決定を従業員に委ねる必要はありません。最終的な決定権は経営者が持つべきです。しかし、その決定に至るまでのプロセスに、従業員の意見やアイデアを取り入れることは可能です。

例えば、新しいサービスの価格を設定する際に、一方的に価格を通知するのではなく、価格案についてチームで議論する場を設ける。業務プロセスの改善について、現場の担当者から意見を募り、それを基に改善策を決定する。このように、たとえ小さなことであっても、自分の意見が反映された、自分もその決定に関わったという経験が、仕事に対するオーナーシップを劇的に高めます。人は、自分が関与して決めたことに対しては、自然と責任感を持ち、積極的にコミットするようになるのです。

ステップ3: 結果に対するフィードバックを明確にする

最後のステップは、行動の結果に対するフィードバックを明確にすることです。従業員が主体的に動いた結果、何が起こったのか。それが成功であれ失敗であれ、具体的なフィードバックがなければ、次の行動に繋がりません。

特に重要なのは、成功した場合には、その貢献を具体的に認め、称賛することです。これにより、自己効力感が高まり、さらなる挑戦への意欲が湧きます。

一方で、失敗した場合の対応はさらに重要です。失敗を個人の責任として追及するのではなく、組織としての学びの機会と捉える文化を醸成する必要があります。なぜその失敗が起きたのかを客観的に分析し、次からはどうすれば防げるのかを一緒に考える。このような姿勢を経営者が見せることで、従業員は失敗を恐れずに挑戦できるようになります。挑戦なくして、当事者意識は育ちません。安全な環境で挑戦し、その結果から学ぶサイクルを回すことこそが、自律的な人材を育てる唯一の方法です。

経営者が陥りがちな間違いと、それを避けるための思考法

当事者意識を育もうとする経営者が、良かれと思ってやったことが裏目に出てしまうケースは少なくありません。ここでは、よくある間違いとその回避策について解説します。

間違い1: 権限移譲と丸投げを混同する

従業員の主体性を高めようとして、権限移譲を試みる経営者は多いでしょう。しかし、その多くが単なる丸投げに終わってしまっています。

権限移譲と丸投げの決定的な違いは、目的と背景の共有、そしてサポート体制の有無です。丸投げとは、十分な情報を与えず、失敗したときのリスクも全て個人に負わせるようなやり方です。これでは、従業員は不安とプレッシャーで押しつぶされてしまいます。

真の権限移譲とは、まずこの仕事の目的は何か、なぜあなたに任せたいのかという期待を明確に伝えます。そして、必要な情報やリソースへのアクセスを保証し、困ったときにはいつでも相談できるという心理的な安全性を提供します。経営者の役割は、仕事を放り投げることではなく、従業員がパフォーマンスを最大限に発揮できる環境を整えることなのです。権限移譲は、責任の押し付けではなく、信頼の表明でなければなりません。

間違い2: 結果だけで判断し、プロセスを評価しない

短期的な成果を求めるあまり、結果だけを見て従業員を評価してしまうのも、よくある間違いです。もちろん、ビジネスである以上、結果は重要です。しかし、結果に至るまでのプロセスを無視した評価は、従業員の挑戦意欲を著しく削ぎます。

例えば、新しいアプローチに挑戦したものの、結果的にうまくいかなかったケースを考えてみましょう。このとき、結果だけを見て低評価を下せば、その従業員は二度と挑戦しようとは思わないでしょう。むしろ、なぜその挑戦をしようと思ったのか、どのような仮説を立てて行動したのかというプロセスを評価することが重要です。たとえ失敗したとしても、その挑戦から得られた学びやデータは、組織にとって貴重な財産です。

主体的な行動や挑戦といった、当事者意識から生まれるプロセスそのものを評価する仕組みを取り入れることで、従業員は安心して新しいことに取り組めるようになります。

究極の目的は従業員の自律性を育むこと

経営者が心に留めておくべき最も重要なことは、当事者意識を育む究極の目的が、単に目の前のタスクを主体的にこなさせることではない、ということです。その先にある本当の目的は、従業員一人ひとりが自律的に思考し、行動できる人材へと成長することを支援することにあります。

自律した従業員は、経営者が常に指示を出さなくても、会社の目的やビジョンを理解し、その達成のために自分は何をすべきかを自ら考え、行動することができます。このような人材が育てば、組織は変化に強く、持続的な成長を遂げることが可能になります。当事者意識の醸成は、短期的な生産性向上策ではなく、10年後、20年後の会社を支える人づくりのための、長期的な投資であると捉えるべきです。

当事者意識が組織にもたらす計り知れない価値

生産性の向上だけではない、本当のメリット

従業員の当事者意識が高まると、指示待ちがなくなり、業務効率が上がるため、組織全体の生産性が向上します。しかし、そのメリットは単に数字に表れるものだけではありません。

最大のメリットは、職場全体の雰囲気や文化がポジティブに変わることです。やらされ仕事が蔓延する職場は、不満や諦めの空気が漂いがちです。しかし、誰もが自分の仕事にオーナーシップを持ち、前向きに取り組むようになると、職場には活気が生まれ、互いに協力し合う文化が育まれます。問題が起これば、誰かを責めるのではなく、チームで解決策を探すようになります。このようなポジティブな職場環境は、従業員の満足度を高め、優秀な人材が定着する要因となります。

変化に強い組織文化の醸成

現代のビジネス環境は、予測不可能な変化の連続です。このような時代において、トップダウンの指示だけで動く組織は、変化のスピードに対応することができません。

当事者意識の高い従業員は、現場で起きている変化を敏感に察知し、迅速に対応することができます。顧客の新たなニーズ、競合の新しい動き、技術の進化。これらの変化に対して、経営者の指示を待つことなく、自律的に改善や適応を図ることができます。このようなボトムアップの動きが活発な組織は、非常に回復力が高く、環境変化にも柔軟に対応できる変化に強い組織となります。

経営者自身の負担を軽減する

そして最後に、従業員の当事者意識は、経営者自身の負担を大きく軽減します。

スモールビジネスの経営者は、あらゆる業務を一人で抱え込みがちです。しかし、従業員が自律的に動き始めると、経営者はマイクロマネジメントから解放され、より重要で本質的な仕事、すなわち会社の未来を創る仕事に集中できるようになります。ビジョンを描き、戦略を立て、新たな事業機会を探る。これこそが経営者本来の役割です。

従業員を信じ、彼らが当事者意識を持てる環境を整えることは、遠回りに見えて、実は経営者が自身の時間とエネルギーを最も有効に使うための、最も確実な道なのです。

よくある質問

Q: 当事者意識を持てないのは、本人のやる気の問題ではないのでしょうか?

A: 一概にそうとは言えません。多くの場合、やる気の問題ではなく、当事者意識を持ちたくても持てない環境が原因です。情報が不足していたり、自分で何かを決定する権限がなかったりすると、誰でも受け身になります。環境を整えることが経営者の役割です。

Q: 全ての従業員に当事者意識を持たせることは可能ですか?

A: 100%全員に同じレベルで持たせるのは難しいかもしれませんが、組織全体の当事者意識のレベルを底上げすることは十分に可能です。この記事で解説した情報の透明化や自己決定権の付与を粘り強く続けることで、文化として定着させていくことができます。

Q: 小さな会社でも、この記事の内容は実践できますか?

A: むしろ、経営者と従業員の距離が近いスモールビジネスや中小企業の方が実践しやすいと言えます。意思決定のスピードが速く、情報を共有する範囲も限定的なため、トップの決断一つで環境を大きく変えることが可能です。

Q: 権限を移譲するのが怖いです。失敗したらどうすればいいですか?

A: 失敗は成長の機会と捉えることが重要です。重要なのは、失敗を個人の責任にせず、組織の学びとして次に活かす仕組みを作ることです。最初から大きな権限を渡すのではなく、小さな成功体験を積ませながら、徐々に範囲を広げていくのが現実的なアプローチです。

Q: 評価制度と当事者意識は関連がありますか?

A: 密接に関連します。結果だけでなく、課題解決に向けて主体的に動いたプロセスや挑戦した姿勢を評価する制度を取り入れることで、従業員は安心して当事者意識を発揮しやすくなります。減点方式ではなく、加点方式の評価が有効です。

Q: 当事者意識を高めるために、経営者としてまず何から始めるべきですか?

A: まずは、自社の経営状況や現在直面している課題について、包み隠さず従業員に共有することから始めるのが最も効果的です。なぜこの仕事が必要なのか、という背景情報が伝わるだけで、従業員の仕事に対する見え方は大きく変わります。

筆者について

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