想定読者
- 全ての顧客に同じアプローチをして、効果が出ていないと感じる経営者
- どの顧客を優先的にフォローすべきか、客観的な基準が欲しい事業者
- データに基づいた顧客管理を始めたいが、何から手をつけて良いか分からない方
結論:あなたの顧客は、全員が同じ顔をした“のっぺらぼう”ではない。
あなたは、顧客のことをどれだけ知っているでしょうか。
多くの経営者が、顧客を一つの大きな塊として捉え、全員に対して同じメッセージ、同じサービスを提供してしまっています。
しかし、その画一的なアプローチこそが、あなたのビジネスの成長を阻害する、静かで、しかし深刻な病なのです。
考えてみてください。
昨日初めて来店してくれた新規顧客と、もう10年以上も通い続けてくれている常連客。
月に一度必ず顔を見せてくれる顧客と、半年前からぱったりと足が遠のいてしまった顧客。
彼らの心に響く言葉や、彼らが喜ぶおもてなしは、果たして同じでしょうか。
この記事で解説するRFM分析は、こうした顧客一人ひとりが持つ、目には見えない個性やあなたへの想いの強さを、客観的なデータに基づいて可視化するための、極めてシンプルで、強力なレンズです。
- Recency - いつ、来てくれたか?(顧客との関係の鮮度)
- Frequency - 何度、来てくれたか?(顧客の熱意)
- Monetary - いくら、使ってくれたか?(顧客の貢献度)
この3つの指標だけで、あなたの目の前にいる顧客が、今どのような状態にあるのか、その健康状態を正確に診断することができます。
難しい統計学の知識や、高価な分析ツールは一切必要ありません。
この記事を読み終える頃、あなたは手元のExcel一つで、顧客という名の宝の地図を広げ、限られた資源を誰に集中投下すべきかを、科学的な根拠を持って判断できるようになっているはずです。
第1章:なぜ、あなたのメッセージは“誰にも”響かないのか?
多くのビジネスが、良かれと思って行うマーケティング活動が、なぜか空振りに終わってしまう。その根本原因は、顧客を理解しているという思い込みにあります。
「全員に同じ」が招く、致命的なコミュニケーションロス
年に数回送るDMや、一斉配信するメールマガジン。その内容は、全ての顧客に対して同じものになっていませんか。
しかし、そのメッセージを受け取った顧客の反応は、三者三様です。
- 優良顧客: いつもと同じ内容で、特別感がないと感じ、少し寂しい気持ちになるかもしれない。
- 新規顧客: まだ商品のことをよく知らないのに、いきなり別の商品を勧められても困惑する。
- 離反顧客: もう関心がないのに、何度もDMが送られてくることを不快に感じ、ブランドイメージが悪化する。
このように、良かれと思って送ったメッセージが、顧客の状況によっては全く響かないどころか、むしろ逆効果にさえなり得るのです。全員に好かれようとするメッセージは、結局、誰の心にも深く刺さらない、当たり障りのないノイズとして処理されてしまいます。
顧客を“知る”ことから、全ては始まる
ビジネスの成果とは、顧客との良好な関係性の結果として生まれるものです。そして、良好な関係を築くための第一歩は、相手を知ることから始まります。
RFM分析は、この「顧客を知る」という、商売の原点ともいえる活動を、データという客観的な事実に基づいて行うための、体系的な手法なのです。
顧客を正しく理解し、グループ分けすることで、初めて私たちは、それぞれの顧客に寄り添った、意味のあるコミュニケーションを設計することができるようになります。
第2章:RFM分析の核心 - 顧客の行動が語る“3つの真実”
RFM分析は、顧客の過去の購買行動データから、将来の行動を予測するための、シンプルかつ強力なフレームワークです。その根幹をなす3つの指標が、なぜ重要なのかを理解しましょう。
R - Recency (最終購入日):顧客との“関係の鮮度”
これは、顧客が最後にいつ購入、あるいは来店してくれたかを示す指標です。Rのスコアが高い(最近来てくれた)顧客ほど、あなたのビジネスに対する関心が高く、次のアプローチに反応してくれる可能性も高い、いわばホットな状態にあると言えます。
逆に、Rのスコアが低い(最後の来店から時間が経っている)顧客は、あなたのことを忘れかけているか、あるいは既に競合に乗り換えてしまっているかもしれません。顧客との関係性を維持するためには、このRの指標を常に注視し、関係が冷え切ってしまう前に対策を打つ必要があります。
F - Frequency (購入頻度):顧客の“熱意”
これは、特定の期間内に、顧客が何回購入、あるいは来店してくれたかを示す指標です。Fのスコアが高い(何度も来てくれる)顧客は、あなたのビジネスの熱心なファンであり、ロイヤルティが高いと考えられます。彼らは、価格や利便性だけであなたを選んでいるのではなく、あなたの提供する価値そのものに満足している可能性が高いです。
Fのスコアは、顧客がどれだけあなたのビジネスに夢中になっているかを測る、愛情のバロメーターとも言えるでしょう。
M - Monetary (累計購入金額):顧客の“貢献度”
これは、特定の期間内に、顧客が合計でいくら使ってくれたかを示す指標です。Mのスコアが高い(たくさんお金を使ってくれる)顧客は、当然ながら、あなたのビジネスの売上と利益に大きく貢献してくれている、極めて重要な存在です。
一般的に、企業の売上の大部分は、ごく一部の優良顧客によってもたらされると言われています(パレートの法則)。Mのスコアは、この売上の源泉となっている重要顧客層を特定し、彼らを絶対に失わないための戦略を立てる上で不可欠な指標です。
これら3つの指標を組み合わせることで、顧客の姿は、より立体的で、解像度の高いものとして浮かび上がってくるのです。
第3章:Excelでできる!RFM分析の具体的な実践ステップ
ここからは、専門的なツールを使わずに、普段使いのExcelやスプレッドシートでRFM分析を行うための、具体的な手順を解説します。
ステップ1:データの準備
まず、分析の元となるデータを用意します。必要なのは、最低でも以下の3つの情報が含まれた、顧客ごとの購買履歴データです。
- 顧客を識別するID(会員番号、氏名、メールアドレスなど)
- 購入日(あるいは来店日)
- 購入金額
これらのデータが、あなたのPOSレジや販売管理システム、ECサイトのデータベースに眠っているはずです。
ステップ2:R・F・Mの算出とスコアリング
次に、各顧客について、R・F・Mの元となる数値を算出し、それをランク付け(スコアリング)していきます。
- Rの算出とスコア化:
- 各顧客の最終購入日を特定し、「今日の日付 - 最終購入日」で、経過日数を計算します。
- 経過日数が少ない順に顧客を並べ替え、例えば上位から20%ずつをスコア5、4、3、2、1と5段階でランク付けします。スコア5が、最も最近購入してくれた顧客層です。
- Fの算出とスコア化:
- 分析対象期間内での、各顧客の購入回数をカウントします。
- 購入回数が多い順に顧客を並べ替え、同様にスコア5から1までランク付けします。スコア5が、最も購入頻度の高い顧客層です。
- Mの算出とスコア化:
- 分析対象期間内での、各顧客の累計購入金額を合計します。
- 累計購入金額が高い順に顧客を並べ替え、同様にスコア5から1までランク付けします。スコア5が、最も貢献度の高い顧客層です。
この作業が完了すると、全ての顧客に「R5, F5, M5」や「R1, F2, M3」といった、3つの数字からなるスコアが付与された状態になります。
ステップ3:顧客のグルーピング
最後に、算出されたRFMスコアを元に、顧客を意味のあるグループに分類します。これにより、誰にどのようなアプローチをすべきかが明確になります。
顧客ランク | Rスコア | Fスコア | Mスコア | 顧客の特徴と状態 |
優良顧客 | 5 | 5 | 5 | 最近も、頻繁に、たくさん買ってくれる最高の顧客。 |
安定顧客 | 3-5 | 3-5 | 3-5 | 定期的に購入してくれる。優良顧客予備軍。 |
新規顧客 | 5 | 1-2 | 1-2 | 最近初めて購入してくれた。これからが重要。 |
離反予備軍 | 2-3 | 3-5 | 3-5 | かつては優良顧客だったが、最近足が遠のいている。 |
離反顧客 | 1 | 1-2 | 1-2 | 長い間購入がなく、ほぼ離反してしまっている。 |
この分類はあくまで一例です。自社のビジネスモデルに合わせて、より細かくグループ分けすることも可能です。
第4章:分析を“利益”に変える、顧客ランク別アプローチ戦略
RFM分析は、分析して終わりではありません。その結果に基づいて、具体的なアクションを起こして初めて、利益に繋がります。ここでは、各顧客ランクに対するアプローチの具体例を紹介します。
優良顧客へのアプローチ
目的: 感謝を伝え、特別扱いすることで、さらなるロイヤルティを高める。
- 具体的な施策:
- 手書きのサンクスレターを送る。
- 新商品の先行体験会や、優良顧客限定のイベントに招待する。
- 担当者が直接電話し、日頃の感謝を伝える。
- 注意点: 彼らは価格よりも価値を重視します。安易な割引ではなく、承認欲求を満たすような特別なおもてなしが重要です。
安定顧客へのアプローチ
目的: 関連商品の提案などを通じて、優良顧客へと引き上げる。
- 具体的な施策:
- 過去の購入履歴に基づいた、関連商品やアップグレード商品を提案する(パーソナライズ)。
- ポイントプログラムなどで、購入頻度を高めるインセンティブを提供する。
- 購入後のフォローアップを丁寧に行い、満足度を高める。
新規顧客へのアプローチ
目的: 2回目の購入を促し、関係を定着させる。
- 具体的な施策:
- 購入直後に、感謝の気持ちと商品の使い方などを伝えるサンキューメールを送る。
- 次回使える限定クーポンを発行し、再来店・再購入のきっかけを作る。
- 購入から少し時間が経った頃に、商品の使い心地を尋ねるフォローアップを行う。
離反予備軍へのアプローチ
目的: なぜ足が遠のいたのか原因を探り、関係を再構築する。
- 具体的な施策:
- 「お久しぶりです」というメッセージと共に、少し大胆な割引クーポンや特典を提供する。
- アンケートを実施し、サービスへの不満や改善点をヒアリングする。
- 彼らが過去に好んで購入していた商品のリニューアル情報などを届ける。
この顧客ランクに応じたきめ細かなコミュニケーションの積み重ねが、あなたのビジネスの顧客基盤を、強固で揺るぎないものへと変えていくのです。
よくある質問
Q: 専門的な分析ツールがないと、RFM分析はできませんか?
A: いいえ、全く必要ありません。この記事で解説した通り、ExcelやGoogleスプレッドシートがあれば、十分に基本的なRFM分析を行うことが可能です。顧客数が数千件程度であれば、手作業でも十分に管理できます。まずは手元のデータで試してみて、その効果を実感することが重要です。
Q: BtoBビジネスでも、RFM分析は有効ですか?
A: はい、非常に有効です。BtoBの取引では、顧客ごとの取引額(M)の差が大きくなる傾向があるため、特に貢献度の高い重要顧客を特定し、手厚くフォローする上で役立ちます。また、最終発注日(R)や発注頻度(F)を見ることで、取引が途絶えそうな顧客の兆候を早期に発見し、営業担当者が先回りしてアプローチするきっかけにもなります。
Q: どのくらいの期間のデータを分析対象にすれば良いですか?
A: これは、扱う商材の購買サイクルによって異なります。例えば、数年に一度しか買い替えのない高額商品であれば過去3〜5年、月に何度も購入するような消耗品であれば過去1年、といった形です。自社の顧客が、平均的にどのくらいの期間でリピート購入しているかを考え、そのサイクルをカバーできる期間を設定するのが一般的です。
Q: スコアを5段階に分ける基準に、決まったルールはありますか?
A: 厳密なルールはありません。最も簡単な方法は、この記事で紹介したように、顧客を人数で均等に5分割する方法です。あるいは、自社のビジネスの実態に合わせて、例えば「最終購入から30日以内をスコア5」「年間購入額10万円以上をスコア5」といったように、具体的な数値で基準(閾値)を設ける方法もあります。どちらの方法でも、重要なのは社内で統一された基準を持つことです。
筆者について
記事を読んでくださりありがとうございました!
私はスプレッドシートでホームページを作成できるサービス、SpreadSiteを開発・運営しています!
「時間もお金もかけられない、だけど魅力は伝えたい!」という方にぴったりなツールですので、ホームページでお困りの方がいたら、ぜひご検討ください!
https://spread-site.com