想定読者
- 広告費をかけずに、認知度を飛躍的に高めたいと考えている経営者
- SNSを活用しているが、なかなか情報が拡散されずに悩んでいる担当者
- 顧客に熱狂的に愛され、自発的に応援してもらえるようなブランドを築きたい方
結論:口コミは“起きる”ものではない。“起こす”ものである。
「この面白い動画、友達にも見せてあげよう」
「この便利な情報は、同僚にも教えてあげなきゃ」
私たちは日常的に、誰かに何かを伝えています。
その時、私たちの頭の中には「企業のマーケティングに協力してやろう」などという考えは、微塵もありません。
では、なぜ人は、頼まれてもいないのに、特定の情報を誰かに伝えたくなるのでしょうか。
その答えは、情報の拡散が、伝える人自身にとっての“報酬”になるからです。
自分を賢く見せたいという自己表現の欲求。誰かの役に立ちたいという利他的な喜び。共通の話題で盛り上がりたいという所属の欲求。
これらの、極めて人間的な動機こそが、口コミやシェアという行動の、真のエンジンなのです。
バイラルマーケティングとは、この人間的な欲求のメカニズムを深く理解し、あなたの会社のメッセージを、顧客が「伝えたい」と感じる魅力的な報酬へと、意図的に変換していく、科学的なプロセスです。
多くの経営者は、口コミを、ただ待つだけの偶然の産物だと考えています。
しかし、それは大きな間違いです。
この記事では、口コミやシェアという現象を、運や偶然といった不確かなものから解放し、再現性のある設計図に基づいて、科学的に引き起こすための、具体的で実践的な方法論を、あなたにお渡しします。
第1章:なぜ、あなたの“良い情報”は誰にもシェアされないのか?
多くの企業が、質の高い、顧客のためになる情報を作れば、それは自然と広まっていくはずだと信じています。しかし、その誠実な努力は、多くの場合、報われることがありません。その原因は、情報発信における根本的な誤解にあります。
広告を信じない時代の到来
現代の顧客は、企業からの一方的な宣伝文句に対して、極めて強い警戒心を持っています。情報の洪水の中で生きる彼らは、広告という名のノイズを巧みに避け、自分にとって本当に価値のある情報を、独自のアンテナで探し出します。
そして、そのアンテナが最も強く反応するのが、自分と同じような立場にいる、友人、家族、あるいは尊敬する専門家といった、利害関係のない第三者からの推奨、すなわち口コミです。
企業が自らの口で「これは素晴らしい」と語るよりも、一人の信頼できる誰かが「これが素晴らしかった」と語る方が、遥かに大きな説得力を持つのです。
「良いコンテンツ」と「広まるコンテンツ」は違う
ここで、極めて重要な事実を認識しなければなりません。
顧客にとって有益なコンテンツと、顧客が誰かに広めたくなるコンテンツは、必ずしもイコールではない、ということです。
例えば、非常に専門的で、詳細なデータに基づいた分析レポートは、一部の専門家にとっては極めて価値の高い「良いコンテンツ」かもしれません。しかし、その内容を友人にシェアしようと考える人は、ほとんどいないでしょう。なぜなら、それをシェアしても、自分が賢く見えたり、話が盛り上がったりする報酬に繋がりにくいからです。
広まるコンテンツには、その情報自体の価値に加えて、それを誰かに伝えるための動機付けが、巧みに設計されている必要があります。
シェア行動の裏にある心理的報酬
では、その動機付けとは、具体的に何でしょうか。人が情報をシェアする背景には、主に3つの心理的な報酬が隠されています。
- 自己表現: 人は、情報をシェアすることを通じて、「自分はこんな人間だ」という自己イメージを表現します。面白い情報をシェアすれば、自分はユーモアのある人間だと思われたい。専門的な情報をシェアすれば、自分は知的な人間だと思われたい。シェアという行為は、極めて手軽な自己ブランディングの手段なのです。
- 利他主義: 人は、誰かの役に立つことに喜びを感じる生き物です。「この情報は、〇〇で困っているあの人の助けになるかもしれない」と感じた時、私たちは純粋な親切心から、その情報を伝えます。
- 社会的承認: シェアした投稿に、多くの「いいね!」やコメントがつけば、承認欲求が満たされ、脳内では快感物質であるドーパミンが放出されます。この快感が、次のシェア行動への強力な動機付けとなります。
バイラルマーケティングの第一歩は、この顧客が求める心理的報酬を深く理解し、自社のメッセージを、その報酬と結びつけることから始まります。
第2章:口コミを“科学的”に設計する6つの原則「STEPPS」
では、具体的にどのような要素が、コンテンツを「広まりやすい」ものにするのでしょうか。ペンシルバニア大学ウォートン校のジョーナ・バーガー教授は、そのベストセラー『Contagious(邦題:話題になるには訳がある)』の中で、口コミを科学的に分析し、バイラルするコンテンツに共通する6つの原則を導き出しました。これをSTEPPSと呼びます。
原則1:Social Currency (ソーシャル・カレンシー / 社会的通貨)
人は、自分を賢く、あるいは格好良く見せてくれるような、社会的価値のある情報をシェアします。まるで、珍しい通貨を手に入れたかのように、それを誰かに見せびらかしたくなるのです。
- 具体例: 誰も知らないような豆知識、業界の裏話、一般には公開されていない限定情報、驚くべき統計データなど。
- 中小企業の活用法: 自社の専門分野における「9割の人が知らない〇〇の事実」といった切り口で、顧客にインサイダー感覚を提供する。
原則2:Triggers (トリガー / きっかけ)
人は、頻繁に思い出すものを、頻繁に話題にします。あなたのブランドや製品を、顧客の日常生活の中にある特定の状況や物事と結びつけることで、それを思い出すきっかけ(トリガー)を意図的に作ることができます。
- 具体例: キットカットの「Have a break, have a Kit Kat.」というキャンペーンは、「休憩」という日常的な行為とブランドを強力に結びつけました。
- 中小企業の活用法: カフェであれば「雨の日には、うちの特別なコーヒーで一休み」といったように、特定の天候や曜日と自社のサービスを結びつけ、思い出してもらうきっかけを作る。
原則3:Emotion (エモーション / 感情)
感情を揺さぶるコンテンツは、シェアされやすくなります。特に、怒りや不安といったネガティブな感情よりも、畏敬、興奮、愉快といった、生理的な覚醒度が高いポジティブな感情を呼び起こすコンテンツの方が、より強力な拡散力を持ちます。
- 具体例: 赤ちゃんや動物のかわいい動画、アスリートのスーパープレー、職人の神業のような超絶技巧。
- 中小企業の活用法: 自社の製品が生まれるまでの、開発者の情熱や苦労を描いた感動的なストーリーを発信する。
原則4:Public (パブリック / 公開性)
人は、他人がしていることを見て、それを真似する傾向があります。あなたの製品やサービスが、他者から見える形になっているほど、それは自然な口コミの対象となります。
- 具体例: Apple製品の白いイヤホンや、スターバックスのロゴが入ったカップは、それを持っているだけで、ブランドの選択を公に示しています。
- 中小企業の活用法: デザイン性の高い持ち帰り用の袋を用意する。顧客がSNSで投稿したくなるような、ユニークな店内の装飾や商品パッケージを工夫する。
原則5:Practical Value (プラクティカル・バリュー / 実用的な価値)
人は、自分や他人の役に立つ実用的な情報を、純粋な親切心からシェアします。
- 具体例: 「〇〇を解決する5つの簡単な方法」といったノウハウ記事、すぐに使える便利なテンプレート、お得な割引情報。
- 中小企業の活用法: 専門知識を活かして、顧客が日々の生活や仕事で直面する、具体的な悩みを解決するための、非常に実践的なアドバイスを提供する。
原則6:Stories (ストーリーズ / 物語性)
人は、単なる事実やデータの羅列ではなく、物語を記憶し、それを誰かに伝えたくなります。製品やサービスそのものを売り込むのではなく、それを魅力的な物語の一部として語ることが重要です。
- 具体例: サブウェイのジャレッド・フォーグルの物語は、サンドイッチを食べ続けることで大幅な減量に成功したという、強力なストーリーを通じて、製品の健康的な価値を伝えました。
- 中小企業の活用法: あなたの製品を、単なるモノとして紹介するのではなく、顧客の人生をより良くする物語の、重要な登場人物(まるで魔法の杖のように)として描く。
第3章:中小企業が実践する、バイラルコンテンツ企画の3ステップ
これらの科学的な原則を、リソースの限られた中小企業が、日々のマーケティング活動に落とし込むための、具体的な3つのステップを紹介します。
ステップ1:誰に、どんな“報酬”を提供したいかを決める
まず、あなたの情報を届けたいターゲット顧客は、SNSなどで何をシェアすることによって、自己表現をしたいと考えているかを深く洞察します。
例えば、ターゲットが若手のビジネスパーソンであれば、彼らは「仕事ができる」「情報感度が高い」と思われるような、実用的なビジネスハックや、最新の業界トレンドに関する情報をシェアすることで、心理的な報酬を得るかもしれません。
この、ターゲットが求めるシェアの動機を起点に、コンテンツの切り口を考えます。
ステップ2:自社の“物語”の核心を見つける
次に、自社のビジネスの中に眠っている、人の感情を動かす物語の種を探します。
- なぜ、この事業を始めようと思ったのか(創業の物語)
- この製品は、どのような困難を乗り越えて生まれたのか(開発の物語)
- 私たちのサービスを利用した顧客の人生は、どう変わったのか(成功の物語)
これらの物語は、単なる商品説明では決して伝わらない、あなたのビジネスの人間的な魅力と誠実さを伝え、強い共感を呼び起こす源泉となります。
ステップ3:シェアしたくなる“仕掛け”を埋め込む
最後に、企画したコンテンツの中に、前章で解説したSTEPPSの原則を、意図的に埋め込んでいきます。
例えば、専門的なノウハウを解説する(実用的な価値)記事のタイトルに、「プロだけが知る」というフレーズを加え、読者にインサイダー感覚(社会的通貨)を提供する。
あるいは、感動的な顧客の成功事例(物語性, 感情)を紹介した動画の最後に、「あなたの周りにも、同じ悩みを持つ方がいたら、ぜひこの物語を教えてあげてください」と、利他的なシェアを促す一言を添える。
このように、コンテンツの価値そのものと、それを広めるための仕掛けを、両輪で設計することが重要です。
第4章:バイラルマーケティングの“光と影” - 炎上との境界線
バイラルマーケティングは、諸刃の剣でもあります。意図しない形で情報が拡散し、炎上という最悪の事態を招くリスクも、常に念頭に置かなければなりません。
バイラルと炎上の本質的な違い
両者は、情報が爆発的に拡散するという点では似ています。しかし、その拡散を駆動する感情が全く異なります。
- バイラル: 共感、興奮、感動、尊敬といったポジティブな感情が拡散のエネルギー源。
- 炎上: 怒り、軽蔑、嫉妬、不安といったネガティブな感情が拡散のエネルギー源。
炎上を狙うような、意図的に誰かを傷つけたり、社会的な対立を煽ったりするような発信は、短期的な注目を集めるかもしれませんが、その代償として、企業の最も大切な資産である信頼を、永久に失うことになります。
誠実さが、最強のリスクヘッジ
意図しない炎上を防ぐための、唯一にして最強のリスクヘッジ。それは、日頃から誠実な企業姿勢を貫き、顧客や社会に対して、真摯に向き合い続けることです。
小手先のテクニックで人を操ろうとするのではなく、自社の理念や哲学に基づいた、一貫性のある情報発信を続ける。たとえ、何らかの誤解から批判が生じたとしても、その誠実な企業文化こそが、最終的にあなたを守る防波堤となるのです。
よくある質問
Q: BtoBビジネスでもバイラルは起こせますか?
A: はい、起こせます。BtoCのような爆発的な拡散は稀かもしれませんが、特定の業界内での「口コミ」という形で、バイラルは確実に機能します。例えば、非常に専門的で、業務に直接役立つ質の高いノウハウ記事(実用的な価値)や、業界の常識を覆すような独自の調査レポート(社会的通貨)などは、ターゲットとする業界内でシェアされやすくなります。
Q: どのSNSプラットフォームがバイラルに適していますか?
A: コンテンツの性質によって異なります。視覚的に感情に訴えかける画像やショート動画であればInstagramやTikTok。実用的なノウハウや、ビジネス向けの専門的な情報であればX(旧Twitter)やFacebook。感動的なストーリーをじっくり語るならYouTube、といった使い分けが考えられます。重要なのは、プラットフォームを選ぶことよりも、そのプラットフォームのユーザーが何を求めているかを理解することです。
Q: いわゆる「バズる」ことを狙うべきですか?
A: 「バズ」は、あくまで結果論です。バズること自体を目的化してしまうと、奇をてらった、中身のないコンテンツに陥りがちです。狙うべきは、一過性のバズではなく、自社のターゲット顧客に、深く、そして確実に届く、価値のあるコンテンツを作ることです。その結果として、情報が広く拡散されるのが理想的な形です。
Q: シェアされやすいコンテンツのアイデアが全く思いつきません。
A: アイデアは、机の前でひねり出すものではありません。顧客との日々の対話の中に、無数のヒントが眠っています。顧客が頻繁に口にする悩みや質問、業界に対する不満や愚痴。これら全てが、彼らが本当に求めている「実用的な価値」や、共感を呼ぶ「感情」の源泉です。まずは、顧客の声に、誰よりも深く耳を傾けることから始めてみてください。
筆者について
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