成功企業に共通する施策でも採用すべきとは限らない
成功企業の多くが同じ営業施策を使っていると、自社も採用すれば受注が増えるように感じるかもしれません。しかし、その施策を使って目標を達成しなかった企業が調査に含まれていなければ、採用した企業の成功率は分かりません。
成功企業に多いことと、その施策を使うと成功することは、異なる問いです。成功事例は営業活動の具体的な方法を学ぶ材料になりますが、施策の有効性を判断するには、同じ方法を使った不成功の事例や、使わなかった企業の結果も必要です。
存続した企業や成功事例だけが観察に残り、それ以外の結果が欠けることで判断が偏る問題を、生存者バイアス と呼びます。企業の退出によって事例が消える場合に加え、成功企業だけを取材する場合にも、失敗の情報が不足します。(失敗事例の不足と経営判断を論じたDenrellの研究)
失敗事例が欠けると何を誤解するのか
Denrellの2003年の論文は、企業全体では業績と関連しないリスクのある行動でも、存続企業だけを観察すると、業績と正の関連があるように見える場合を示しています。特定の営業施策を導入した企業で売上が何%増えた、と測定した報告とは異なり、観察に残る企業の選ばれ方が推論を変えるという議論です。(2003年の論文の要旨)
なぜ情報が欠けるのでしょうか。研究者本人への取材を含むスタンフォード大学の紹介記事では、うまくいかなかった企業は廃業したり方法を変えたりするため、失敗した戦略の情報が残りにくいと説明されています。同じ施策が成功と失敗の両方に現れていても、後者の情報が少なければ、成功した方法として伝わります。(Denrellへの取材による研究紹介)
この問題は、読んだ成功談の内容が虚偽でなくても起こります。一社の経験が正確に書かれていることと、読める事例が企業全体を代表していることは別だからです。
成功企業の3分の2が採用していても採用企業の成功率は20%になる例
以下は、割合の違いを説明するための架空の数値です。研究で観測された企業の実績ではありません。
同じ時期に営業活動を始めた100社について、ある営業施策を開始時に採用したかどうかと、その後の6か月間に新規契約10件以上を獲得したかどうかを全社で把握したとします。ここでは、10件以上を成功、10件未満を未達と呼びます。廃業したかどうかの分類ではなく、期間内の契約件数による分類です。
| 開始時の営業施策 | 企業数 | 新規契約10件以上 | 新規契約10件未満 | 各群の成功率 |
|---|
| 採用した | 80社 | 16社 | 64社 | 20% |
| 採用しなかった | 20社 | 8社 | 12社 | 40% |
| 合計 | 100社 | 24社 | 76社 | 24% |
成功した24社だけを取材すると、施策を採用した企業は16社です。16 ÷ 24なので、成功企業の 約66.7% が採用していたと紹介できます。
一方、施策を採用した80社のうち成功したのは16社です。16 ÷ 80で成功率は 20% になります。採用しなかった20社の成功率は8 ÷ 20で40%です。この架空の集計では、採用企業の成功率は、非採用企業より20パーセントポイント低くなっています。
成功企業での採用割合は、成功した企業を分母にしています。採用企業の成功率は、採用した企業を分母にしています。知りたいのが施策を使った後の成功率なら、成功した24社だけを数えても答えは出ません。表の未達76社も含めた記録が必要です。
成功率を比較しても施策の効果はまだ決まらない
表の20%と40%だけで、施策が成功率を下げたと断定することもできません。たとえば、新規開拓に苦戦している企業ほどその施策を採用し、すでに紹介客が多い企業は採用しなかった可能性があります。この場合、開始時点の営業状況が違います。
したがって、この表が示すのは、架空の100社で採用の有無と成功の関係がどう集計されるかです。同じ企業が施策を使った場合と使わなかった場合の差を測った値ではありません。
実務への応用としては、自社の営業チームで比較が可能なら、同じ期間に、比較するチームを無作為に採用群と非採用群へ割り当てる方法が考えられます。担当する市場や営業資源、チーム間での施策の共有も結果に関わるため、割り当てる単位と比較方法は業務に合わせて設計します。これは本記事の提案であり、紹介した論文が検証した営業手順ではありません。
失敗談を足すだけでは成功率を計算できない
成功談を10件、失敗談を10件集めても、その20件を紹介する人が意図的に選んだなら、実際の成功率が50%だったとは言えません。記事の件数を半数ずつにすることと、施策を試した企業全体の結果を把握することは異なります。
成功率の資料として使うなら、調査を始める時点で企業を選ぶ基準と評価期間を決め、途中で施策を中止した企業の結果も残す方法が考えられます。廃業や中止のために結果が追えなかった企業があれば、その件数を明記します。記録がないことだけを理由に、成功にも未達にも数えることはできません。
他社の公開事例だけを読む場面では、企業全体の結果を入手できないこともあります。そのときは、施策を実行する方法や失敗が起こる過程を学ぶ材料として使い、掲載された事例の比率を導入後の成功確率へ換算しないようにします。
成功事例から学ぶ方法と成功率の判断を混同しない
成功事例からは、提案内容や実施した作業を学べます。自社で採用する根拠を考えるときは、その方法を使った企業のうち何社が成功したか、使わなかった企業の結果はどうだったかを問います。成功企業の共通点だけでは、採用後の成功率も施策そのものの効果も決まりません。
自社のホームページで導入事例を紹介する際にも、どの顧客が、何を変更し、どの期間にどんな結果を得たかを記載すると、読者が事例の内容を理解できます。一社の結果を、すべての利用者の平均実績として説明しないことが大切です。
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