想定読者

  • 社員のスキルアップやリスキリング(学び直し)の必要性を感じつつも、どこから手をつければ良いか分からない経営者
  • 研修などの教育投資を、つい「コスト」として捉えてしまい費用対効果に疑問を持って投資に踏み切れないでいるマネージャー
  • 自社の将来のために、何を学ぶべきか、そして社員が自律的に学び続ける組織をどう作るかに関心のあるすべての人

結論:組織の成長は「社員の成長」の総和でしかない

あなたの会社の5年後、10年後の姿を想像してみてください。その時、会社を支えているのはどんなスキルを持った社員でしょうか。今の社員たちの知識や能力のままで、果たして変化の激しい未来の市場を生き抜くことができるのでしょうか。

明治日本の近代化を、教育の力で推し進めた偉人、福沢諭吉。彼がベストセラー「学問のすゝめ」を通じて国民に伝えたかったメッセージの核。それは、「企業の持続的成長は、社員一人ひとりの成長の総和以外にありえない。故に、社員の知性をアップデートし続ける『教育』こそが経営者の最大の責務である」 という、極めてシンプルで力強い真理です。社員への教育投資は、未来への最も確実な投資であり、単なる「コスト」ではなく企業の存続を左右する最重要の「戦略」なのです。

なぜ諭吉は「学問」を「すゝめ」たのか?

「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言えり」。このあまりにも有名な一節。多くの人はこれを「人間の平等」を説いた言葉だと誤解しています。しかし、この言葉には厳しい続きがあります。それは、「されども、今広くこの人間世界を見渡すと、賢い人もいれば愚かな人もいる。貧しい人もいれば金持ちもいる。その違いは一体どこにあるのか。それは、学ぶか学ばないかの違いである」というものです。

つまり諭吉が言いたかったのは、生まれは平等でも、その後の人生は**「学び」によって決定的な差がつく**という厳しい現実でした。これは現代のビジネス環境に、そのまま当てはまります。過去の成功体験や古いスキルだけに頼っていては、AIの台頭やグローバル化といった時代の大きな変化には、到底対応できません。個人も、そして企業も、常に学び続け(リスキリング)、自らをアップデートし続ける者だけが、未来の市場で価値ある存在として生き残れるのです。

諭吉が説いた「実学」に学ぶ、リスキリングの3つの要点

では、何を学ぶべきなのでしょうか。諭吉は、その答えとして「実学」の重要性を説きました。

1. 「虚学」ではなく「実学」を学ぶ

諭吉は、難解な古典を読むだけの実生活の役に立たない学問を「虚学」として批判しました。そして、そろばん(会計・財務)、地理学(マーケティング)、物理学(科学技術)といった日々の仕事や社会生活に直接役立つ「実学」こそを学ぶべきだと主張したのです。これは現代の企業のリスキリングにおいても、極めて重要な示唆を与えてくれます。流行りのDXやAIといったバズワードを、ただ研修で聞かせるだけでは意味がありません。その新しい技術が、自社の事業にどう結びつき、社員一人ひとりの生産性をどう具体的に向上させるのか。 この「実践」に繋がらない学びは、すべて「虚学」なのです。

2. 「一身独立」のための学問

諭吉は、学問の究極の目的を「独立自尊」の精神を養うことにあるとしました。これは国や会社といった大きな組織に、ただ依存して生きるのではなく、自分自身の知識とスキルで自らの人生を切り開いていくという、自律した個人の確立です。企業の社員教育も、この視点を持つべきです。目的は、単に会社にとって都合の良い従順な人材を育てることではありません。社員一人ひとりが、たとえ会社がなくなっても市場で通用する、価値の高いプロフェッショナルになること。 それを会社が全力で支援する。その結果として、強い「個」が集まる本当に強い組織が生まれるのです。

3. 「議論」と「対話」を重んじる教育

諭吉が創設した慶應義塾は、日本で初めて「演説(スピーチ)」を教育に取り入れたと言われています。これは教員が一方的に知識を教え込むのではなく、学生たちが自らの考えを発表し、それについて仲間や教員と自由闊達に「議論」することを重んじたからです。組織の知性を本当に高めたいのであれば、外部から講師を呼んで研修を受けさせるだけでは不十分です。学んだ知識を元に、社員同士が自社の課題について議論し、互いの知見を共有し合う「対話の場」を社内に意識的に作ることが不可欠なのです。

「慶應義塾」に学ぶ、学び続ける組織の作り方

福沢諭吉は、思想家であると同時に、慶應義塾という日本で最も成功した教育機関の一つを創設した、優れた経営者でもありました。その組織運営には、学び続ける組織を作るための具体的なヒントが詰まっています。

  • 教育機会の提供(インプット): 慶應義塾は、武士だけでなく町人や農民の子弟にも、広く門戸を開きました。企業も、一部の優秀な社員だけでなくすべての社員に対し、公平な学習機会を提供すべきです。オンライン学習プラットフォームの導入、書籍購入費用の補助、資格取得の支援制度などがその第一歩です。
  • 実践の場の提供(アウトプット): 諭吉は、学生たちに海外の文献の翻訳や出版といった実際のビジネスを経験させ、その報酬を学費に充てることを奨励しました。学んだスキルは、使わなければすぐに錆びつきます。研修で学んだことを、実際の業務や新しいプロジェクトで試す「実践の場」を会社が意図的に用意すること。インプットとアウトプットを、セットで考えることが重要です。
  • 学びを評価する文化: 諭吉は、学問を修めた者が社会のリーダーとして尊敬されるという新しい価値観を、日本に根付かせました。企業もまた、新しいスキルを習得した社員や学習意欲の高い社員を、昇進や報酬といった形で明確に評価する文化を築くべきです。「学んだ者が、きちんと報われる」。このシンプルで公平なメッセージこそが、組織全体の学習意欲に火をつけるのです。

よくある質問

Q: 中小企業には、社員教育に多額の費用をかける余裕がありません。

A: 教育投資は、金額の多寡ではありません。例えば、週に一度全社員で業界の最新ニュースを共有し、議論する時間を設ける。あるいは、社長が推薦する本を全社員で読み、感想をシェアする会を開く。こうしたお金をかけずにすぐに始められる「学びの仕組み」は、いくらでもあります。重要なのは、経営者が教育を重視する「姿勢」を見せることです。

Q: 社員が、学んだスキルを元に、転職してしまったら、元も子もないのでは?

A: 福沢諭吉は、まさにその問いに答えています。「社員がどこに行っても通用する人材になること」を恐れてはいけません。むしろ、それを会社の誇りとすべきです。本当に魅力的な「学びの機会」と「成長できる環境」がある会社には、優秀な人材は自然と集まり、そして定着します。社員の転職を恐れるのは、自社にそれ以上の魅力がないことの裏返しなのです。

Q: 業務が忙しすぎて、社員に学ぶ時間がありません。

A: それは、経営者やマネージャーのマネジメントの問題です。日々の業務に、学習時間をあらかじめ「業務」として組み込むのです。例えば、週に2時間は研修や自己学習の時間に充てることを、会社の制度として定める。学びの時間を、個人の「やる気」や「プライベートな時間」に依存させている限り、組織的なリスキリングは決して成功しません。

Q: 何を学ばせるべきか、そのスキルセットの見極めが難しいです。

A: まずは、経営者自身が自社の3年後、5年後の事業計画を明確に描くことです。その未来を実現するために、今の組織に「足りないスキル」は何か。それを逆算して考えるのです。そして、社員一人ひとりとの面談を通じて、会社の目指す方向と個人のキャリアプランをすり合わせ、その両方に合致するスキルを共に探していく。その対話のプロセスこそが、最も重要なのです。

筆者について

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