想定読者

  • 次々と新しい事業を生み出す「事業創造の仕組み」を、自社に構築したいと考えている経営者
  • 日々の利益追求と、社会貢献や環境配慮といった企業の社会的責任との間で、板挟みになっているリーダー
  • 短期的な株主利益の最大化を目指す既存の資本主義に限界を感じ、これからの時代に求められる新しい企業のあり方を模索している方

結論:事業の目的は「利益」ではない。「社会課題の解決」である

あなたの会社は、何のために存在していますか。利益を上げ、株主に還元するため。もちろん、それは企業が存続するための必要不可欠な「条件」です。しかし、それは企業が存在する「目的」そのものではありません。この「条件」と「目的」を混同した時、企業は社会から見放され、やがては持続可能性を失います。

日本資本主義の父・渋沢栄一。彼が生涯に約500もの企業と、約600もの社会公共事業の設立に関与できた、その圧倒的な事業創造力の源泉。その核は、「事業の目的は、あくまで社会の課題を解決し公益を追求することにある。利益とは、その貢献に対する社会からの『報酬』に過ぎない」という、揺るぎない信念にありました。彼が説いた「論語と算盤」の思想は、100年以上たった今、まさに現代の「パーパス経営」や「公益資本主義」として、再び世界の注目を集めているのです。

なぜ渋沢栄一は「日本資本主義の父」と呼ばれたのか?

渋沢栄一の経歴は、異色です。幕臣として一度は明治新政府と敵対しながら、その能力を買われて大蔵省の役人となり、やがて実業家へと転身します。しかし、彼は特定の会社の経営者として、その成功に安住することはありませんでした。

当時の日本には、近代国家として必要なあらゆるものが欠けていました。銀行、ガス、水道、電気、鉄道、海運、紡績、製紙…。渋沢は、これらの社会インフラを、一つまた一つと「事業として創造」していったのです。彼は、特定の事業で私腹を肥やす「事業家」ではなく、社会に必要な事業を次々と生み出し育てる「事業創造家(スタートアップ・スタジオ)」であり、日本の未来に投資する「ベンチャーキャピタリスト」の先駆けだったのです。

「論語と算盤」に学ぶ、公益資本主義の3つの原則

渋沢の思想のすべては、「論語と算盤」という言葉に集約されます。これは、道徳と経済は決して別物ではなく、両立させて初めて事業は永続するという考え方です。

1. 「論語(理念)」なくして「算盤(利益)」なし

渋沢は、「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」と喝破しました。事業を始めるにあたって、まず問われるべきは「儲かるか、儲からないか」ではありません。「その事業は、社会の誰を、どのように幸せにするのか」という道徳的な理念(パーパス)です。この企業の背骨となるべき理念が、明確であって初めて、どのような事業(算盤)をすべきかが見えてくる。理念なき利益追求は、いずれ社会からしっぺ返しを食らうと、彼は警告したのです。

2. 「私益」ではなく「公益」を追求する

渋沢は、自らが設立に関わった会社の株式を、決して独占しようとはしませんでした。彼は、富が特定の個人や財閥に集中することを、極端に嫌いました。なぜなら、事業の成果はそれを支えてくれた社会全体に、広く還元されるべきだと考えていたからです。これは、株主の利益のみを最大化する「株主資本主義」ではなく、従業員、顧客、取引先、地域社会といったすべての関係者(ステークホルダー)の幸福を追求する、「ステークホルダー資本主義」の考え方そのものです。

3. 「競争」よりも「協調」を重んじる

渋沢は、同業種の企業が互いに足を引っ張り合うような、過度な競争を戒めました。そして、業界全体の発展のために企業同士が協調し、ルールを作り、共に成長していくことを促しました。例えば、日本で最初の銀行である第一国立銀行を設立した後も、次々と他の銀行の設立を助けています。目先のシェア争いに勝つことよりも、業界全体のパイを大きくするような「協調的競争」こそが、巡り巡って自社の持続的な利益にも繋がることを、彼は知っていたのです。

500社を創った「事業創造」の技術

渋沢の公益資本主義は、単なる理想論ではありません。それを、具体的な事業として次々と生み出すための、極めて合理的な「技術」に裏打ちされていました。

  • 合本主義(アライアンス): 彼の事業創造の基本は、常に「合本主義」でした。これは、特定の天才や大金持ち一人に頼るのではなく、多くの人々から少しずつ資本と知恵を集めて、一人では成し遂げられない大きな事業を創造するという考え方です。これは、現代の株式会社の仕組みそのものであり、スタートアップが多くの投資家から資金を集めるベンチャーファイナンスのモデルとも言えます。
  • 人材育成と権限移譲: 渋沢は、自らが設立した会社の経営が軌道に乗ると、その経営を信頼できる後進に大胆に任せました。そして、自らはまた次の新しい事業の創造へと向かうのです。経営者が、いつまでも一つの事業のプレイングマネージャーでいては、組織はスケールしません。次世代のリーダーを育成し、権限を委譲していく仕組みがあって初めて、連続的な事業創造が可能になるのです。
  • 社会の「不」の発見力: 渋沢が手掛けた事業をよく見ると、それは常に当時の日本社会が抱える「不」、すなわち不便、不足、不満、不安を解決するものでした。暗い夜道を安全に歩きたい(ガス・電気)。離れた場所と安全に早くモノや情報をやり取りしたい(鉄道・郵便・通信)。彼の事業創造の出発点は、常に社会の課題解決にあったのです。

よくある質問

Q: 綺麗事を言っても、まずは利益を出さないと会社が潰れてしまいます。

A: 渋沢も、利益の重要性は誰よりも理解していました。彼が言っているのは、順番の問題です。「社会への貢献」という目的が先にあり、その「結果」として利益がついてくると考えるのです。利益を目的にすると、短期的な視点に陥り、顧客を裏切るような行動を取りがちです。しかし、社会貢献を目的にすれば、顧客からの信頼が集まり、結果として長期的で持続的な利益に繋がるのです。

Q: 社会貢献活動(CSR)と、公益資本主義はどう違うのですか?

A: CSRは、多くの場合、企業が本業で得た利益の一部を使って、環境保護や寄付といった社会貢献活動を行うことを指します。一方、公益資本主義は、事業そのものが社会貢献でなければならないという考え方です。つまり、本業を通じて社会の課題を解決し、それによって利益も生み出す。「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」の考え方に、より近いものと言えます。

Q: 渋沢栄一のように、次々と事業を生み出すには、何が必要ですか?

A: 渋沢が、常に自分は「一民間人である」という意識を持ち、特定の会社のトップの座に安住しなかったことが、重要な点です。一つの成功に満足せず、常に社会全体を見渡し、「次に解決すべき課題は何か」を探し続ける起業家精神を持ち続けること。そして、自分がいなくても回るように積極的に権限移譲を進めること。この二つが、連続的事業創造の鍵です。

Q: 株主の利益(株主資本主義)と、社会の利益(公益資本主義)が対立した場合は?

A: 渋沢は、その二つは短期的には対立するように見えても、長期的には必ず一致すると考えました。社会の利益を損なうような事業は、いずれ顧客や従業員から見放され、ブランド価値は下がり、結果として株主の利益も損なわれるからです。短期的な株価を追い求めるのではなく、長期的な視点に立って社会からの信頼を勝ち得ることこそが、巡り巡って株主の利益を最大化する道だと、彼は信じていました。

筆者について

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