想定読者

  • 事業の売上や利益が拡大し、本格的に法人化を検討し始めた個人事業主
  • それぞれの事業形態が持つ、税金や経費、社会的信用の違いを、客観的に理解したい方
  • 将来的な事業拡大や資金調達を見据え、長期的な視点で、最適な事業形態を選択したいと考えている経営者

結論:今の自分の事業フェーズに、どちらが適しているか

結論から申し上げます。個人事業主と法人の間に、絶対的な優劣は存在しません。それぞれに明確なメリットとデメリットがあり、どちらを選択すべきかは、あなたの事業の売上規模、利益水準、そして将来の展望によって、大きく異なります。

個人事業主は、設立手続きが簡便で、運営コストも低いという特徴があります。一方で、法人は、税制上のメリットを享受できる可能性があり、社会的信用も高くなる傾向にあります。

この記事では、あなたが今、どちらの形態を選ぶべきか、そして、いつ移行を検討すべきかを、税制信用という2つの重要な観点から、冷静に比較検討するための材料を提供します。

第1章:「税制」の観点から比較する

最も大きな違いが生まれるのが、この税金の側面です。

税率の構造:利益があるラインを超えると有利不利が変わる

  • 個人事業主:
    • 課せられるのは所得税です。利益が大きくなるほど、税率も高くなる累進課税(5%〜45%)が適用されます。
  • 法人:
    • 課せられるのは法人税です。利益の大きさに関わらず、税率はほぼ一定(約23%前後 ※資本金や所得による変動あり)です。

ここから導き出される、一つの重要な判断基準があります。
それは、あなたの事業の課税所得が、おおよそ800万円〜900万円を超えてくると、所得税率が法人税率を上回り、一般的に法人の方が税負担は軽くなる傾向がある、という点です。これは、法人化を検討する、最も一般的なタイミングと言えます。

経費として認められる“範囲”の違い

経費として計上できる範囲は、法人の方が広くなります。

  • 社長自身の給料(役員報酬):
    • 個人事業主は、自分への給料を経費にできません。事業の利益が、そのまま個人の所得になります。
    • 法人は、社長への役員報酬を、会社の経費として計上できます。これにより、会社と個人の両方で、所得を分散し、税金をコントロールすることが可能になります。
  • 生命保険料:
    • 個人事業主は、生命保険料控除として、ごく一部しか所得から控除できません。
    • 法人は、保険の種類によりますが、社長を被保険者とする生命保険の掛金の全部または一部を、会社の経費として計上できます。
  • 赤字の繰越:
    • 個人事業主(青色申告)は、赤字を3年間繰り越せます。
    • 法人は、赤字を10年間繰り越せます。

社会保険の“強制加入”という負担

一方で、法人化には、コスト増となる大きな変化もあります。それが、社会保険への強制加入です。

個人事業主(従業員5人未満)は、国民健康保険と国民年金に加入しますが、法人化すると、たとえ社長一人だけの会社であっても、社会保険への加入が義務付けられます。
保険料は、会社と個人で折半しますが、その合計額は、国民健康保険・国民年金の組み合わせよりも、一般的に高くなるケースがほとんどです。

第2章:「社会的信用」の観点から比較する

お金の面だけでなく、事業の運営のしやすさにも、大きな違いが生まれます。

取引先からの“見え方”

  • 個人事業主:
    • 手軽に始められる反面、特に大企業との取引では、個人であるという理由で、与信審査が厳しくなったり、取引自体を断られたりするケースがあります。
  • 法人:
    • 設立に手間と費用がかかる分、登記情報が公開され、客観的な存在として認識されます。これにより、社会的信用は格段に高まり、新規取引や、より大きな規模のビジネスチャンスに繋がりやすくなります。

資金調達(融資)の“有利不利”

  • 個人事業主:
    • 融資の審査は、事業の将来性と共に、代表者個人の信用情報や資産背景が、大きく影響します。
  • 法人:
    • 融資の審査は、会社の決算書に基づいた、事業そのものの評価が中心となります。個人事業主よりも、一般的に高額な融資を受けやすく、資金調達の選択肢も広がります。

人材採用における“魅力”

  • 個人事業主:
    • 社会保険が完備されていない場合も多く、求職者からは不安定というイメージを持たれがちで、優秀な人材の確保に苦戦することがあります。
  • 法人:
    • 社会保険完備が必須であるため、求職者に対して、最低限の安心感を提示することができます。

第3章: あなたの“事業フェーズ”における最適解とは

では、これらの違いを踏まえ、あなたは今、どちらを選ぶべきなのでしょうか。

フェーズ1:まずは「個人事業主」でスタートすべき人

  • 起業1〜3年目で、まだ売上や利益が不安定な方。
  • 主にBtoCのビジネスや、フリーランスとして、身軽に活動したい方。
  • 複雑な事務手続きを避け、まずは事業そのものに集中したい方。

このフェーズでは、コストと手間を最小限に抑えられる個人事業主が、適していると言えます。

フェーズ2:「法人化」を本格的に検討すべき人

  • 年間の課税所得が、800万円を安定して超える見込みが出てきた方。
  • BtoBの取引を拡大していきたい、あるいは、許認可が必要な事業を始めたい方。
  • 事業拡大のために、金融機関からの融資や、外部からの出資を本格的に考えている方。
  • 従業員を雇用し、組織として事業をスケールさせていきたい方。

これらの条件が当てはまり始めたら、それは法人化という、次のステージへ進むべきサインです。

よくある質問

Q: 株式会社と合同会社、どちらを選べばいいですか?

A: 社会的信用や、将来的な株式上場を視野に入れるなら、株式会社が適しています。一方で、設立費用を安く抑え、経営の自由度を高く保ちたいのであれば、合同会社が魅力的な選択肢です。スモールビジネスの法人化では、近年、合同会社を選ぶケースが急増しています。

Q: 法人化すると、事務作業はどのくらい増えますか?

A: 個人事業主の確定申告に比べ、法人の決算申告は、非常に複雑です。これは、税理士のサポートなしで行うのは、現実的ではありません。また、社会保険の手続きなど、総務・経理に関わる事務負担は、確実に増えます。その事務コストの増加と、税制上のメリットを比較検討する必要があります。

Q: 個人事業主から法人化する際、何か注意点はありますか?

A: 個人事業で使っていた銀行口座や契約などを、すべて法人名義に切り替える必要があります。また、個人事業の資産を法人に売却または引き継ぐ際の手続きなど、専門的な知識が必要な場面も出てきます。この「法人成り」のプロセスは、税理士や司法書士といった専門家に相談しながら進めるのが、最も安全で確実です。

Q: 法人化のベストなタイミングは、いつですか?

A: 税金面だけで言えば、課税所得が800万円を超えた年度の、翌年の期首に法人化するのが、一つの理想的なタイミングです。しかし、大きな取引が決まった、融資を受けたい、といった事業上の必要性が生まれた時が、数字に関わらず、あなたにとってのベストなタイミングとも言えます。

Q : 一度法人化したら、個人事業主に戻ることはできますか?

A: 法人を解散・清算し、再び個人として開業届を出せば、戻ることは可能です。しかし、法人の解散・清算には、設立以上に複雑な法的手続きと、費用がかかります。そのため、法人化は、長期的な視点に立った、慎重な判断が求められます。

筆者について

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