想定読者

  • 広告の費用対効果を正しく把握し、予算配分を最適化したい経営者
  • マーケティング施策が、本当に利益に繋がっているのか疑問に感じている担当者
  • データに基づいた客観的な事業評価を行いたいスモールビジネスオーナー

結論:広告の成果は「売上」ではなく、「利益」で語れ。

Web広告に100万円を投下した結果、ECサイトの売上が500万円に増加した。
これは、成功でしょうか。

多くの経営者が、この数字だけを見て「うまくいった」と判断してしまうかもしれません。
しかし、その判断は、あなたのビジネスを静かに、しかし確実に蝕んでいく、極めて危険な罠である可能性があります。

なぜなら、その500万円の売上を上げるためにかかった商品の原価や、投下した広告費を差し引いた時、あなたの手元に残る利益は、一体いくらなのでしょうか。
もし、その答えがマイナスだとしたら。
その広告は、売れば売るほど会社の現金を溶かしていく、赤字垂れ流しのマシーンと化しているのです。

この記事で解説するROASROIは、こうした「売上は立っているのに、なぜか儲からない」という、ビジネスにおける最も恐ろしい謎を解き明かすための、二つの強力なレンズです。

  • ROASは、広告がどれだけ売上を稼いだかを測るレンズです。
  • ROIは、その投資が最終的にどれだけ利益を生んだかを測るレンズです。

この二つのレンズを正しく使い分けることで、あなたは売上という幻影に惑わされることなく、事業の真の健康状態を把握し、一円たりとも無駄にしない、賢明な投資判断を下すことができるようになります。

第1章:なぜ、あなたの広告は利益に繋がらないのか?-売上という名の“幻影”-

多くのビジネスが陥る問題の根源は、成果を測る物差しが間違っていることにあります。その間違った物差しこそが、売上至上主義です。

売上増加≠利益増加の罠

ビジネスの最終目的は、売上を上げることではありません。利益を確保し、事業を継続・成長させていくことです。この当たり前の事実が、日々の業務の中ではいとも簡単に見失われてしまいます。

特に、Web広告の世界では、管理画面に表示されるクリック数やコンバージョン数、そして売上高といった華やかな数字に目を奪われがちです。しかし、その裏側で、広告費や人件費、そして何より商品の原価といったコストが、どれだけかかっているのか。その全体像を把握しないまま、ただ売上だけを追いかける経営は、アクセルとブレーキの位置も分からずに、闇雲に車を走らせているようなものです。

感覚的な判断が招く、静かな資金流出

「なんとなく、この広告は効果がありそうだ」
「先月から売上が伸びているから、この施策は成功だろう」
こうした、データに基づかない感覚的な判断は、ビジネスにとって最も危険な敵です。

特定の広告キャンペーンが、本当に利益に貢献しているのか。それとも、実はコストばかりがかさむお荷物なのか。それを客観的な数値で判断できなければ、気づかぬうちに会社の貴重な資金は、効果のない施策に垂れ流され続けることになります。
ROASとROIは、この感覚的な経営から脱却し、全ての投資活動を客観的なデータに基づいて評価するための、共通言語なのです。

第2章:ROASとは何か?-広告の“売上”貢献度を測る指標-

まずは、多くの広告運用者が日常的に利用しているROASから見ていきましょう。

ROASの計算式と意味

ROASは、Return On Advertising Spendの略で、日本語では広告費用対効果と訳されます。
これは、投下した広告費に対して、どれだけの売上を生み出したかをパーセンテージで示す指標です。

計算式は非常にシンプルです。
ROAS (%) = 広告経由の売上 ÷ 広告費 × 100

例えば、広告費100万円に対して、500万円の売上があった場合、
ROAS = 500万円 ÷ 100万円 × 100 = 500%
となります。
これは、「広告費1円あたり、5円の売上を生み出した」ということを意味します。

ROASで何が分かるのか?

ROASは、複数の広告キャンペーンや、異なる広告媒体の効率を比較する上で、非常に有効な指標です。

例えば、以下のような状況だったとします。

  • 広告A:広告費50万円 → 売上200万円(ROAS 400%)
  • 広告B:広告費30万円 → 売上150万円(ROAS 500%)

この場合、売上額だけを見れば広告Aの方が大きいですが、広告費に対する売上の効率という点では、ROASの高い広告Bの方が優れていると判断できます。この結果に基づき、「広告Aの予算を少し削って、より効率の良い広告Bに予算を配分しよう」といった、戦術レベルの意思決定が可能になります。

ROASの限界:利益が見えないという致命的な欠点

しかし、ROASには決定的な限界があります。それは、指標の計算にコスト利益の概念が一切含まれていないことです。
ROASは、あくまで広告が生み出した売上を評価する指標であり、その広告が最終的に儲かったのかどうかまでは教えてくれません。

先ほどのROAS 500%という例に戻りましょう。
一見、非常に優秀な成果に見えます。しかし、もしこの500万円の売上を上げた商品の原価が450万円だったとしたらどうでしょうか。
利益は、500万円(売上) - 450万円(原価) - 100万円(広告費) = マイナス50万円
という、衝撃的な結果になります。
ROAS 500%を達成したにもかかわらず、実際には50万円の赤字を出していたのです。この重大な事実を、ROASという指標だけを見ていては、決して見抜くことはできません。

第3章:ROIとは何か?-事業の“利益”貢献度を測る最終指標-

このROASの限界を補い、投資の最終的な採算性を判断するための指標がROIです。

ROIの計算式と意味

ROIは、Return On Investmentの略で、投資利益率または投資対効果と訳されます。
これは、ある投資に対して、どれだけの利益を生み出したかをパーセンテージで示す指標です。

計算式は以下のようになります。
ROI (%) = 利益 ÷ 投資額 × 100
ここでいう「利益」は、一般的に「売上 - 売上原価 - 投資額」で計算されます。

先ほどの赤字の例を、ROIで計算してみましょう。
利益はマイナス50万円、投資額(広告費)は100万円でした。
ROI = -50万円 ÷ 100万円 × 100 = マイナス50%
となります。

ROIというレンズを通してみることで、この広告投資は「投資額の50%を損失した、失敗の投資だった」という事実が、誰の目にも明らかになるのです。

ROASは高いがROIは低い、危険なケース

ROASとROIの乖離は、特に利益率の低い商品を扱っている場合に発生しやすくなります。

例えば、あなたの会社が2つの商品AとBを扱っているとします。

  • 商品A:価格10,000円、利益率50%(利益5,000円)
  • 商品B:価格10,000円、利益率20%(利益2,000円)

それぞれに広告費2,000円をかけて1つずつ売れたとします。

  • 商品A:
    • ROAS = 10,000円 ÷ 2,000円 × 100 = 500%
    • ROI = (5,000円 - 2,000円) ÷ 2,000円 × 100 = 150%
  • 商品B:
    • ROAS = 10,000円 ÷ 2,000円 × 100 = 500%
    • ROI = (2,000円 - 2,000円) ÷ 2,000円 × 100 = 0%

驚くべきことに、両者のROASは全く同じ500%です。
しかし、ROIを見ると、商品Aの広告は150%の利益を生んだ優秀な投資である一方、商品Bの広告は利益ゼロ、つまりただ働きだったことが分かります。
ROASだけを見て「どちらの広告も同じくらい優秀だ」と判断してしまうと、利益の出ない商品Bの広告に、貴重な予算を投下し続けるという、大きな過ちを犯すことになるのです。

第4章:ROASとROIの戦略的な使い分け

ROASとROIは、どちらか一方が優れているというものではありません。両者の役割の違いを理解し、目的応じて戦略的に使い分けることが重要です。

ROASは「戦術レベル」の改善に使う

ROASは、利益を直接測れないという欠点はあるものの、広告キャンペーンごとの売上効率を比較する上では、シンプルで非常に便利な指標です。
以下のような、戦術レベルでの日々の改善活動に向いています。

  • 広告クリエイティブ(画像やキャッチコピー)のA/Bテスト
  • 広告媒体(Google、Facebookなど)ごとの売上貢献度の比較
  • キーワードごとの効率性の評価

これらの活動は、マーケティングの現場担当者が、日々のオペレーションを改善していく上で役立ちます。

ROIは「戦略レベル」の判断に使う

一方、ROIは、事業全体の採算性を評価し、より大きな意思決定を下すための戦略レベルの指標です。

  • 広告キャンペーン全体の最終的な採算性評価
  • 事業全体の予算配分の決定
  • 新規事業への投資判断や、不採算事業からの撤退判断

これらの活動は、経営者や事業責任者が、会社の資源をどこに集中させるべきかを判断する上で、不可欠な羅針盤となります。

つまり、現場はROASを見て日々の改善を回し、経営者はROIを見て最終的なGO/NO GOを判断する。この二階建ての構造で指標を管理することが、組織全体でデータに基づいた意思決定を行うための、理想的な形と言えるでしょう。

よくある質問

Q: ROASの目標値は、どのくらいに設定すれば良いですか?

A: ROASの目標値は、扱う商材の利益率によって大きく異なります。一つの重要な目安は、少なくとも赤字にはならないラインである「損益分岐点ROAS」です。計算式は「1 ÷ 利益率」で求められます。例えば、利益率が20%(0.2)の商品であれば、損益分岐点ROASは 1 ÷ 0.2 = 5、つまり500%となります。ROASが500%を下回ると、その広告は赤字になるということです。まずはこのラインを超えることを目指し、その上で目標利益から逆算して目標ROASを設定します。

Q: ROIがマイナスの場合、その広告や事業はすぐにやめるべきですか?

A: 必ずしもそうとは限りません。例えば、事業の立ち上げ初期段階で、まずは認知度を獲得し市場シェアを確保することを優先する戦略であれば、短期的なROIがマイナスになることは許容される場合があります。また、その広告が直接的な売上だけでなく、将来の優良顧客を生み出すきっかけ(LTV:顧客生涯価値)になっている可能性も考慮する必要があります。ただし、その場合も「いつまでにROIをプラスに転じさせるか」という明確な計画と期限は必要です。

Q: 広告以外の人件費なども、ROIの計算に含めるべきですか?

A: 厳密に言えば、その投資に関わった全てのコスト(人件費、ツールの利用料など)を含めて計算するのが理想的です。どこまでのコストを「投資額」に含めるかによって、マーケティングROI、事業ROIなど、様々な粒度のROIが存在します。まずは、最もシンプルに把握できる「売上原価」と「広告費」から計算を始め、徐々に分析の精度を高めていくのが現実的なアプローチです。

Q: ROASやROIを測定するための、便利なツールはありますか?

A: Google広告やFacebook広告などの主要な広告プラットフォームでは、管理画面上でROASを自動的に計測する機能が備わっています。ROIについては、広告のデータと、自社の販売管理システムなどにある原価データを組み合わせて計算する必要があるため、まずはExcelやスプレッドシートで管理するのが最も手軽な方法です。より高度な分析を行いたい場合は、広告効果測定ツールやBIツールを導入するという選択肢もあります。

筆者について

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