想定読者
- データとロジックに基づいた完璧な計画が、現場の反対で一向に進まないと悩んでいる経営企画部や管理部門の方
- 「現場の気持ちが分かっていない」と社内で反発されがちな、コンサルタントやスタッフ部門のマネージャー
- 部下や同僚に対し、つい正論だけで指導してしまい、人間関係がうまくいっていないと感じているすべてのリーダー
結論:組織を動かすのは「正しさ」ではない。「感情」である
あなたの立てた事業計画は、データに基づき、非の打ち所がないほどロジカルですか。その戦略は、会社にとって「正しい」と確信できるものですか。もし、そうであるにも関わらず、計画が現場で実行されないのであれば、あなたも「石田三成」と同じ罠に陥っているのかもしれません。
豊臣秀吉の天下統一を、その卓越した行政能力で支えた天才官僚、石田三成。彼は、誰よりも合理的で、誰よりも「正しく」あろうとしました。しかし、その正しさゆえに多くの反発を招き、最終的に天下分け目の関ヶ原で敗れ去ります。彼の悲劇の核にあるのは、「ロジックだけでは、人は動かない」という、時代を超えた組織の真理です。組織を動かす計算式の答えは、数字の正しさだけでは導き出せません。そこには、現場で働く人々の「感情」という、最も複雑で重要な変数が存在するのです。この記事では、三成の失敗から、正論を「実行」へと繋げるための組織論を学びます。
なぜ三成は「正しかった」のに嫌われたのか?
石田三成は、現代で言えば、超優秀な経営企画室長、あるいはCOOのような存在でした。複雑な検地(市場調査と資産査定)を正確に実施し、朝鮮出兵では膨大な兵糧の管理(ロジスティクス)を完璧にこなす。彼の能力なくして、秀吉の巨大組織は機能しなかったでしょう。
しかし、彼の「正しさ」は、多くの敵を作りました。特に、加藤清正や福島正則といった、戦場で命を張って戦う「武断派」(現場の事業部長クラス)との対立は深刻でした。彼らにとって、戦場での働きを、後方で数字やルールに基づいて冷徹に評価する三成は、「現場の苦労も知らないくせに」という反感の対象でした。なぜ、会社にとって「正しい」はずの三成の仕事が、これほどの反発を生んでしまったのでしょうか。それは、彼が組織を動かす上で、致命的な過ちを犯していたからです。
経営企画室(三成)が現場(武断派)に嫌われる「3つの理由」
1. 現場へのリスペクトの欠如
三成は、戦場で武功を立てた武将たちの働きを、客観的な「数字」と「ルール」に基づいて評価しました。これは、公平である一方、現場の兵士たちが流した汗や血、数字には表れない奮闘や苦労を軽視している、と受け取られがちでした。データやロジックを重視するあまり、現場で働く人々へのリスペクトを忘れてしまう。これは、現代のスタッフ部門が最も陥りやすい過ちです。現場は、自分たちが単なる「データ」や「処理対象」として見られることを、何よりも嫌います。
2. コミュニケーション不足と「根回し」の軽視
三成は、自らの計画の「正しさ」を信じるあまり、現場のキーマンへの事前の相談や意見調整、いわゆる「根回し」を怠る傾向がありました。彼からすれば、正しいことを実行するのに、なぜわざわざ機嫌を取る必要があるのか、という感覚だったのかもしれません。しかし、現場からすれば、それは「トップダウンで一方的に降ってきた決定」に過ぎません。たとえ内容が正しくても、「俺たちの意見を聞かずに勝手に決められた」という感情的な反発が、実行への大きな抵抗勢力となるのです。
3. 「清濁併せ呑む」姿勢の欠如
正義感が強く、不正を許さない三成の性格は、組織の規律を保つ上では重要でした。しかし、その潔癖さが、融通の利かなさにも繋がりました。水清ければ魚棲まず。組織には、ルール通りにはいかない「現場の慣習」や、人間関係のしがらみといった、清濁併せ持った現実が存在します。すべてを白か黒かで判断し、正論だけで裁こうとすれば、多くの人を敵に回すことになります。時には、理想論だけでなく、現場の現実を理解し、戦略的に妥協する「大人の対応」も必要なのです。
「ロジック」と「感情」を繋ぐ、3つのコミュニケーション術
では、どうすれば「三成の罠」を回避し、ロジカルな計画を現場に浸透させることができるのでしょうか。
1. 「ファクト」の前に「ストーリー」を語る
人は、正しい情報だけでは動きません。その情報に、心が動かされて初めて行動に移します。新しい計画を説明する際、いきなりデータやファクトを並べるのはやめましょう。まずは、「なぜ、今この改革が必要なのか」その背景にある危機感や、改革によって実現したい未来の姿を、感情に訴えかける「ストーリー」として語るのです。社員が「自分たちの未来のために、やるべきことなのだ」と納得して初めて、彼らは分厚い計画書を読み解こうという気持ちになります。
2. 「正論」の前に「共感」を示す
現場に変化を求める際、彼らが抱えている日々の業務の負担や、新しいことへの不安に対して、まず「共感」を示すことが不可欠です。「今のやり方も、大変ですよね」「新しいことを覚えるのは、負担に感じるのも無理はありません」。このように、まず相手の立場を理解しようとする姿勢を見せることで、相手は心を開き、こちらの話を聞く準備ができます。共感は、信頼関係を築くための第一歩です。
3. 「決定」の前に「相談」する
完璧な計画を一人で作り上げ、それを「説明」しにいくのは、最悪のやり方です。そうではなく、計画がまだ荒削りな段階から、現場のキーマンや、影響力のあるベテラン社員を巻き込み、「相談」という形で意見を求めましょう。「この計画、どう思いますか?」「現場の視点から見て、懸念点はありますか?」。人は、自分が関わったものに対しては、協力的になるものです。この「巻き込み」のプロセスこそが、計画の実行性を何倍にも高めるのです。
よくある質問
Q: 現場の意見ばかり聞いていると、抜本的な改革が進まないのでは?
A: もちろん、最終的な意思決定は経営陣が行うべきです。重要なのは、意見を聞くことと、それに従うことを混同しないことです。意見を聞く目的は、現場の情報を収集し、反発の芽を事前に摘み、計画の精度を高めるためです。その上で、なぜその意見を採用し、あるいは採用しないのかを、論理的に説明する責任が、計画者にはあります。
Q: 感情論に流されず、ロジカルに判断することこそ重要ではないですか?
A: 判断そのものは、データに基づき、ロジカルに行うべきです。しかし、その「伝え方」と「実行プロセス」においては、感情への配慮が不可欠です。ロジカルな判断と、感情的なコミュニケーションは、対立するものではなく、両立させて初めて機能する、車の両輪のようなものです。
Q: 「根回し」は、非効率で不誠実な行為に感じます。
A: 「根回し」という言葉に、ネガティブなイメージがあるかもしれません。しかし、これを「ステークホルダーとの事前の対話」と捉え直してみてください。関係者の懸念を事前に解消し、協力を取り付けておくことは、プロジェクトを円滑に進めるための、極めて合理的で誠実なマネジメント行為です。
Q: どうしても反発してくるキーマンには、どう対処すれば良いですか?
A: まず、なぜその人が反発するのか、その理由を1対1で徹底的にヒアリングしましょう。単なる感情的なものか、あるいは計画に本質的な欠陥があるのかを見極めます。その上で、仲間になってもらう努力を最大限行い、それでも難しい場合は、その人の影響力を無力化するような、戦略的な人事配置や、周囲から固めていくアプローチが必要になるかもしれません。それもまた、組織を動かすための現実的な戦術です。
筆者について
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