想定読者
- 優秀なデザイナー、エンジニア、研究者といった専門職人材の扱いに苦慮し、その才能を活かしきれていないと感じる経営者やマネージャー
- クライアントワークにおいて、クリエイターとの円滑なコミュニケーションや、アウトプットのディレクションに難しさを感じている方
- 組織の中で、自らの専門性やこだわりと、会社の要求との間で板挟みになり、悩んでいるすべてのクリエイターや専門家
結論:天才のマネジメントは「管理」ではなく「共創」である
あなたの会社に、誰も真似できない、卓越した才能を持つクリエイターや専門家はいますか。もし、いるのであれば、その存在は、会社にとって最大の資産であり、同時に、最も扱いの難しい「劇薬」でもあります。その関係性を一歩間違えれば、組織に革新をもたらすはずの才能は、逆に、組織を破壊するほどの対立を生み出しかねません。
その歴史上、最も有名で、最も悲劇的な例が、天下人・豊臣秀吉と、茶聖・千利休の関係です。秀吉は、なぜ、自らが最も才能を愛したクリエイターを、最後には死に追いやってしまったのか。この悲劇の核にあるのは、経営者がクリエイターを「便利な道具」として管理しようとした時に起こる、必然的な破綻です。彼らの才能を真に解放するマネジメントは「管理」ではありません。彼らの美学に敬意を払い、対等なパートナーとして共に創り上げる「共創」の覚悟が、経営者には求められるのです。
なぜ秀吉は、利休を殺さねばならなかったのか?
秀吉は、派手なことを好む性格でしたが、利休が生み出す、静かで質素な「わび茶」の世界を深く理解し、その才能を誰よりも高く評価していました。黄金の茶室で、最高級の茶器を自慢する秀吉と、ありふれた自然の中に美を見出す利休。この対照的な二人の関係は、当初、互いに刺激を与え合う、創造的なものでした。
しかし、利休の名声が高まり、彼の示す美意識が、絶対的な「基準」となっていくにつれ、秀吉は、自らの価値観が脅かされるような、強い不満と嫉妬を抱くようになります。「わしが天下人なのに、なぜ茶の湯の世界では、利休が基準なのだ」。経営者(秀吉)が、クリエイター(利休)を、自らのコントロール下に置こうとした時、創造的だったはずの関係は、破滅的な権力闘争へと姿を変えてしまったのです。
天才クリエイター(利休)が持つ「3つの特性」
彼らとの協業を成功させるには、まず、その特異な思考様式を理解する必要があります。
1. 独自の「美学(こだわり)」を持つ
彼らは、ただ言われた通りのものを作る、単なる作業者ではありません。彼らの内には、絶対に譲れない、言語化しにくいほどの「美学」や「哲学」が存在します。利休にとっての「わびさび」が、それでした。彼らが生み出す優れたアウトプットは、すべて、この強固な美学から生まれています。それを否定することは、彼らの存在そのものを否定することに等しいのです。
2. 権威に屈しない「自尊心」
彼らのプライドの源泉は、自らの「才能」と「仕事」そのものです。そのため、上司の役職や、クライアントの権威に対して、安易に屈服しません。彼らが頭を下げるのは、優れた仕事に対してだけであり、権力に対してではありません。利休が、天下人である秀吉の命令にさえ、自らの美学を曲げずに抵抗したのが、その良い例です。
3. 利益や効率とは別の「価値基準」
彼らを動かす最大のモチベーションは、金銭や地位だけではありません。むしろ、「その仕事が、自分の美学に合致するか」「新しい挑戦であり、面白いか」「自分の才能を、最大限に発揮できるか」といった、内面的な価値基準を、何よりも重視します。秀吉が求めた豪華絢爛な世界よりも、利休は、竹を削って作った一本の花入れにこそ、至上の価値を見出したのです。
クリエイターの才能を活かす、3つのマネジメント術
では、どうすれば、この扱いにくい天才たちと、うまく協業できるのでしょうか。
1. 「What(何を作るか)」ではなく「Why(なぜ作るか)」を共有する
クリエイターに対して、作るべきものを、細かく、具体的に指示するのは、最悪のマネジメントです。それは、彼らを単なる「作業者」に貶め、その才能を殺す行為です。あなたが共有すべきなのは、「何を作るか(What)」ではなく、「なぜ、それを作る必要があるのか(Why)」です。プロジェクトの目的、背景、それによって解決したい顧客の課題、実現したい世界観。この「Why」の部分を、情熱を持って、丁寧に共有するのです。そうすれば、最適な「What」は、彼らが、あなたの想像を超えた形で、生み出してくれるはずです。
2. 「評価」ではなく「フィードバック」を与える
彼らの成果物に対し、軽々しく「良い・悪い」という「評価」を下してはいけません。それは、彼らの美学に対する一方的な断罪となり、心を閉ざさせてしまいます。代わりに、あなたが与えるべきは「フィードバック」です。「私は、このデザインを見て、こういう気持ちになった」「この部分から、こういう意図を感じたが、それは合っているだろうか?」というように、あくまで「私」を主語にした主観的な感想や、意図の確認、という形で対話を試みるのです。対等な対話を通じて、ゴールをすり合わせていく姿勢が、信頼関係を築きます。
3. 「管理」ではなく「最高の環境」を提供する
彼らを、厳格なルールや、マイクロマネジメントで「管理」しようとしても、決して良いアウトプットは生まれません。彼らにとって、最高のパフォーマンスを発揮するために必要なのは、最高の「環境」です。それは、最高の道具(PCやソフトウェア)、集中できる時間、そして、余計な口出しをせず、才能を信じて任せてくれるという「信頼」です。秀吉がやるべきだったのは、利休に最高の茶器と茶室を与え、「あとは、よしなに頼む」と、静かに待つことだったのかもしれません。
よくある質問
Q: クリエイターのこだわりが強すぎて、納期や予算を守ってくれません。
A: プロジェクトの最初に、「制約」そのものを、クリエイティブを発揮するためのお題(テーマ)として共有することが重要です。「この予算と納期の中で、最高のパフォーマンスを発揮してください」と、明確に伝えるのです。優れたクリエイターは、制約がある方が、むしろ燃えるものです。制約を守れないのは、プロ意識の欠如であり、単なるわがままです。
Q: フィードバックをすると、すぐに機嫌を損ねてしまいます。
A: それは、あなたのフィードバックが「評価」になっているか、あるいは、伝え方の問題かもしれません。まず、「素晴らしい仕事だ」という、ポジティブな点から伝え、感謝を示しましょう。その上で、「さらにもっと良くするために、一つだけ相談なのだが」というように、あくまで「より良くするための共同作業」というスタンスで、対話を始めることが大切です。人格やセンスを否定するような言葉は、絶対に避けましょう。
Q: 結局、利休はなぜ切腹させられたのですか?
A: その理由は、今も歴史上の謎とされています。しかし、マネジメントの観点から見れば、それは、秀吉が利休を「自分の支配下に置くべき家臣」と捉え、利休が自らを「美の世界を司る、独立した存在」と捉えた、その「認識のズレ」が、修復不可能なレベルにまで達した結果、と言えるでしょう。これは、経営者とクリエイターの関係において、いつでも起こりうる悲劇なのです。
筆者について
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