想定読者

  • 事業が多角化し、グループ全体の舵取りや、事業部間の連携に難しさを感じている経営者
  • 子会社や各事業部が、自社の利益ばかりを追求し、組織全体の最適化が図れていないと問題意識を持つ方
  • M&A後の組織統合(PMI)や、ホールディングス経営への移行を検討しているリーダー

結論:グループ経営の要諦は「独立」と「一体」の矛盾した両立にある

あなたの会社には、いくつの事業部や子会社がありますか。そして、それらの組織は、一つの目標に向かって、互いに連携し、力を高め合っているでしょうか。それとも、サイロ化し、互いにいがみ合い、グループ全体の足を引っ張り合ってはいないでしょうか。この問題の解決策は、500年前の日本の、一人の老獪な武将の戦略にあります。

中国地方の小領主から、一代で巨大勢力を築き上げた謀将・毛利元就。彼の成功の核は、有名な「三本の矢」の教えに象徴される、巧みな「グループ経営戦略」でした。その要諦は、各事業部(息子たち)に大幅な権限を与えて「独立」させ、それぞれの強みを最大限に引き出しつつ、毛利家全体としては「一体」として、共通の目的に向かわせるという、一見、矛盾した二つの要素を、高いレベルで両立させた点にあります。「三本の矢」とは、単なる精神論ではありません。それは、自律した個々の強さを、共通の目的のために束ねる、高度なガバナンスの仕組みそのものなのです。

なぜ元就は「三本の矢」の教えを説いたのか?

元就が家督を継いだ頃の毛利氏は、いつ滅ぼされてもおかしくない、弱小勢力の一つでした。そこから、謀略の限りを尽くし、中国地方の覇者にまで成り上がった彼の生涯は、常に「毛利家をどう存続させ、発展させるか」という問いとの戦いでした。

事業が成長し、組織が拡大するにつれ、創業者一人のトップダウン経営には、必ず限界が訪れます。元就は、そのことを誰よりも深く理解していました。だからこそ、彼は、自分の息子たちを次世代のリーダーとして育て、それぞれに重要な役割と権限を与え、個人商店の「毛利屋」を、巨大なコングロマリットである「毛利グループ」へと、見事に変貌させたのです。

シナジーを生む「毛利両川体制」という名のグループ経営

元就が築いた経営体制は、現代のホールディングス経営の、まさに原型とも言える、非常に洗練されたものでした。

1. 各事業部の役割分担と独立性(分社化経営)

元就は、長男の隆元を毛利本家の後継者(グループCEO)とする一方、次男の元春を「吉川家」、三男の隆景を「小早川家」という、有力な武家に養子として送り込み、事実上、乗っ取る形で傘下に収めました。そして、それぞれの家(事業子会社)の経営は、息子たちに完全に任せたのです。

これにより、吉川家は「武」に秀でた戦闘部隊として、小早川家は「智」と「水軍」を擁する特殊部隊として、それぞれの強みを活かし、責任と権限を持って、スピーディーな意思決定を行えるようになりました。これは、各事業部が、市場の変化に迅速に対応するための「分社化経営」の考え方そのものです。

2. 共通のビジョンとガバナンス(企業理念と取締役会)

独立した各社を、毛利グループとして一つに束ねていたのが、「毛利家の安泰と発展」という、明確で共通のビジョンでした。元就は、「百万一心(皆で心を一つにすれば、何事も成し遂げられる)」といったスローガンを掲げ、この理念を徹底的に息子たちに叩き込みました。

そして、グループ全体の重要事項、例えば、織田信長と戦うか、和睦するか、といった経営の根幹に関わる意思決定は、元就と息子たちによる合議で決定されました。これは、まさに、グループ全体の理念を共有しつつ、ホールディングスの取締役会で、各社のトップが重要事項を議論する、現代のガバナンスモデルと重なります。

3. 人材・ノウハウの共有(グループ内連携)

毛利グループの強みは、各社が独立しているだけでなく、必要に応じて、見事に連携(シナジー)した点にあります。陸上での戦いでは、武勇に優れた吉川軍が主力となり、海上での戦いや、交渉事では、知略に長けた小早川家が前面に出る。そして、毛利本家は、全体の戦略を描き、兵站を管理する。このように、グループ内で、人材やノウハウを柔軟に融通し合うことで、一個の会社では到底実現できない、総合力を発揮したのです。

組織再編を成功させる、元就の「深謀遠慮」

元就のグループ経営は、その組織再編の見事さにも、学ぶべき点が多くあります。

時間をかけた周到な準備

元就が、吉川家や小早川家を乗っ取った手法は、現代で言えば、敵対的買収(TOB)に近いものです。しかし、彼は、決して力任せには行いませんでした。何年もかけて、対象企業の内部に内通者を作り、キーマンを味方に引き入れ、反対勢力を孤立させるなど、周到な根回しと準備を行いました。M&Aや組織再編が、いかに「ディール(取引)そのもの」よりも、その前後の「準備」と「統合プロセス(PMI)」が重要であるかを、彼の事例は教えてくれます。

抵抗勢力への非情な決断

その一方で、元就は、毛利グループ全体の利益を阻害する抵抗勢力に対しては、極めて非情な決断を下しました。乗っ取りの過程で、最後まで抵抗する一族を、謀略を用いてでも容赦なく滅ぼしています。組織再編においては、全体の利益のために、時には、一部の部署の反対を押し切ったり、抵抗する役員を更迭したりする、という厳しい判断が、リーダーには求められるのです。

「三子教訓状」にみる理念の浸透

元就が、息子たちに残した「三子教訓状」と呼ばれる、14ヶ条にも及ぶ長い手紙は、彼の経営哲学の集大成です。そこには、兄弟仲良くすることの重要性だけでなく、家臣への接し方、情報収集の重要性、神仏への敬意まで、リーダーとしての心構えが、繰り返し、丁寧に書き記されています。これは、グループ経営の核となる「理念」や「価値観」を、次世代のリーダーに、いかに粘り強く、情熱を持って伝え続けるべきかを示しています。

よくある質問

Q: 各事業部の独立性を認めると、グループ全体がバラバラになりませんか?

A: そのために、元就が「毛利家の安泰」という共通ビジョンを徹底したように、グループ全体を束ねる、強力な企業理念やパーパスが不可欠です。そして、その理念が、各事業部のトップにまで、完全に浸透していることが重要です。理念なき独立は、単なる分裂に過ぎません。

Q: 事業部間の利害が対立した場合は、どう調整すれば良いですか?

A: それこそが、ホールディングス(毛利本家)の最も重要な役割です。各事業部のトップが集まる会議体(取締役会)で、徹底的に議論させ、それでも決まらない場合は、グループ全体の利益という、一段高い視点から、トップが最終的な裁定を下す必要があります。その裁定に、全員が従うという規律が、グループ経営の要です。

Q: ホールディングス化のメリットとデメリットは何ですか?

A: メリットは、各事業の意思決定の迅速化、責任の明確化、そしてM&Aや事業売却のしやすさです。デメリットは、本社機能が肥大化し、コストが増加する可能性があることや、各社が完全に縦割りになり、シナジーが生まれにくくなるリスクがあることです。元就の体制は、このデメリットを、理念の共有と合議制で克服しようとした、優れたモデルでした。

Q: 元就のように、自分の子供を後継者にするのは、現代でも有効ですか?

A: 同族経営には、長期的な視点で経営ができる、理念がブレにくい、といったメリットがあります。しかし、能力のない親族を後継者にすれば、組織は必ず傾きます。重要なのは、血縁かどうかではなく、その人物が、グループ全体を率いるリーダーとしての器量と、理念への深い共感を持っているかどうかです。元就は、息子たちが、その器量を持っていると、確信していました。

筆者について

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