想定読者

  • 「あの人にしかできない仕事」が多く、業務が属人化していることに課題を感じる経営者
  • 新入社員の教育に膨大な時間がかかり、なかなか戦力化できないことに悩んでいるリーダー
  • チーム全体の知識レベルを底上げし、組織としての競争力を高めたいと考えている方

結論:知識は「貯める」ものではない。「流す」ものだ。

あなたの会社には、「あの人の勘と経験が頼り」「この仕事は、〇〇さんにしかできない」といった言葉が飛び交っていないでしょうか。一見すると、それは優秀な個人がいる証拠のように見えます。

しかし、その実態は、個人の頭の中にしかない「暗黙知」が、組織の成長を阻む最大のボトルネックと化している状態です。なぜなら、その人がいなくなれば、その知識は失われ、業務は滞り、組織は停滞するからです。

組織の真の競争力は、個人の「暗黙知」の量ではありません。それは、それをどれだけ「形式知」に変え、組織全体で共有・活用できるかにあるのです。

ナレッジマネジメントは、単なる情報共有の仕組みではありません。それは、組織の「知」を循環させ、持続的な成長を可能にするための、最も重要な「知的インフラ」なのです。

あなたの会社に潜む「見えない資産」と「見えないリスク」

個人の経験や勘、ノウハウといった「暗黙知」は、確かにその人にとっては貴重な資産です。しかし、それが個人の頭の中に留まっている限り、組織にとっては「見えない資産」であり、同時に「見えないリスク」でもあります

まず、業務の属人化というリスクです。特定の個人に業務が集中し、その人が不在になると、仕事が滞ってしまいます。これは、組織全体の生産性を著しく低下させます。

次に、再現性の低さです。個人のノウハウが共有されないため、他の人が同じ業務を行っても、同じ品質や効率で成果を出すことができません。これにより、業務品質が不安定になり、顧客満足度にも影響が出ます。

そして、教育コストの増大です。新入社員や異動者が、一から業務を学ぶ必要があり、教育に膨大な時間と労力がかかります。これは、組織の成長スピードを鈍化させる大きな要因となります。

「暗黙知」を「形式知」に変えるSECIモデルとは?

この「暗黙知」を、誰もが共有・活用できる「形式知」に変えるためのプロセスを体系化したのが、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が提唱した「知識創造理論(SECIモデル)」です。SECIモデルは、以下の4つのプロセスを通じて、組織の知識が螺旋状に進化していくことを示しています。

  • 共同化(Socialization):経験を共有し、暗黙知から暗黙知へ OJT(On-the-Job Training)、雑談、飲み会、ブレインストーミングなど、言葉にならない経験や感覚を、共に体験することで共有するプロセスです。
  • 表出化(Externalization):暗黙知を言語化・図式化し、形式知へ 個人の頭の中にあるノウハウやコツを、マニュアル、議事録、プレゼン資料、フレームワークなど、誰もが理解できる形に言語化・図式化するプロセスです。
  • 連結化(Combination):形式知と形式知を組み合わせ、新たな形式知へ 既存の形式知(データ、報告書、マニュアルなど)を組み合わせ、分析し、新たな知識や知見を生み出すプロセスです。データ分析、レポート作成、新しいフレームワークの構築などがこれにあたります。
  • 内面化(Internalization):形式知を実践し、個人の暗黙知へ 共有された形式知を、個人が実際に業務で実践し、経験を積むことで、それが個人のスキルや勘といった新たな暗黙知となるプロセスです。

このSECIサイクルを組織全体で回すことで、個人の知識が組織の知識となり、組織の知識が個人のスキルをさらに高める、という好循環が生まれるのです。

組織の「知」を循環させるための3つの実践策

では、このSECIサイクルを組織全体で回し、組織の「知」を循環させるためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。

一つ目の実践策は、「雑談」を奨励し、共同化を促す場を作ることです。形式的な会議だけでなく、ランチや休憩時間、社内イベントなど、メンバーが気軽に経験やノウハウを共有できる非公式な場を意図的に設けましょう。心理的安全性の高い環境で、何気ない会話の中から、貴重な暗黙知が共有されることがあります。

二つ目の実践策は、「アウトプットを義務化」し、表出化を促すことです。日報や週報、議事録、プロジェクトの振り返り(KPTなど)において、「何がうまくいったか」「なぜうまくいったか」といった成功要因やノウハウを、必ず言語化して記録するルールを設けましょう。この「書く」という行為が、暗黙知を形式知に変える第一歩となります。

そして三つ目の実践策は、「ナレッジ共有ツール」を導入し、連結化を促進することです。Confluence、Notion、社内Wikiなど、誰もが簡単に情報を検索・閲覧・編集できるプラットフォームを用意しましょう。そして、そのツールへの貢献(例えば、マニュアルの更新や、新しいノウハウの投稿など)を評価する仕組みも導入することで、社員が積極的に知識を共有するモチベーションを高めます。

ナレッジマネジメントは、組織の「知的インフラ」である

ナレッジマネジメントは、単なる情報共有の仕組みではありません。それは、組織の「知」を循環させ、持続的な成長を可能にするための、最も重要な「知的インフラ」です。

個人の経験やノウハウが、組織全体の資産となり、新しいアイデアやイノベーションの源泉となります。新入社員は、先輩たちの形式知を学ぶことで、早期に戦力化できます。そして、形式知化された業務プロセスは、常に改善され、組織全体の生産性を高めます。

この知的インフラを整備することこそが、変化の激しい現代において、組織が生き残り、成長し続けるための、最も重要な戦略なのです。

よくある質問

Q: 忙しくて、ナレッジを形式知化する時間がありません。

A: それは、ナレッジマネジメントを「追加業務」と捉えているからです。むしろ、ナレッジマネジメントは、将来の時間を生み出すための「投資」です。例えば、マニュアル作成は、将来の教育コストを削減します。日報でのノウハウ共有は、他のメンバーのミスを防ぎ、業務効率を高めます。短期的な時間投資が、長期的な時間削減に繋がるのです。

Q: 自分のノウハウを教えることに、抵抗を感じる社員がいます。

A: 自分のノウハウが「唯一無二の価値」だと考えている社員は、それを共有することに抵抗を感じるかもしれません。その場合は、「ノウハウを共有することで、あなたはより高次の仕事に挑戦できる」「あなたのノウハウが、組織の財産として永続的に残る」といった、共有することのメリットを丁寧に伝えましょう。また、共有への貢献を評価する仕組みも重要です。

Q: どんな情報を形式知化すればいいですか?

A: まずは、業務の属人化が進んでいる部分や、新入社員が頻繁に質問する部分から着手しましょう。成功事例のノウハウ、失敗事例からの教訓、よくある質問とその回答、業務フロー、システムの使い方などが挙げられます。完璧を目指さず、小さく始めて、徐々に広げていくのが良いでしょう。

Q: ナレッジマネジメントツールを導入しても、誰も使ってくれません。

A: ツールはあくまで手段です。重要なのは、ツールを使う「文化」を醸成することです。リーダーが率先してツールを使い、積極的に情報を共有する姿を見せる。ツールへの貢献を評価する。そして、ツールを使わないと仕事が回らないような仕組み(例:マニュアルはツールにしかない、など)を作ることも有効です。

筆者について

記事を読んでくださりありがとうございました! 私はスプレッドシートでホームページを作成できるサービス、SpreadSiteを開発・運営しています! 「時間もお金もかけられない、だけど魅力は伝えたい!」という方にぴったりなツールですので、ホームページでお困りの方がいたら、ぜひご検討ください! https://spread-site.com