想定読者
- 明らかに失敗しているプロジェクトや赤字事業から、撤退の決断ができずにいる経営者
- 「もったいない」という気持ちが強く、損切りが苦手な方
- 過去の自分の意思決定の過ちを、なかなか認められないと感じているリーダー
結論:過去のコストは「ゼロ」と見なせ。未来の利益を最大化する、非情な合理性こそが経営者を救う
「ここまで、時間と金を、どれだけつぎ込んできたと思っているんだ…」
赤字を垂れ流し続ける事業を前に、あなたは、そう呟いていないだろうか。その思考こそが、あなたの会社を静かに、しかし確実に破滅へと導く「サンクコストの呪縛」の正体です。
サンクコスト(埋没費用)とは、すでに支払ってしまい、決して回収できないコストのこと。経済合理性に基づけば、このコストは、未来の意思決定において、完全に「無視」されなければなりません。しかし、人間の心は、そう合理的にはできていません。
この記事では、なぜ経営者がこの罠にハマるのか、その心理を解き明かし、呪縛から逃れて、賢明な判断を下すための思考法を解説します。
あなたは「コンコルドの誤謬」に陥っていないか?
サンクコストの代名詞「コンコルドの悲劇」
かつて、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機「コンコルド」は、開発途中で「この事業は、商業的に絶対に成功しない」と明らかになりました。しかし、両国の政府は「ここまで巨額の投資をしたのだから、今さらやめられない」と開発を続行。結果、歴史に残る大赤字プロジェクトとなりました。この事例は、サンクコストが合理的な判断を狂わせる典型として、「コンコルドの誤謬」と呼ばれています。
私たちは本能的に、「これまでの自分の投資(時間、お金、労力)を無駄にしたくない」「自分の過去の判断は、正しかったと思いたい」という、強力な心理(一貫性の原理、損失回避性)に縛られているのです。
サンクコストが経営を破壊するプロセス
この心理的な罠は、経営において、より深刻なダメージをもたらします。
①赤字事業への追加投資
「あと少し、あと少しだけ資金を投入すれば、きっと状況は好転するはずだ…」 サンクコストに囚われた経営者は、回収の見込みがない事業に、さらに貴重な資金を追加投入してしまいます。これは、傷口に塩を塗り込むような行為であり、会社の体力をどんどん奪っていきます。
②優秀な人材の塩漬け
不採算事業に固執することは、そこに投入されている人材、特に優秀な人材を「塩漬け」にすることを意味します。彼らを、もっと成長性のある事業に配置転換すれば、会社全体として、より大きな利益を生み出せたはず。サンクコストは、目に見えない「機会損失」を、際限なく生み出し続けるのです。
③経営者のメンタルと時間の浪費
そして何より、経営者自身の貴重なメンタルと時間が、過去の失敗の言い訳や、どうにもならない現状の打開策を考えることに、浪費されてしまいます。経営者が集中すべきは、過去ではなく、未来であるはずです。
呪縛から逃れるための「3つの思考法」
では、どうすれば、この強力な呪縛から逃れることができるのでしょうか。以下の3つの思考法が、あなたを助けてくれます。
①ゼロベース思考
「もし、今、自分がゼロから事業を始めるとしたら、それでもこの事業に、この額の投資をするだろうか?」
この問いを、自分に投げかけてみてください。もし答えが「No」なら、あなたはサンクコストに囚われています。過去の投資額は、一旦すべて忘れてください。ゼロから考えて、それでもなお、未来の価値があると信じられるか。それが、判断の唯一の基準です。
②機会費用の意識
「この事業に、これだけの資金と人材を縛り付けておくことで、失っている“他の可能性”は何だろうか?」
機会費用とは、ある選択をすることで、失われることになった「他の選択肢から得られたはずの利益」のことです。赤字事業に固執することは、そのリソースを使って新しいヒット商品を生み出す機会や、既存の優良事業をさらに伸ばす機会を、捨てていることと同じなのです。
③第三者の視点
「もし、これが親友の会社だったら、自分は彼に何とアドバイスするだろうか?」
自分のことになると、どうしても感情や過去の経緯が判断を鈍らせます。そこで、あえて一歩引いて、これを「他人の問題」として捉え直してみるのです。驚くほど、冷静で、客観的で、そして正しい判断が下せるはずです。「友人になら、『そんな事業、早くやめちまえよ』と、きっと言うだろう」と。
「撤退」は失敗ではない。未来への「戦略」だ
多くの経営者は、「撤退」を「失敗」や「敗北」と捉え、それを認めることを恐れます。しかし、それは大きな間違いです。
賢明な損切りは、未来のより大きな利益を守るための、最も重要な経営判断の一つです。失敗を認め、そこから学び、次の挑戦にリソースを再配分する。その勇気ある決断こそが、会社を長期的に成長させるのです。
「やめること」を、ネガティブな敗北ではなく、未来へのポジティブな「戦略」として、あなたの経営の選択肢に、加えてください。
よくある質問
Q: どこまでが「粘り」で、どこからが「サンクコストの罠」ですか?見極めが難しいです。
A: 非常に重要な問いです。一つの判断基準は、「客観的なデータや市場の反応が、好転する兆しを示しているか?」です。何のポジティブな兆候もないのに、「自分の頑張り」や「根性」だけで続けようとしているなら、それは危険な兆候です。定期的に「もし、これが他人の事業だったら…」と自問する習慣をつけましょう。
Q: 社員や株主など、周りの手前、今さら「やめます」とは言えません。
A: 経営者の最も重要な仕事は、会社の存続と、従業員の雇用を守ることです。目先の体面を保つために、会社全体を沈没させては、元も子もありません。「このまま続けることが、長期的には、より多くの人に迷惑をかけることになる。だからこそ、今、この決断をする」という、誠実な説明責任を果たす覚悟が必要です。
Q: 撤退した後、残った社員のモチベーションをどう維持すれば良いですか?
A: 「なぜ、この事業から撤退するのか」そして「撤退によって得られたリソースを、次にどこへ集中させるのか」という、会社の未来に向けた、明確でポジティブなビジョンを示すことが不可欠です。撤退が、未来への希望ある一歩なのだと、社員全員が納得できれば、モチベーションは維持できます。
Q: サンクコストを意識しすぎると、挑戦そのものが怖くなりませんか?
A: 逆です。サンクコストの概念を理解しているからこそ、「もし、この挑戦がうまくいかなくても、傷が浅いうちに撤退すれば良い」と考えることができ、むしろ、より大胆に、新しい挑戦へ踏み出しやすくなるのです。サンクコストは、挑戦のブレーキではなく、むしろ、挑戦を後押ししてくれる「安全網」の役割を果たすのです。
筆者について
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