想定読者
- 情報が溢れる中で、何が本質かを見抜く力が必要だと感じている経営者・起業家
- 新規事業や未知の領域への挑戦に、漠然とした不安を感じている方
- 自分の思考の「クセ」を自覚し、より柔軟で強靭な思考力を手に入れたい方
結論:経営とは「答えのない問い」の連続。その荒波を乗りこなす「思考のコンパス」を手に入れろ
私たちは、学校教育を通じて、常に「唯一の正しい答え」を探す訓練をさせられてきました。しかし、一度ビジネスの世界に足を踏み入れれば、そんなものはどこにも存在しないことに気づかされます。
「この事業は、本当に儲かるのか?」 「来期の売上は、どれくらいになるだろうか?」 「今、この投資をすべきか、見送るべきか?」
これらはすべて、誰も正解を知らない「答えのない問い」です。この問いを前にした時、あなたの思考は停止していないでしょうか?
フェルミ推定の本質は、計算テクニックなどではありません。それは、「情報が不完全な状態を恐れず、論理と創造性で、自分なりの『仮の答え』を構築する思考態度」そのものです。それは、正解を探す「検索能力」ではなく、答えを創り出す「構築能力」であり、経営者の「地頭力」の核となるものです。
あなたは、まだ「正解」を探しているのか?
「正解主義」という呪い
テストで良い点を取るためには、用意された正解を、いかに早く正確にアウトプットするかが重要でした。しかし、この「正解主義」は、ビジネスの世界では、むしろ思考を停止させる呪いになります。なぜなら、ビジネスの現場に、教科書の練習問題のような、あらかじめ用意された「正解」など、一つもないからです。
思考停止と「仮説構築」の分岐点
「データがないから、分かりません」 「前例がないので、判断できません」
これは、思考停止の典型です。一方で、地頭の良い経営者は、こう考えます。
「正確なデータはない。しかし、今ある情報から類推するに、おそらくこうではないか?」
この、「分からない」から一歩踏み出し、自分なりの「仮説」を立てられるかどうか。それこそが、単なる作業者と、価値を創造する経営者を分ける、決定的な差なのです。
フェルミ推定がもたらす「3つの力」
フェルミ推定のトレーニングを続けると、経営者に不可欠な3つの力が身につきます。
①仮説構築力
情報の断片と断片を繋ぎ合わせ、物事の全体像や構造を推論する力です。顧客の些細な言動から、まだ言葉になっていないニーズを察知したり、市場の小さな変化から、未来の大きなトレンドを予測したりする。この力がなければ、イノベーションは生まれません。
②モデル化思考力
複雑でカオスな現実を、自分なりに単純な構造(モデル)に置き換えて考える力です。例えば、「売上」という漠然としたものを、「顧客数 × 顧客単価 × 利用頻度」というモデルに分解して考える。これにより、問題のボトルネックがどこにあるのか、どこに手を打てばインパクトが大きいのかが、明確になります。
③知的タフネス
「分からない」というストレスフルな状態に耐え、その中でも冷静に思考を続け、意思決定を下すことができる、精神的な強さです。不確実性が常である経営の世界において、この力は、リーダーが持つべき最も重要な資質の一つと言えるでしょう。
思考のプロセスを「見える化」するということ
フェルミ推定は、頭の中だけで完結させるものではありません。その思考のプロセスを、自分自身や他人に対して「説明できる」状態にすることに、大きな価値があります。
例えば、「近所のカフェの月商は?」という問いを考えてみましょう。
「席数が20で、客単価が800円。昼のピークタイムの回転率が2回転で、それ以外の時間は0.5回転くらいか…。営業時間が10時間で、原価率が30%だから…」
このように、どのような前提(変数)を置き、それをどう分解し、どう結論に至ったか。このプロセスを「見える化」し、チームで共有することで、議論の質は劇的に向上します。「私は、客単価はもっと高いと思う」「いや、回転率の仮説が甘いんじゃないか?」といったように、より建設的な対話が生まれるのです。
日常を「地頭力」のトレーニングジムに変える
特別なトレーニングは必要ありません。あなたの日常こそが、地頭力を鍛える最高のジムになります。
- 日常に問いを立てる: 「なぜ、あの店はいつも混んでいるのか?」「なぜ、この商品は値上げしても売れ続けるのか?」と、当たり前の風景に、自分なりの問いを立てるクセをつけましょう。
- ググる前に、3分考える: 何か知りたいことがあった時、すぐに答えを検索するのではなく、まずは3分間、自分なりに「答えはこうではないか?」と仮説を立ててみる。その後に答え合わせをすることで、思考の精度は上がっていきます。
- 完璧な答えを目指さない: 大切なのは、桁感、つまり「大体これくらいだろう」という規模感を、肌感覚として掴むことです。1円単位の正確さよりも、10倍、100倍のオーダーを間違えないことの方が、経営判断においてはるかに重要です。
この思考のプロセスを繰り返すこと。それ自体が、誰にも真似できない、あなただけの「無形の資産」となっていくのです。
よくある質問
Q: 直感や経験則で判断するのと、何が違うのですか?
A: 優れた経営者の「直感」は、過去に無数の思考実験を繰り返した結果、思考のプロセスが極度にショートカットされたものです。つまり、直感とフェルミ推定は対立するものではなく、むしろ地続きの関係にあります。日々のフェルミ推定の訓練が、あなたの経験則を、より鋭く、精度の高い「直感」へと昇華させてくれるのです。
Q: 思考のプロセスが、そもそも正しいかどうか分かりません。
A: 最初から正しいプロセスなど、誰にも作れません。重要なのは、一度立てたプロセスを「絶対の正解」とせず、新しい情報が入るたびに、柔軟に見直していくことです。「あの時の仮説は、ここが間違っていたな」と、自分の思考のクセや間違いを認め、修正していく学習能力こそが、成長の源泉です。
Q: そんなことを考える暇があったら、一つでも多く行動した方が良いのでは?
A: 「思考なき行動」と「行動なき思考」は、どちらも無価値です。闇雲に行動しても、それはギャンブルと同じ。一方で、フェルミ推定によって「おそらく、こっちの方向が有望だろう」という仮説を立ててから行動すれば、その成功確率は格段に上がります。思考と行動は、車の両輪なのです。
Q: チームでフェルミ推定的な議論をする際の、注意点はありますか?
A: 最も重要なのは「心理的安全性」の確保です。「どんな突飛な仮説でも、まずは面白がって聞いてみる」「人格ではなく、あくまでロジックに対して反論する」というルールを徹底しましょう。自由な発想を歓迎する雰囲気がなければ、思考は深まりません。
筆者について
記事を読んでくださりありがとうございました! 私はスプレッドシートでホームページを作成できるサービス、SpreadSiteを開発・運営しています! ホームページでお困りの方がいたら、ぜひご検討ください! https://spread-site.com