想定読者

  • 商品開発やマーケティング戦略で「誰に売るべきか」に悩んでいる経営者
  • 万人受けを狙った結果、誰の心にも響かないと感じている商品開発担当者
  • 価格競争から抜け出し、自社のブランド価値を高めたいと考えているスモールビジネスオーナー

結論:全ての人を満足させようとする者は、誰一人として満足させられない。

あなたは、自社の商品やサービスを、できるだけ多くの人に届けたいと考えていませんか。
その想いは、ビジネスを行う上で非常に自然なものです。

しかし、その「万人受け」を狙う戦略こそが、あなたのビジネスを静かに蝕む最も危険な罠なのです。
なぜなら、顧客のニーズが極限まで多様化した現代において、全ての人に好かれる商品というのは、結局のところ、誰の心にも深く刺さらない、特徴のない商品になってしまうからです。

ビジネスで成功するために本当に必要なのは、顧客を広げることではありません。
むしろ逆です。顧客を意図的に選び、そして選ばなかった顧客を捨てる勇気です。

その、ビジネスの成否を分ける選択と集中を、科学的に行うための思考法がSTP分析です。

  • S - Segmentation(セグメンテーション): 市場の地図を広げ、顧客を分類する
  • T - Targeting(ターゲティング): その地図の中から、自社が戦うべき場所を選ぶ
  • P - Positioning(ポジショニング): 選んだ場所で、自社の旗を立て、存在を知らしめる

この記事では、このSTP分析という羅針盤を使いこなし、あなたのビジネスが荒波の市場で溺れることなく、明確な目的地へとたどり着くための具体的な航海術を、一つずつ丁寧に解説していきます。

Step1: セグメンテーション(市場細分化) - 顧客という名の海図を作る

STP分析の最初のステップは、市場を意味のあるグループに切り分けるセグメンテーションです。これは、単に顧客を分類する作業ではありません。多様なニーズを持つ顧客が混在する、ぼんやりとした市場の中から、似たようなニーズや性質を持つ顧客の塊(セグメント)を発見し、市場の全体像を解像度高く理解するためのプロセスです。

なぜ、市場を細分化する必要があるのか?

考えてみてください。一口に「コーヒーを飲みたい人」と言っても、その動機は様々です。「眠気覚ましに安く手早く飲みたい人」「高品質な豆の香りをゆっくり楽しみたい人」「静かな空間で仕事をしながら飲みたい人」。これら全ての人を、同じ商品、同じメッセージで満足させることは不可能でしょう。

セグメンテーションは、こうした異なるニーズを持つ人々を明確に区別し、それぞれに最適なアプローチを考えるための、全ての土台となるのです。

セグメンテーションの4つの切り口

市場を切り分ける際には、一般的に以下の4つの変数が用いられます。

  1. 地理的変数(ジオグラフィック): 国、地域、都市の規模、人口密度、気候など、地理的な要素で分ける方法です。地域に根差したビジネスでは基本となる切り口です。
  2. 人口動態変数(デモグラフィック): 年齢、性別、家族構成、所得、職業、学歴など、客観的な人口統計データで分ける方法です。最も一般的で、比較的簡単に情報を得やすいのが特徴です。
  3. 心理的変数(サイコグラフィック): ライフスタイル、価値観、性格、趣味嗜好、社会的階層など、個人の心理的な特性で分ける方法です。顧客が「何を大切にしているか」を理解する上で非常に重要です。例えば、「環境意識が高い」「健康志向である」「新しいものが好き」といった切り口です。
  4. 行動変数(ビヘイビアル): 顧客が商品やサービスに対して示す具体的な行動パターンで分ける方法です。購入頻度、利用場面、求めるベネフィット(便益)、ブランドへの忠誠度などが含まれます。例えば、「価格を最も重視する顧客層」「品質や効果を求める顧客層」「手厚いサポートを期待する顧客層」といった分け方が可能です。

中小企業にとって特に重要なのは、心理的変数行動変数です。なぜなら、年齢や性別が同じでも、価値観や求めるベネフィットは全く異なる場合が多いからです。顧客の深層心理や行動に焦点を当てることで、大企業が見過ごしているニッチな市場を発見するチャンスが生まれます。

Step2: ターゲティング(市場の選定) - 勝利の砂浜に上陸する

セグメンテーションによって市場の海図が完成したら、次のステップは、その中から自社が狙うべきセグメントを一つ、あるいは複数選び出すターゲティングです。これは、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)をどこに集中投下するかを決定する、極めて重要な経営判断です。

どのセグメントを狙うべきか?- ターゲット選定の評価基準 -

魅力的なセグメントかどうかを判断するためには、いくつかの評価基準があります。ここでは、代表的なフレームワークである6Rを紹介します。

  • Realistic Scale(有効な規模): そのセグメントは、ビジネスとして成立するだけの十分な市場規模があるか。ニッチすぎると、十分な売上や利益が見込めません。
  • Rate of Growth(成長性): 今後、その市場は成長していく可能性があるか。縮小していく市場よりも、成長市場の方がビジネスチャンスは広がります。
  • Rival(競合の状況): そのセグメントには、強力な競合がひしめいていないか。既に圧倒的なリーダー企業が存在する市場は、避けるのが賢明です。
  • Rank(優先順位): そのセグメントは、自社の経営理念やビジョン、強みと合致しているか。自社が情熱を注げる市場であることも重要です。
  • Reach(到達可能性): そのセグメントの顧客に対して、自社の商品やメッセージを届ける手段はあるか。
  • Response(測定可能性): そのセグメントに対するマーケティング活動の効果を、測定することは可能か。

これらの基準を総合的に評価し、自社にとって最も勝算の高いセグメントを選び抜きます。全ての基準を満たす完璧な市場は存在しません。重要なのは、自社の強みが最も活かせる場所はどこかという視点です。

Step3: ポジショニング(自社の立ち位置の明確化) - 顧客の心の中に、自社のための指定席を作る

ターゲットとする市場を決めたら、いよいよ最後のステップ、ポジショニングです。これは、ターゲット顧客の頭の中に、競合製品との比較において、自社製品が独自の、そして価値あるポジションを築くための活動です。顧客に「〇〇といえば、あのブランドだ」と、真っ先に思い出してもらうための心の指定席を確保する作業とも言えます。

ポジショニングの核心は「差別化」

市場には、あなたの会社の他にも、同じ顧客の課題を解決しようとする競合が必ず存在します。その中で顧客から選ばれるためには、「他とは違う、あなたから買うべき理由」を明確に提示する必要があります。それが差別化です。

ポジショニングは、この差別化の軸をどこに置くかを決定するプロセスです。価格の安さで勝負するのか、圧倒的な品質で勝負するのか、あるいは特定機能への特化、手厚いカスタマーサポート、ユニークなブランドストーリーなど、差別化の切り口は無数に考えられます。

ポジショニングマップで自社の立ち位置を可視化する

自社のポジションを考える上で非常に有効なツールが、ポジショニングマップです。これは、顧客が製品を選ぶ際に重視する2つの要素を縦軸と横軸に取り、市場における自社と競合の立ち位置を視覚的にプロットした図です。

例えば、カフェ市場であれば、軸として「価格(安い⇔高い)」と「居心地(賑やか⇔静か)」を設定することができます。このマップ上に自社と競合を配置してみることで、

  • 競合がひしめく激戦区はどこか
  • 競合が存在しない、あるいは少ないブルーオーシャンはどこか
    が一目瞭然となります。

自社の強みを活かし、かつ競合と直接的な競争を避けられる、この空白地帯こそが、あなたの会社が目指すべき理想のポジションなのです。

ポジショニングは全てのマーケティング活動の起点となる

一度ポジションを決定したら、それは全てのマーケティング活動のブレない指針となります。

  • Product(製品): 高品質ポジションなら、素材や機能に徹底的にこだわる。
  • Price(価格): 高品質ポジションなら、安売りはせず、価値に見合った価格を設定する。
  • Place(流通): 限定感を出すなら、販路を絞り、特定の店舗でのみ販売する。
  • Promotion(販促): ターゲットに響くメッセージと媒体を選び、一貫したブランドイメージを伝える。

このように、STP分析で決定した戦略は、具体的な戦術であるマーケティング・ミックス(4P)へと繋がっていくのです。

よくある質問

Q: セグメンテーションの切り口が多すぎて、どれを使えば良いか分かりません。

A: 最初から完璧なセグメンテーションを目指す必要はありません。まずは、年齢や性別といった分かりやすい人口動態変数から始め、既存顧客へのインタビューなどを通じて、「どのような課題を解決したくて商品を買ったのか」という行動変数(求めるベネフィット)で深掘りしていくのが実践的です。自社の製品が「誰のどんな課題を解決するのか」という視点を常に持つことが重要です。

Q: ターゲットを絞ると、顧客が減って売上が落ちるのではないかと不安です。

A: その不安はよく分かります。しかし、実際には逆の結果になることが多いのです。ターゲットを絞ることで、メッセージがより鋭く、具体的になり、特定の顧客層に深く突き刺さります。その結果、顧客のロイヤルティが高まり、熱心なファンになってくれる可能性が高まります。薄く広くアプローチするよりも、深く狭くアプローチする方が、結果的に安定した収益基盤を築けるのです。

Q: 自社が狙うべきポジションが、本当に顧客に伝わっているか確認する方法はありますか?

A: 最も確実な方法は、顧客に直接聞くことです。「なぜ、うちの商品を選んでくれたのですか?」「他社の商品と比べて、何が違うと感じますか?」といった質問を通じて、自社が意図した通りのイメージが伝わっているかを確認しましょう。また、顧客アンケートや、SNS上で自社の商品がどのように語られているかを分析するのも有効な手段です。

Q: STP分析と3C分析は、どのように使い分ければ良いのでしょうか?

A: 3C分析とSTP分析は、補完しあう関係にあります。まず3C分析(顧客・競合・自社)を用いて、自社が置かれている事業環境全体をマクロな視点で把握します。その上で、STP分析を用いて、「では、具体的にどの市場(セグメント)で、誰を相手に(ターゲット)、どのような立ち位置で(ポジショニング)戦うか」という、より具体的なマーケティング戦略の骨子を決定します。3C分析が環境分析、STP分析が戦略立案と考えると分かりやすいでしょう。

筆者について

記事を読んでくださりありがとうございました!
私はスプレッドシートでホームページを作成できるサービス、SpreadSiteを開発・運営しています!
「時間もお金もかけられない、だけど魅力は伝えたい!」という方にぴったりなツールですので、ホームページでお困りの方がいたら、ぜひご検討ください!
https://spread-site.com