想定読者

  • 自分の思考のクセを客観的に理解したい方
  • 「言語化」が苦手で生きづらさを感じている方
  • チームや組織における思考の多様性を活かしたいリーダー

結論:思考に優劣はない。ただ、「社会のOS」が特定のタイプに最適化されているだけ

あなたは、自分の頭の中でどのように「考える」という行為を行っていますか?

この問いに、多くの人は即答できないかもしれません。なぜなら、自分の思考プロセスはあまりにも当たり前で、疑うことすらない「空気」のようなものだからです。しかし、近年の研究や議論は、その「空気」に実は人それぞれ、全く異なる性質があることを明らかにしています。

それが、「言語思考」「視覚思考」という思考の根本的なスタイルの違いです

本記事の結論を先に述べれば、このどちらの思考スタイルにも一切の優劣はありません。しかし、現代社会、特にその教育やビジネスの現場は、圧倒的に「言語思考者」にとって有利なOS(オペレーティング・システム)で設計されているという事実が存在します。

この「見えない格差」の存在を知ることは、言語思考者にとっては自身の成功が偶然の産物であると知る「謙虚さ」を、視覚思考者にとっては自身の「生きづらさ」の正体を理解し、才能を開花させるための「戦略」を与えてくれます。そして、両者が互いを理解し尊重することこそが、社会全体をより豊かで創造的な場所へと導くのです。

あなたの思考は「多数派」か「少数派」か?

人気YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」の水野さんは、自身が「考え事をしない」という点で実は少数派(マイノリティ)であると気づいたことをきっかけに、思考の多様性というテーマに深く分け入っていきます。そして、たどり着いたのが『ビジュアルシンカーの脳』という一冊の本でした。

この本が提示するのは、私たちの思考プロセスに存在する、ほとんど語られることのない、しかし極めて重要な違いです。あなたは、頭の中で言葉を組み立てて考えていますか? それとも、イメージや絵が動画のように流れていますか? この根本的な違いが、あなたの得意なこと、苦手なこと、そして世界の「見え方」そのものを大きく左右しているのかもしれません。

「視覚」で考える人、「言語」で考える人

『ビジュアルシンカーの脳』によれば、人々の思考スタイルは主に「視각思考者」と「言語思考者」に大別されます。さらに、視覚思考者は、写真のようにリアルな「絵」で考えるタイプと、パターンや概念を空間的に捉える「空間型」に細分化されると言います。

  • 言語思考者: 頭の中で言葉や文章を組み立て、論理的に思考を進める。内なる声(Internal Monologue)が常に流れている。
  • 視覚思考者: 頭の中で「絵を見ている」ように物事を捉える。物事の関係性や全体像を、一枚の絵や動画のように瞬時に把握する。

この違いは科学的にも裏付けられています。日本の研究では、被験者が特定の物事を思い出す際、視覚思考者は脳の「視覚野」が活発に活動するという明確な相関が報告されているのです。

この思考スタイルの違いは、具体的な得意・不得意にも表れます。例えば、視覚思考者は方程式のような抽象的な「代数」が苦手な一方で、図形問題は得意な傾向があります。一方で、言語思考者は代数は得意でも、頭の中で図形を回転させたり、展開したりすることが極めて困難な場合があります。「ゆる言語学ラジオ」の堀本さんは、まさにこのタイプで、高校受験の空間図形問題は全く解けず、他科目でカバーして合格したというエピソードを語っています。

なぜ、現代は「言語思考者」が有利なのか

この話の最も重要な点は、思考タイプに優劣はなく、現代社会の構造が特定のタイプを意図せずして優遇してしまっているという事実です。

特に、日本の教育システムはその典型です。学校のテストは、文字を読み、筋道を立てて論理的に思考する能力を極めて高く評価します。国語の長文読解、数学の文章問題。これらはすべて、言語思考者にとって非常に有利な競技です。もし、すべての問題が文字ではなく、図や絵で提示されていたとしたら、成績の順位は全く違ったものになっていたかもしれません。視覚思考者は、テキストで与えられた情報を一度頭の中で「図に変換する」という余分なプロセスを強いられているのです。

近年、ビジネス界で盛んに言われる「言語化能力」や「自己分析」といったブームも、この言語思考者優位の社会をさらに加速させている可能性があります。自分の考えを理路整然と「言葉」にできることが、さも「思考が深い」ことの証明であるかのような風潮。しかし、水野さんが指摘するように、それは視覚思考者にとっては、自らの思考を不慣れな「外国語」に無理やり翻訳させられる「言語ハラスメント」に他ならないのかもしれません。

「言葉にできないのは、十分に考えていないからだ」という偏見は根強く存在します。しかし、それはたまたま社会の多数派を占める言語思考者の「当たり前」が、全体の「普通」であると錯覚されているに過ぎないのです。

よくある質問

Q: 自分はどちらのタイプか、はっきり分かりません。

A: 無理に二元論で分類する必要はありません。多くの人は両方の思考スタイルを程度の差こそあれ、併せ持っています。大切なのは、自分を完璧にラベリングすることではなく、「自分にはこういう思考のクセがあるな」と客観的に認識し、また、「あの人は自分とは全く違うやり方で世界を見ているのかもしれない」と他者の思考を尊重する視点を持つことです。

Q: 視覚思考者が、言語思考社会でうまくやっていくには?

A: 自分の思考を「見える化」するツールを積極的に活用しましょう。ホワイトボード、マインドマップ、たくさんの付箋、そしてシンプルなペンと紙はあなたの最高のパートナーです。会議の場では、人の話をただ聞くのではなく、議論の構造をリアルタイムで図に描いてみましょう。あなたは自分自身の思考を整理できるだけでなく、言語の森で迷子になっている他のメンバー全員の道標となることができます。

Q: チームの視覚思考者の能力を、どうすれば引き出せますか?

A: 「バイリンガル」な環境を意識的に作りましょう。会議では必ずホワイトボードを使う。ブレインストーミングでは箇条書きではなく、図や絵を描くことを推奨する。誰かにアイデアを求める時、「どう思う?」と聞くだけでなく、「君にはこの状況がどう見えている?」と問いかけてみる。これらの小さな工夫が、チームの思考の多様性を解き放ち、イノベーションの土壌を育みます。

Q: 「言語化が苦手」は、単なる「思考不足」の言い訳では?

A: それこそが言語思考者中心の社会が生み出した最も根深い誤解の一つです。視覚思考者は言語化が苦手なのではなく、その思考があまりに複雑で高解像度の「映像」であるため、それを一次元の「言葉」に変換(翻訳)するのに多大な困難と情報量の損失を伴うのです。思考が足りないのではなく、むしろ思考が豊かすぎるとも言えるかもしれません。

筆者について

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