想定読者
- 不採算事業や、効果の薄いプロジェクトから、なかなか撤退できないと悩んでいる経営者
- 「この習慣は良くない」と分かっていても、なかなかやめられないことに苦しんでいる方
- 感情に流されず、より合理的で、未来を見据えた「やめる決断」をしたいと考えているビジネスパーソン
結論:損失回避性は「脳のバグ」だ。そのバグを修正する勇気を持て。
あなたは、こんな経験はありませんか?
- 赤字続きの事業なのに、「これまで投資した分がもったいない」と撤退に踏み切れない。
- 全く面白くない映画なのに、「ここまで見たから」と最後まで観続けてしまう。
- 健康に悪いと分かっていても、「せっかく始めたから」と、効果のないダイエット法を続けてしまう。
これらの行動の根底にあるのが、「損失回避性」という、人間の強力な心理特性です。ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが提唱したプロスペクト理論の核心であり、人は利益を得る喜びよりも同額の損失を被る苦痛を約2倍も強く感じると言われています。この「損失を確定させたくない」という本能が、あなたの「やめる決断」を鈍らせ、未来の可能性を奪っているのです。損失回避性は「脳のバグ」です。そのバグを修正し、未来のために「損切り」する決断こそが、真の勇気なのです。
「損失回避性」とは?利益の喜びより、損失の苦痛が2倍大きい脳のクセ
損失回避性とは、人間が、「何かを得る喜び」よりも「何かを失う苦痛」を、より強く感じるという心理特性です。この特性は、私たちの日常の意思決定に、無意識のうちに大きな影響を与えています。
例えば、
- 「確実に1万円もらえる」のと「50%の確率で2万円もらえる」なら、多くの人は前者を選びます。これは、利益を得る局面では、人はリスクを回避し、確実な利益を好む傾向があるからです。
- 一方で、「確実に1万円失う」のと「50%の確率で2万円失う(50%の確率で何も失わない)」なら、多くの人は後者を選びます。これは、損失を被る局面では、人はリスクを追求し、一発逆転を狙う傾向があるからです。確実な損失を極端に嫌うため、より大きな損失のリスクを冒してでも、損失を回避しようとするのです。
この「損失を確定させたくない」という本能が、あなたの「やめる決断」を鈍らせる最大の要因なのです。
「やめる決断」を鈍らせる、損失回避性の罠
損失回避性は、ビジネスや個人の生活において、様々な罠を仕掛けます。
一つ目の罠は、不採算事業からの撤退の遅れです。これまでに投じた時間、お金、労力(サンクコスト)を「無駄にしたくない」という感情が強く働き、将来的に損失が出続けると分かっていても、撤退に踏み切れません。これは、以前解説した「コンコルドの誤謬」そのものです。過去の損失に囚われるあまり、未来の可能性を閉ざしてしまいます。
二つ目の罠は、悪い習慣の温存です。「せっかく始めたから」「ここまで続けたから」という理由で、効果のないダイエット法や、自分に合わない勉強法を続けてしまう。あるいは、人間関係が悪化しているのに、「これまで築いてきた関係がもったいない」と、ずるずると関係を続けてしまうこともあります。
そして三つ目の罠は、機会損失の見落としです。過去の損失に囚われるあまり、新しい挑戦や、より有望な選択肢に目を向けられなくなります。例えば、不採算事業に固執するあまり、成長分野への投資機会を逃してしまう、といったケースです。
損失回避性を乗り越え、「やめる決断」を加速させる3つの処方箋
この強力な損失回避性の呪縛から逃れ、「やめる決断」を加速させるためには、意識的なトレーニングが必要です。
一つ目の処方箋は、「損切りライン」を事前に設定することです。プロジェクト開始時や習慣を始める前に、「もし〇〇という状況になったら、やめる」という客観的な基準を明確に決めておきましょう。例えば、「3ヶ月連続で赤字が続いたら撤退」「体重が〇kg増えたらダイエット法を変える」など。感情が入り込む前に、ルールに基づいて判断できるようにするのです。
二つ目の処方箋は、「ゼロベース思考」を徹底することです。「もし、今日からこの事業に投資するとしたら、同じ金額を投じるだろうか?」と自問してみてください。過去の投資は、未来の意思決定とは無関係であると割り切る。これは、あなたの脳を「過去の損失」という重荷から解放し、未来の可能性に集中させるための強力なツールです。
そして三つ目の処方箋は、第三者の視点を取り入れることです。感情的な判断に陥りがちな自分を客観視するため、そのプロジェクトに直接関わっていない、しがらみのない第三者に意見を求めましょう。あるいは、信頼できるメンターや同僚に相談する。彼らは、あなたが感情的に見えなくなっている問題点や、合理的な選択肢を指摘してくれるはずです。
「やめる」ことは「敗北」ではない。「次への戦略的撤退」である。
損失回避性を乗り越え、「やめる決断」をすることは、決して「敗北」ではありません。それは、未来のより大きな成功のために、過去の損失を確定させる「戦略的撤退」なのです。やめることで確保できた時間、お金、エネルギーを、より将来性のある分野に再投資することで、あなたは過去の失敗を補って余りある成功を掴むことができるでしょう。
「やめる勇気」こそが、あなたのビジネスと人生を、次のステージへと押し上げる原動力となるのです。
よくある質問
Q: 「損切り」は、冷たい判断になりませんか?
A: 冷たい、と感じるかもしれませんが、それは感情を排除するということではありません。感情に流されず、客観的なデータに基づいて判断することで、結果的に、より多くの人を幸せにする可能性が高まります。不採算事業に固執して会社全体が倒産するより、早期に損切りして、残った資源で新しい事業を立ち上げる方が、社員や顧客にとって、はるかに良い結果をもたらします。
Q: 損失回避性は、ポジティブなことにも影響しますか?
A: はい、影響します。例えば、人は「得られる利益」よりも「失う利益」を強く感じるため、セールなどで「今買わないと損をする」というメッセージに強く反応します。これはマーケティングに応用できますが、同時に、投資などで「利益確定」を早めてしまう原因にもなります。
Q: 悪い習慣をやめるのが、どうしてもできません。
A: 悪い習慣をやめるのも、損失回避性の罠です。「この習慣をやめたら、何かを失うのではないか」という不安が、行動を阻害します。まずは、その習慣をやめることで得られる「未来の利益」を具体的に想像し、それを「今」の自分に強く意識させることが重要です。また、小さなステップから始める、代替行動を用意するなどの工夫も有効です。
Q: 損失回避性とコンコルドの誤謬はどう違うのですか?
A: コンコルドの誤謬は、損失回避性が引き起こす具体的な行動(サンクコストに囚われて不採算事業を継続する)の一例です。損失回避性は、より広範な心理特性であり、コンコルドの誤謬はその特性がビジネスの意思決定に現れた典型的な現象と言えます。
筆者について
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