想定読者

  • 社員の「やらされ仕事」感や、当事者意識の欠如に悩む経営者
  • 部署間で問題が放置されがちな「他人事」文化を、根本から変えたいリーダー
  • メンバー一人ひとりの主体性を引き出し、自律的に動く組織を築きたい事業主

結論:あなたの会社の問題は「無責任な社員」ではない。「責任感がない、ただの有能な社員」である

「無責任な社員は困る」。
多くの経営者がそう口にしますが、本当に組織の成長を静かに蝕んでいるのは、果たして彼らだけでしょうか。

ビジネスの世界において、「無責任」「責任感がない」という二つの状態の間には、似て非なる、しかし組織の未来を左右するほど決定的な違いが存在します。

  • 無責任とは、自らに与えられた役割(責任)を果たさないことです。これは明確な契約違反であり、対処は比較的容易です。
  • 責任感がないとは、自らに与えられた役割(責任)は果たす。しかし、その範囲から一歩でも外で問題が発生した時、それを自分事として捉えない、率先して役に立とうと思えない状態です。

つまり、何か問題が起きた時、その人は何も悪くはないんだけど、それ以上でも以下でもない、という状態です。

多くの経営者が本当に頭を悩ませているのは、前者の、明らかに問題のある「無責任な社員」ではありません。本当に厄介で、そして組織の成長を静かに蝕んでいくのは、後者の、自分の仕事はきっちりこなす、しかしそれ以上のことは決してしない、「責任感がない、ただの有能な社員」なのです。

彼らは、自分の義務は果たしているため、非難することができません。しかし、彼らの「他人事」という態度は、組織内に「責任の空白地帯」を生み出し、予期せぬ問題の火種を放置し、イノベーションの芽を摘み取っていきます。

この記事は、この二つの概念の決定的違いを、心理学や組織論の観点から解き明かします。そして、社員を単なる「義務を果たす労働者」から、組織の未来を共に創る「責任感のあるビジネスマン」へと変貌させるための、具体的で実践的なマネジメント手法を提示します。

第1章:「責任」は果たされるが、問題は解決されない組織

まず、多くの組織が陥りがちな、「責任」は果たされているにもかかわらず、なぜか物事が前に進まない、という状況の構造を分析します。

「それは私の仕事ではありません」症候群

各社員が、自分の職務記述書(ジョブディスクリプション)に書かれた範囲の「責任」だけを忠実に果たしている組織を想像してみてください。一見すると、全員が自分の仕事をこなしており、問題ないように見えます。

しかし、ある日、部署と部署の間にまたがる、誰も担当者が明確でない問題が発生します。顧客からの複雑なクレーム、新しい競合の出現、部門間の連携ミス。

この時、「責任」だけを考える社員は、こう考えます。「これは私の責任範囲ではない。誰か他の担当者がやるべきだ」。そして、誰もがその問題を見て見ぬふりをし、ボールは宙に浮いたまま、時間は過ぎていきます。これが、組織のサイロ化と官僚主義を生み出す、「責任の空白地帯」です。

なぜ「責任」だけでは不十分なのか

「責任」という概念は、そもそも受動的です。与えられたタスクに対して、後から対応する。それは、変化の激しい現代のビジネス環境において、致命的な弱点となります。

市場は、あなたの会社の職務記述書を読んで、都合よく問題を起こしてはくれません。常に、想定外の、境界領域の問題が発生します。その時に、組織の未来を左右するのは、契約書には書かれていない、プラスアルファの行動、すなわち真の「責任感」なのです。

第2章:「責任感」とは何か? - 当事者意識の科学

では、「責任感のあるビジネスマン」とは、具体的にどのような姿勢を持ち、なぜそれが組織の成長に不可欠なのでしょうか。

自分の「影響の輪」を広げる意志

「責任感がある」人間は、自分の仕事を、与えられたタスクの遂行(点)ではなく、組織全体の目的達成への貢献(線)として捉えています。

彼らは、スティーブン・コヴィーが言うところの「影響の輪」を、自らの意志で広げようとします。たとえ自分の直接的なコントロール下になくても、「自分に何かできることはないか?」と、常に問いかけ、行動するのです。

  • 隣の部署が困っているのを見て、自分の知見を共有する。
  • 会社の備品が乱れているのに気づき、率先して整理する。
  • 会議で決まった事項が前に進んでいないのを見て、「この件、どうなりましたか?」と、担当者でなくても声をかける。

これらの行動は、義務ではありません。しかし、これらの小さな主体的な行動の積み重ねこそが、組織の問題解決能力と、変化への適応力を、根底から支えるのです。

第3章:なぜ「責任感」は、自然には育たないのか?

これほどまでに重要な「責任感」が、多くの組織で欠如しているのはなぜでしょうか。その原因は、個人の資質以上に、組織の構造と文化にあります。

1. 傍観者効果と「責任の分散」

心理学における傍観者効果が示すように、人が多いほど、「誰かがやるだろう」と、一人ひとりの責任感は希薄化します。問題の担当者が曖昧な状況は、この効果を最大限に発動させ、全員が「傍観者」になることを助長します。

2. 失敗を罰する「責任追及」の文化

「責任感」を発揮し、自分の担当外の問題に首を突っ込んだ結果、もし失敗したらどうなるか。「余計なことをするからだ」と非難されるような組織では、誰もリスクを取って行動しようとはしません。

失敗を罰する文化は、「責任感」の最大の敵です。それは、社員に「自分の責任範囲から、一歩も出るな」という、強力なメッセージを送ることに他なりません。

3. サイロ化された組織構造

部門間の壁が高く、情報が共有されていない組織では、そもそも社員が自分の担当外で起きている問題に気づくことすらできません。組織の構造そのものが、社員の視野を狭め、全体最適よりも部分最適(自分の部署の利益)を優先する行動を誘発してしまうのです。

第4章:「責任感」を育む、リーダーの仕事

この厄介な問題を解決し、当事者意識に満ちた組織を創るためには、リーダーによる意図的な介入が不可欠です。

1. 「責任」ではなく「オーナーシップ」を割り当てる

タスクを割り振る際に、「この作業の担当は君だ」と言うのをやめ、「この“成果”に対するオーナーは君だ」と伝えましょう。

「作業」ではなく「成果」に焦点を当てることで、部下の意識は、言われたことをこなすだけの実行者から、目的を達成するためには手段を厭わない、プロジェクトの所有者(オーナー)へと変わります。

2. 「心理的安全性」を、何よりも優先する

「責任感」を発揮した挑戦的な行動の結果としての失敗を、決して罰してはいけません。むしろ、その行動を起こした勇気を、具体的に、そして公の場で称賛しましょう。

「〇〇さんが、担当外にもかかわらず、あの問題に気づいて声を上げてくれたおかげで、我々は大きな危機を回避できた。結果はともかく、あの行動に感謝したい」。このリーダーの言葉が、組織の心理的安全性を築き、次の挑戦者を生み出すのです。

3. 情報の透明性を高め、部署の壁を壊す

会社の目標、各部署の進捗、そして現在直面している課題。これらの情報を、可能な限りオープンにし、組織全体の透明性を高めましょう。

全社会議や、部門横断プロジェクトを意図的に設定し、社員が自分の仕事が、組織全体のどの部分に貢献しているのかを実感できる機会を増やす。これにより、彼らは自部署の視点だけでなく、全社的な視点から物事を考えるようになります。

よくある質問

Q: 「責任感」を発揮させると、社員が自分の担当業務以外のことに時間を使い、本来の仕事が疎かになりませんか?

A: 重要なのは、バランスと優先順位です。リーダーの役割は、社員の「責任感」ある行動を奨励しつつも、それが組織全体の目標と整合しているかを確認し、必要であれば軌道修正することです。また、「責任感」ある行動が正当に評価され、本人の業務負荷として考慮されるような、柔軟な評価制度の導入も有効です。

Q: 責任感の強い社員と、そうでない社員の差が激しいです。どうすれば良いですか?

A: 全員が同じレベルの責任感を持つことを期待するのは、現実的ではありません。まず、責任感の強い社員が、その行動によって損をすることがないように、彼らの貢献を正当に評価し、称賛することが重要です。その上で、彼らをチームのロールモデルとして位置づけ、彼らの行動が、他のメンバーにポジティブな影響を与える(ピアプレッシャー)ような環境を整えていきましょう。

Q: 結局、責任感とは個人の性格や資質の問題ではないですか?

A: 性格的な傾向が影響する部分はありますが、それだけではありません。「責任感」は、後天的に育成可能なスキルであり、行動習慣です。そして、そのスキルが発揮されるかどうかは、本人の資質以上に、リーダーの関わり方や、組織の文化、評価制度といった環境要因に、大きく左右されるのです。

Q: 「責任感」という言葉は、便利に使われ、社員に過剰な負担を強いることになりませんか?

A: はい、そのリスクは常に存在します。「責任感があるなら、サービス残業も厭わないはずだ」といった、精神論的な悪用は、絶対に避けなければなりません。真の「責任感」とは、無限の自己犠牲を強いるものではなく、持続可能な範囲で、自らの影響の輪を広げようとする、前向きで主体的な意志です。リーダーは、社員の「責任感」に甘えるのではなく、その行動を支えるための、適切なリソースとサポートを提供する義務があります。

筆者について

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