1割引きでは販売数を1割増やしても利益は戻らない
商品を1割引きにして、販売数が1割増えたとしても、値引き前と同じ利益が残るとは限りません。値引きで減るのは販売価格ですが、仕入れや梱包にかかる費用は、価格と同じ割合では減らないためです。
判断に使うのは、1個の販売価格から、1個売るごとに発生する費用を引いた金額です。販売数に応じて増減する費用を変動費、その差額を1個当たりの限界利益と呼びます。限界利益の合計から、家賃など販売数にかかわらず発生する固定費を差し引くと、この費用モデルでの利益が求められます。(損益分岐点を使った目標売上高)
以下では、単一商品を同じ1か月間に販売する計算例で、売上を戻す販売数と、利益を戻す販売数を比べます。金額はすべて税抜きとし、費用は変動費と固定費ですべて計上するものとします。
1個の値引き100円で限界利益は300円から200円になる
販売価格1,000円、1個当たりの変動費700円の商品を、月に100個売っていたと仮定します。変動費700円には仕入れ、梱包、販売に伴う手数料などを含み、固定費は月2万円とします。以下は架空の計算例です。
値引き前は1個売るごとに1,000-700=300円の限界利益が生じます。100個なら3万円で、固定費2万円を引くと利益は1万円です。
販売価格を1割下げて900円にしても、1個当たりの変動費が700円のままなら、限界利益は200円になります。値引きで失う100円は、 1個売るごとに残る300円の約33.3% に当たります。
この仕組みを計算する際は、販売価格から1個当たりの変動費を引いた金額を使います。アイオワ州立大学の資料も、この差額が固定費の回収に充てられることを説明しています。(Breakeven Sales Volume)
売上は112個で回復しても同じ利益には150個必要になる
同じ利益1万円を残すには、固定費2万円と合わせて3万円の限界利益が必要です。値引き後の1個当たり200円で割ると、必要販売数は30,000÷200=150個です。
| 販売価格と販売数 | 売上高 | 変動費の合計 | 限界利益の合計 | 固定費を引いた利益 |
|---|
| 1,000円で100個 | 100,000円 | 70,000円 | 30,000円 | 10,000円 |
| 900円で110個 | 99,000円 | 77,000円 | 22,000円 | 2,000円 |
| 900円で112個 | 100,800円 | 78,400円 | 22,400円 | 2,400円 |
| 900円で150個 | 135,000円 | 105,000円 | 30,000円 | 10,000円 |
販売数を1割増やした110個では、売上も元の10万円に届きません。売上を10万円以上にするには100,000÷900=約111.1個なので、整数で売る商品なら112個必要です。それでも利益は2,400円で、元の1万円より7,600円少なくなります。
利益1万円を残す150個は、元の100個に対して50%増です。売上の回復には 112個 、利益の回復には 150個 が必要です。
なお、900円で100個売ったときの限界利益は2万円で、固定費と等しくなります。これは利益ゼロの損益分岐点です。赤字を避ける100個と、元の利益を残す150個も別の基準になります。
広告費や追加人員が増えれば150個でも足りなくなる
150個という答えは、1個当たりの変動費700円と、固定費2万円が変わらない仮定で成り立ちます。値引きの告知に月1万円の追加広告費がかかるなら、元の利益1万円を残すには、合計4万円の限界利益が必要です。40,000÷200で200個になります。
このように、その月に一定額を追加する広告費は、販売1個ごとの費用へ重ねて計上せず、追加費用として計算に加えます。一方、販売ごとに課される手数料は、値引き後の価格で再計算し、1個当たりの変動費へ反映します。仕入れ数量による単価変更、追加シフトや倉庫の増床も、実際に生じる費用で計算し直します。
同じ利益を残す販売数は、次の関係から求められます。
必要販売数=(元の利益+変更後の固定費)÷変更後の1個当たり限界利益
ここで元の利益は、変更前の販売数と価格・費用から計算した値です。割り算の結果に小数が出て商品を整数で売るなら、必要数は切り上げます。
変更後の限界利益がゼロ以下なら、この式で正の利益目標を満たす販売数は求められません。今回の変動費700円のまま価格を700円にすると、何個売っても固定費を回収できず、700円未満なら1個売るごとに損失が増えます。
必要販売数と実際に売れる数を比較して値引きを判断する
この例で値引きを判断する基準は、販売数を100個から150個へ増やせる見込みがあるかです。必要販売数150個を、過去の販売や予約・受注の状況から見込んだ販売数と比べます。必要販売数150個を、その月に梱包・出荷できる上限個数とも比べます。
たとえば、同じ月に値引きをしなければ100個、値引きをすれば130個売れると見込んだとします。この予測が実現すれば、値引き後の利益は200×130-20,000=6,000円で、値引きなしの1万円より4,000円少なくなります。販売数30%増という予測でも、利益は40%減る計算です。利益を維持するための値引きなら、この130個という見込みでは採用できません。
実施後は、販売数と1個当たりの費用に加え、値引きをしなかった場合の売上見込みも再評価します。前年同月と今年の販売数を比べるだけでは、季節や来店数の変化も混ざります。また、一部の顧客だけに値引きする企画なら、通常価格で購入する顧客も含め、その月全体の利益を計算してください。
値引き率より販売1個ごとに残る金額から判断する
値引き前と同じ利益を残す販売数は、値引き率だけでは決まりません。今回の例では、価格を1割下げると1個当たりの限界利益が300円から200円へ減るため、同じ利益には販売数50%増が必要でした。追加費用が発生すれば、必要数はさらに増えます。
企画を採用する前に、値引き後の1個当たりの限界利益で 必要販売数を計算し、売れる見込みと出荷できる数の両方と比較 してください。ホームページに割引価格を掲載する際には、割引が適用される商品、購入期間、送料やサービス範囲も明記すると、計算に用いた販売内容と顧客に提示する内容を一致させられます。
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