着手件数だけでは納品の速さは分からない
受注した仕事をすべて進行中にすれば、顧客を待たせずに済むように感じます。しかし、担当者が使える時間が変わらなければ、1件当たりに配分する時間が少なくなり、最初の納品が遅れることがあります。 着手件数と納品件数を区別して考える必要があります。
すでに始めたものの完成していない仕事の数を、仕掛かり件数、またはWIPと呼びます。顧客の返答や社内の承認を待つ案件も、始めた仕事が完成していなければ含めます。公式のKanbanガイドは、着手と完了の地点を明示し、その間の仕事を数えるとしています。(The Kanban Guide (May 2025))
早く着手したことと、早く納品したことの違いを、担当者1人の架空例で考えます。
同じ4件でも順番に完成させると最初の納品が早まる
同じ時刻に、同じ作業量の案件A、B、C、Dを受け付けたと仮定します。各案件には担当者1人が丸1日働く作業量が必要で、担当者は1人だけです。ここでの日数は作業可能な時間を1日単位へ換算した値で、休日は計算に含めません。切り替えの手間、承認待ち、修正は発生しないものとします。
四つを均等に進める方法では、担当者の時間を4件へ均等に配分し、4日後に全件が同時に完成する理想化したモデルを使います。一つずつ完成させる方法では、Aを1日目に納品し、続いてB、C、Dを完成させます。完成した時点で直ちに納品するとします。
| 比較する値 | 四つを均等に進める | 一つずつ完成させる |
|---|
| Aを納品する時点 | 受付から4日後 | 受付から1日後 |
| Bを納品する時点 | 受付から4日後 | 受付から2日後 |
| Cを納品する時点 | 受付から4日後 | 受付から3日後 |
| Dを納品する時点 | 受付から4日後 | 受付から4日後 |
| 全4件の完了に必要な期間 | 4日 | 4日 |
| 受付から納品への平均日数 | 4日 | 2.5日 |
どちらも4日間で4件を納品するので、期間全体の平均納品件数は1日当たり1件です。それでも、最初の納品は4日後と1日後で異なります。一つずつ完成させると、A、B、Cの顧客は早く成果物を受け取り、Dの顧客の納品時点は変わりません。
平均日数も、四つを均等に進めると(4+4+4+4)÷4=4日、一つずつなら(1+2+3+4)÷4=2.5日です。 全件を終える速さが同じでも、各顧客が待つ期間は変わります。 これは仮定に基づく計算で、実際の職場で何日短縮するかを測った結果ではありません。
リトルの法則で未完了件数と所要日数を結び付ける
同じ工程にある仕事の平均件数は、その工程を通る件数と所要時間に関係します。リトルの法則は、この関係を平均件数=単位時間当たりの通過件数×平均所要時間と示します。Little自身の論文では、観測期間の最初と最後に工程内の仕事がゼロなら、有限期間でもこの等式が成立することを説明しています。(Little’s Law as Viewed on Its 50th Anniversary)
先ほどの例で、実作業の開始から納品という工程に注目します。4件を同時に始める方法では、4日間ずっと4件が進行中なので、時間で平均した仕掛かり件数は4件です。一つずつなら、どの時刻も作業開始後で未納品の仕事は1件なので、平均1件になります。
4日間の納品はどちらも4件なので、法則に当てはめると、作業開始から納品への平均日数は4件÷(1件/日)=4日と、1件÷(1件/日)=1日です。
この1日は受付からの待ち時間を含みません。Bは受付後1日、Cは2日、Dは3日待ってから作業を始めます。リトルの法則を使うときも、 何を開始と数えた日数か が解釈を変えます。
着手前に待たせた時間も顧客の待ち時間に含める
着手後の日数だけを短くしても、顧客が早く納品を受けたとは限りません。先ほどの一つずつ進める例では、着手後の平均は1日ですが、受付後の平均は2.5日です。
仮に、同じ4件の作業開始をすべてさらに2日遅らせたとします。着手後は依然として各1日でも、納品は受付から3日後、4日後、5日後、6日後になります。受付から納品への平均は(3+4+5+6)÷4=4.5日です。着手後の日数だけなら同じ1日でも、顧客は平均2日長く待ちます。
したがって、進行中の欄から未着手の欄へ案件を移すだけで、納品が早まったと評価することはできません。受付日時、実作業の開始日時、納品日時を記録すれば、受付後の待ち時間と着手後の日数をそれぞれ計算できます。
着手件数より納品件数と顧客の待ち時間で評価する
本稿の例では、全件への同時着手は、4日間の納品件数を増やさず、最初の納品と顧客の平均待ち時間を遅らせました。着手したという報告を増やすより、今ある案件を納品するために何が必要かを考える方が、成果物の受け渡しにつながります。
実務では、担当者が全工程を1人で行うとは限りません。デザイン担当と校正担当が別なら、工程を並行できるため、常に全社で1件だけ進める方法が最適とは限りません。校正待ちが増えているなら、デザインの新規着手を増やすだけでなく、校正担当へ必要な原稿が届いているか、修正指示への回答が滞っていないかを調べます。Kanbanガイドも、作業を始める余力があるときに次の仕事を取り込むことと、停止している仕事の障害を除くことを説明しています。(The Kanban Guide (May 2025))
着手数を制限するなら、変更後の納品件数と受付から納品への日数を、変更前と同じ案件の大きさと時間の数え方で比べてください。担当者の手待ちが増えて納品件数が減るなら、上限件数や担当工程を再検討します。
ホームページで制作日程を案内する際にも、申込みからの日数なのか、必要な資料がそろって作業を始めた後の日数なのかを明記すると、顧客は自分が待つ期間を把握できます。
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