想定読者

  • 会議のための「見栄えの良いパワポ資料」作りに、膨大な時間を費やしている方
  • 会議でのプレゼンが、話の上手い人の独壇場になっていることに課題を感じるリーダー
  • Amazonの強さの源泉である、徹底的に合理的な意思決定の文化を学びたいビジネスパーソン

結論:パワポは思考を「ごまかす」。文章は思考を「深める」。

もし、あなたが会議の質を本気で高めたいと願うなら、まず最初にすべきは、パワーポイントを閉じることです。Amazonの創業者ジェフ・ベゾスは、会議におけるパワポの使用を禁止しました。なぜなら、パワポは、深い思考を「ごまかす」のには最適なツールですが、本質的な議論には全く向いていないからです。その代わりにAmazonが導入したのが、**「6ページャー」**と呼ばれる文章文化。これは、単なる資料作成のルールではありません。それは、書き手と読み手の双方に、深く、論理的に、そして批判的に思考することを強制する、知的トレーニングの「道場」なのです。

なぜ、Amazonは「パワポ」を禁止したのか?

多くの企業で、パワーポイントはビジネスの標準ツールとして使われています。しかし、ベゾスは、その「常識」に潜む大きな弊害を見抜いていました。

パワポの最大の問題点は、思考を断片化させることにあります。箇条書き(ブレットポイント)は、一見すると要点がまとまっているように見えますが、実は、それぞれの項目の間の「論理的な繋がり」を曖昧にします。なぜその結論に至ったのか、という思考のプロセスが、箇条書きの裏に隠されてしまい、聞き手はそれを深く吟味することができません。

さらに、パワポでの会議は、プレゼンターの「話術」や「スライドのデザイン」に、議論の質が大きく左右されてしまいます。内容そのものは浅くても、プレゼンが上手い人の意見が通ってしまったり、逆に、本質的なアイデアを持っていても、口下手な人の意見が軽んじられたりする。これでは、合理的な意思決定は望めません。

そして何より、箇条書きは、書き手がアイデアを深く考え抜かなくても、それっぽく見せることができてしまうのです。パワポは、書き手の「思考の浅さ」を隠すための、便利な隠れ蓑にもなり得るのです。

「6ページャー」とは?会議を沈黙から始める革命

Amazonがパワポの代わりに導入したのが、「6ページャー」と呼ばれる、最大6ページの文章(ナラティブ・メモ)です。その運用方法は、日本の常識からすると、非常に独特です。

まず、会議の主催者は、事前に、提案したい内容を、完全な文章で、最大6ページにまとめます。箇条書きは最小限。そこには、背景、問題提起、過去の試み、提案内容、そしてその提案がなぜ優れているのか、という明確な論理構造が、物語のように記述されます。

そして、会議が始まると、参加者は、最初の10分から20分間、完全な「沈黙」の中で、その6ページャーを黙々と読み込みます。おしゃべりは一切禁止。全員が、自分のペースで、文章と向き合うのです。

全員が読み終えたことを確認した後、初めて、その内容に関する質疑応答と議論が開始されます。この「沈黙の読書タイム」こそが、この会議術の核心です。これにより、役職や声の大きさに関係なく、全員が同じ情報レベルと、深いコンテキストの理解を持った上で、議論をスタートすることができるのです。

なぜ「文章で書くこと」が、思考を極限まで深めるのか

この一見、非効率にも見えるプロセスが、なぜこれほどまでに強力なのでしょうか。

まず、文章で書くという行為は、書き手に、アイデアの論理的な繋がりを強制的に意識させます。箇条書きではごまかせた論理の飛躍や、都合の良いデータのつまみ食いが、文章にすると「話の筋が通らない」という形で、明確に浮かび上がってきます。書き手は、読者からの鋭い質問を予測しながら、自分の思考の穴を埋め、矛盾点を解消し、提案を徹底的に磨き上げざるを得なくなるのです。

次に、読み手は、自分のペースで情報を処理し、批判的に吟味することができます。プレゼンのように、情報が一方的に、そして刹那的に流れていくのとは訳が違います。読み手は、分からない部分を何度も読み返したり、重要な部分にメモを取ったりしながら、提案の細部までを深く理解し、本質を突いた質の高い質問を準備することができるのです。

そして、この方法は、議論の質を、個人のプレゼン能力から完全に切り離します。口下手だが、優れた思考を持つ人が、その価値を正当に評価される。逆に、口先だけで中身のない人が、その浅さを見抜かれる。議論は、より本質的で、公平なものになるのです。

あなたの組織で「ミニ6ページャー」を始める方法

いきなり6ページの文章を書くのは、非常にハードルが高いでしょう。しかし、そのエッセンスを取り入れることは、今日からでも可能です。

次回の重要な会議で、パワポの代わりに、A4一枚の「1ページャー」を用意してみてはいかがでしょうか。そのメモに、「1. 背景と目的」「2. 提案内容」「3. そう考える理由」「4. 想定されるリスクと対策」「5. 次のステップ」といった項目を、箇条書きではなく、接続詞を使った「文章」で記述してみるのです。

そして、会議の冒頭、たった5分間で良いので、「沈黙の読書タイム」を設けてみてください。参加者に、その1ページャーをじっくりと読んでもらうのです。きっとあなたは、その後の議論が、いつもより遥かに深く、本質的で、そして建設的なものになることに、驚くはずです。その小さな成功体験こそが、あなたの組織の会議文化を変える、大きな一歩となるでしょう。

よくある質問

Q: 文章を書くのが苦手で、時間がかかりすぎてしまいそうです。

A: それこそが、この手法の狙いの一つです。文章がスラスラ書けないのは、思考が整理されていない証拠です。書くのに時間がかかる、ということは、それだけ深く考える時間が増える、ということです。パワポで「分かった気になっていた」自分の思考の浅さに気づくこと。それが、成長の始まりです。

Q: 6ページも読む時間があるなら、その分、議論した方が効率的では?

A: 浅い理解のまま1時間議論するのと、深い理解を得た上で30分議論するのとでは、どちらが質の高い意思決定に繋がるでしょうか。Amazonが実践しているのは、後者です。議論の「時間」ではなく、意思決定の「質」と「スピード」を最大化するための、極めて合理的な手法なのです。

Q: 図やグラフを使いたい場合は、どうすればいいですか?

A: 6ページャーは、図やグラフの使用を完全に禁止しているわけではありません。文章による論理的な説明を補足するために、必要不可欠な図やグラフを、付録(Appendix)として添付することは認められています。ただし、あくまで主役は「文章」です。

Q: 全ての会議で、パワポは禁止すべきなのでしょうか?

A: 必ずしもそうではありません。例えば、社外のクライアントへのプレゼンや、大人数への情報伝達など、視覚的なインパクトや、エンターテイメント性が求められる場面では、パワポは依然として有効なツールです。6ページャーが最も効果を発揮するのは、社内の「重要な意思決定」を行うための、少人数での議論の場です。

筆者について

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