想定読者

  • 不採算事業やプロジェクトの「やめ時」に、本気で悩んでいる経営者や事業責任者
  • 「ここまでやったんだから」が口癖で、なかなか方針転換に踏み切れない方
  • より合理的な意思決定と、資源の最適配分を実現したいすべてのリーダー

結論:あなたが未来のために唯一コントロールできるのは「過去」ではなく「今」である

「この事業に、どれだけのお金と時間を注ぎ込んできたと思っているんだ!」。その言葉は、未来の成功に向けた決意でしょうか?それとも、過去の失敗から目を背けるための言い訳でしょうか? 後者である場合、あなたの会社はコンコルドの誤謬という、極めて危険な罠に陥っています。これは、それまでに費やしたお金や労力(サンクコスト)を惜しむあまり、将来的に損失を出し続けると分かっていながら、その対象への投資をやめられなくなる不合理な心理です。この記事では、この「もったいないの呪い」の正体を暴き、それを断ち切るための具体的な方法を解説します。

コンコルドの誤謬とは?超音速旅客機が教える壮大な失敗の歴史

この言葉の由来は、1960年代にイギリスとフランスが共同開発した、超音速旅客機「コンコルド」のプロジェクトにあります。

コンコルドは、夢の超音速旅客機として、国家の威信をかけて開発がスタートしました。しかし、開発途中の段階で、技術的な問題や環境への影響、そして何より、商業的に採算が取れる見込みが極めて薄いことが明らかになります。合理的に考えれば、その時点でプロジェクトは中止すべきでした。

しかし、両国の政府は決断できませんでした。「ここでやめれば、これまで投じた莫大な資金と時間が全て無駄になってしまう」。その一心で、彼らは開発を続行。結果、コンコルドは商業的に大失敗に終わり、最終的に国家に天文学的な損失を残したのでした。

このように、回収不可能であると分かっている過去のコスト(お金、時間、労力)を「サンクコスト(埋没費用)」と呼びます。そして、このサンクコストを惜しむあまり、合理的な判断ができなくなる心理こそが、「コンコルドの誤謬」または「サンクコスト効果」なのです。

あなたの日常に潜む「もったいない」の呪い

この壮大な失敗は、決して他人事ではありません。私たちの日常やビジネスは、大小さまざまなコンコルドの誤謬に満ちています。

  • ビジネスの場面: 「この事業に5年も注力してきたんだ。今さらやめられるか」と、市場から見放された赤字事業に、さらに資金を投入し続ける。
  • 個人のキャリア: 「せっかく3年も勤めた会社だから」「苦労して取った資格だから」と、将来性のない会社や、自分に合わない仕事にしがみつき、より良いキャリアの機会を逃す。
  • 日常生活: 「元を取らないと」と、全く面白くない映画を最後まで観続けたり、お腹がいっぱいなのに食べ放題で無理して食べたりする。貴重な時間や健康を、失ったお金のために犠牲にしているのです。

なぜ私たちは「サンクコスト」の呪縛から逃れられないのか

1. 損失回避性

人は、利益を得る喜びよりも、同額の損失を被る苦痛を2倍以上も強く感じるようにできています。プロジェクトから撤退することは、これまでの投資が「損失」として確定することを意味します。この苦痛を避けたいがために、「もしかしたら好転するかもしれない」という淡い期待にすがり、損失の確定を先延ばしにしてしまうのです。

2. 一貫性へのこだわり

一度始めたことを途中でやめるのは、「一貫性がない」「判断を誤った」と、自らの失敗を認めることのように感じられます。特に、多くの人を巻き込んだプロジェクトのリーダーは、自尊心や社会的な評価を守るために、「一度やると決めたのだから」と意地でも続けようとしてしまう傾向があります。

3. 所有効果

自分が時間や労力をかけた対象(自社の商品、自分が立ち上げた事業など)に対して、人は客観的な価値以上の愛着を感じてしまいます。我が子のように感じられるその事業を手放すことは、単なる経済的な損失以上の、感情的な痛みを伴うため、合理的な判断が難しくなるのです。

「コンコルドの誤謬」を断ち切るための3つの処方箋

では、どうすればこの強力な呪縛から逃れられるのでしょうか。

1. 「ゼロベース思考」を強制する

意思決定の際に、こう自問自答してください。「もし、過去の経緯が一切なく、今日、ゼロからこの事業に投資を判断するとしたら、同じ金額を投じるだろうか?」。過去の投資を会計上も、心理上も、一旦「ゼロ」と見なすのです。判断基準はただ一つ、「これからどうすれば、未来の利益が最大化されるか」。過去は、未来の意思決定とは全く関係ありません。

2. 「撤退基準」を事前に決めておく

感情が判断を鈍らせるのなら、感情が入り込む前にルールを決めてしまえば良いのです。プロジェクトを開始する前に、「もし、2四半期連続で営業赤字が続いたら」「もし、顧客獲得単価が〇〇円を上回ったら、このプロジェクトは即座に中止する」というような、客観的で具体的な撤退基準をチームで合意しておきましょう。これにより、いざという時に「ルールに従って」冷静に損切りを実行できます。

3. 第三者の「客観的な目」を入れる

当事者であればあるほど、サンクコストの呪縛は強力になります。そんな時は、そのプロジェクトに直接関わっていない、しがらみのない第三者に意見を求めましょう。彼らは、あなたが愛着や一貫性のために見えなくなっている問題点を、冷静に指摘してくれるはずです。コンサルタントや社外取締役の価値は、まさにこの「客観的な目」にあるのです。

よくある質問

Q: 「粘り強さ」と「コンコルドの誤謬」はどう違うのですか?

A: 非常に重要な違いです。「粘り強さ」は、将来成功する合理的な見込みがある場合に、困難を乗り越えて努力を続けることです。一方、「コンコルドの誤謬」は、客観的に見て成功の見込みが薄いにもかかわらず、過去の投資に固執して努力を続けることです。判断の基準が「未来」にあるか「過去」にあるか、という点が決定的に異なります。

Q: サンクコストを完全に無視するのは、あまりに冷酷ではありませんか?

A: 冷酷に聞こえるかもしれませんが、それが最も合理的な判断です。サンクコストに囚われて不採算事業を続けた結果、会社全体が倒産してしまえば、より多くの従業員を不幸にすることになります。過去の失敗を認めて損切りすることは、未来のより大きな成功のために、組織の資源を守るための、リーダーの重要な責任なのです。

Q: 小さな判断でも、この誤謬は起こりますか?

A: はい。前述の「面白くない映画を観続ける」のように、日常の些細な判断にも頻繁に現れます。こうした小さなサンクコストの罠に日常的に気づき、断ち切る訓練をしておくことが、大きな経営判断の際に冷静さを保つ助けになります。

Q: 失敗を認めるのが怖くて、なかなか損切りできません。

A: 失敗を認めるのは誰にとっても辛いことです。しかし、損切りは「失敗の終わり」ではありません。それは「新たな成功の始まり」です。損切りによって確保できた資金や人材を、より将来性のある分野に再投資することで、過去の失敗を補って余りある成功を掴むことができます。重要なのは、失敗から学び、次に進むことです。

筆者について

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