『知らなかった』では済まされない経営者の法的責任範囲

想定読者

中小企業の経営者、役員、あるいはこれから起業を考えている方
ご自身の法的責任の範囲を正しく理解し、リスクを管理したいと考えている方
コンプライアンス意識を高め、安心して経営に専念したい方

結論：経営者の法的責任は会社の存続に関わる

「まさか、こんなことになるとは…」「知らなかったでは済まされない、と言われても…」

もし、あなたが経営者として、そうした事態に直面したとしたら、どうでしょうか。会社の代表者である経営者は、その事業活動において、非常に広範かつ重大な法的責任を負っています。その責任は、会社法、労働法、税法、個人情報保護法など、多岐にわたる法律によって定められています。

そして、最も重要なことは、「知らなかった」では、その責任を免れることはできないということです。経営者には、会社を適切に運営し、法令を遵守する「善管注意義務」が課せられています。この義務を怠り、会社や第三者に損害を与えた場合、経営者個人が責任を問われる可能性もあるのです。

この記事では、なぜ「知らなかった」では済まされないのか、その法的責任の重みを解説します。そして、経営者が負うべき主な法的責任の範囲を具体的に示し、それらの法的リスクを回避するための具体的な対策を提示します。リスクを正しく理解し、適切な対策を講じることで、安心して経営に専念できる盤石な体制を築いていきましょう。

なぜ「知らなかった」では済まされないのでしょうか？経営者の法的責任の重み

経営者の法的責任が重いのは、その立場が会社の「代表者」であり、会社の意思決定の最高責任者だからです。

1. 善管注意義務

経営者には、善良な管理者としての注意義務（善管注意義務）が課せられています。これは、その地位にある者が通常払うべき注意義務を指し、専門家としての知識や経験に基づいて、会社のために最善を尽くす責任があるということです。法令遵守はもちろん、会社の財産管理や事業運営全般にわたって、この義務が適用されます。

2. 忠実義務

経営者は、会社の利益のために忠実に職務を遂行する義務（忠実義務）を負っています。これは、自己の利益や第三者の利益のために会社に損害を与える行為を禁じるものです。

3. 損害賠償責任

これらの義務に違反し、会社や第三者に損害を与えた場合、経営者個人が会社や第三者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。場合によっては、刑事罰の対象となることもあります。

経営者が負う、主な法的責任の範囲

経営者が特に注意すべき法的責任の範囲は、多岐にわたります。

1. 会社法上の責任

善管注意義務・忠実義務違反: 経営判断の誤りや、法令違反などにより会社に損害を与えた場合。
特別背任罪: 経営者が自己または第三者の利益を図る目的で、会社に損害を与えた場合。
株主に対する責任: 違法な配当や、株主総会の手続き違反など。

2. 労働法上の責任

労働時間・賃金: 未払い残業代、最低賃金違反など。
ハラスメント: パワハラ、セクハラなど、職場環境配慮義務違反。
安全衛生: 労働災害防止のための安全配慮義務違反。
解雇: 不当解雇、解雇予告手当の未払いなど。

3. 税法上の責任

脱税・申告漏れ: 法人税、消費税、源泉所得税などの申告・納税義務違反。
役員報酬: 不相当に高額な役員報酬は、損金不算入となるリスクがあります。

4. 個人情報保護法上の責任

情報漏洩: 顧客情報や従業員情報の漏洩、不正利用など。
利用目的の明示: 個人情報の利用目的を明確にせず、収集・利用した場合。

5. その他

景品表示法: 虚偽・誇大な広告表示。
下請法: 下請事業者への不当な減額や買いたたき。
独占禁止法: カルテル、談合など。

法的リスクを回避するための5つの対策

対策1：【専門家との連携】弁護士、税理士、社労士を「顧問」にする

全ての法律を経営者自身が網羅することは不可能です。各分野の専門家（弁護士、税理士、社会保険労務士など）を顧問として迎え、日常的に相談できる体制を構築しましょう。彼らは、あなたの会社の「法務の番人」として、リスクを未然に防いでくれます。

対策2：【社内規定の整備】就業規則、コンプライアンス規程を明確にする

会社のルールを明確にし、従業員に周知徹底しましょう。特に、就業規則、ハラスメント防止規程、個人情報保護規程などは、トラブル発生時の会社の防御壁となります。定期的に見直し、法令改正に対応することも重要です。

対策3：【従業員教育】コンプライアンス意識を浸透させる

経営者だけでなく、従業員一人ひとりがコンプライアンス意識を持つことが重要です。定期的な研修や、社内での情報共有を通じて、法令遵守の重要性や、具体的な行動規範を浸透させましょう。内部通報制度の整備も有効です。

対策4：【リスクマネジメント体制の構築】有事の際の対応を準備する

万が一、法的トラブルが発生した場合に備え、誰が、何を、どのように対応するのか、事前に体制を構築しておきましょう。危機管理マニュアルの作成や、模擬訓練を行うことで、有事の際に冷静かつ迅速に対応できます。

対策5：【情報収集の継続】法改正の動向を常に把握する

法律や規制は常に変化しています。経営者自身も、業界に関連する法改正の動向を常に把握するよう努めましょう。専門家からの情報提供だけでなく、業界団体や公的機関からの情報も積極的に収集することが重要です。

経営者の責任は、会社の未来を守ることです

経営者の法的責任は、重く、広範です。しかし、それは会社を適切に運営し、従業員を守り、社会に貢献し続けるための「責任」でもあります。「知らなかった」では済まされないからこそ、リスクを正しく理解し、適切な対策を講じることで、安心して経営に専念できる盤石な体制を築くことができます。経営者の責任は、会社の未来を守ることです。その責任を全うし、あなたの会社を永続的な存在へと導いていきましょう。

よくある質問

Q: 顧問弁護士は、どのような基準で選べば良いですか？

A: 会社の事業内容や業界に精通している弁護士を選ぶことが重要です。また、フットワークが軽く、気軽に相談できる関係性を築けるかどうかもポイントです。複数の弁護士と面談し、相性や費用なども含めて検討しましょう。顧問契約の範囲や費用も事前に明確にしておくことが大切です。

Q: 従業員が起こした問題でも、経営者が責任を負うのですか？

A: はい、場合によっては経営者も責任を負う可能性があります。例えば、従業員が業務中に起こした不法行為に対しては、会社が使用者責任を負い、その会社の代表者である経営者も責任を問われることがあります。また、ハラスメントなど、職場環境配慮義務違反があった場合も、経営者の責任が問われる可能性があります。

Q: コンプライアンス教育は、具体的に何をすれば良いですか？

A: 一方的な座学だけでなく、具体的な事例を用いたケーススタディや、グループディスカッションを取り入れると効果的です。また、定期的に内容を見直し、最新の法令や社会情勢に対応することも重要です。従業員が「自分ごと」として捉え、日々の業務に活かせるような教育を目指しましょう。

Q: 会社が小さく、専門家を雇う予算がありません。

A: 地域の商工会議所や、中小企業診断士協会など、中小企業向けの無料相談窓口や、低価格で利用できる専門家紹介サービスもあります。また、弁護士や社労士の中には、スポットでの相談や、月額数万円からの顧問契約を提供している事務所もあります。まずは、そうしたサービスを活用し、リスクを最小限に抑えることから始めましょう。

筆者について

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