想定読者
- 売上は伸びているのに、なぜか資金繰りが苦しいと感じている経営者
- 価格競争に陥り、利益率の低下に悩んでいる事業主
- どんぶり勘定から脱却し、利益体質な会社を作りたいと考えている方
結論:ビジネスの目的は「売上」ではなく、「利益」。会社の血液は、現金である。
「今月の売上目標、達成!」 「前年比120%の売上成長!」
これらの言葉は、ビジネスの現場において、成功の象徴として語られます。売上は、事業の規模や成長性を示す、分かりやすく、魅力的な指標です。しかし、その数字の華やかさに目を奪われ、最も重要なことを見失ってはいないでしょうか。
ビジネスの目的は、売上を最大化することではありません。持続可能な**「利益」を生み出し、会社に「現金」**を残すことです。売上という名の水を、穴の空いたバケツに注ぎ続けても、バケツが満たされることはありません。その「穴」を塞ぎ、バケツに水を溜める行為こそが、利益を生むということです。
この記事では、多くの企業が陥る「売上至上主義」という危険な罠と、その先にある「黒字倒産」のリスクを解説します。そして、会社の生命線である「利益」と、その源泉である「現金」を、いかにして確保していくか、その具体的な思考法とアクションを提示します。
「売上至上主義」という、甘く危険な罠
なぜ、私たちはこれほどまでに「売上」という数字に惹きつけられてしまうのでしょうか。それは、売上が「成長」という物語を、最もシンプルに語ってくれるからです。右肩上がりの売上グラフは、経営者や従業員の士気を高め、対外的にも「うまくいっている会社」という印象を与えます
この魅力に囚われると、企業は「売上を上げるためなら、手段を厭わない」という思考に陥りがちです。
- 競合に対抗するため、利益を度外視した価格設定を行う。
- 「数をこなせば儲かる」と信じ、採算の合わない仕事でも引き受けてしまう。
- 売上を伸ばすために、広告宣伝費や人件費を、利益を上回るペースで投入してしまう。
その結果、何が起きるでしょうか。売上は確かに伸びるかもしれません。しかし、その裏側では、人件費、原材料費、広告費といった費用も同様か、それ以上に膨れ上がっています。現場は、増え続ける業務量に疲弊し、会社は「売上は大きいのに、なぜか手元にお金が残らない」という、ワーキングプアならぬ「ワーキングプア・カンパニー」の状態に陥ってしまうのです。
利益の源泉は3つしかない。あなたの会社はどこに手をつけますか?
利益の構造は、極めてシンプルです。
利益 = 売上 ー 費用
そして、費用は、売上に連動して増減する「変動費(原材料費など)」と、売上に関わらず発生する「固定費(家賃・人件費など)」に分けられます。
この式を見れば、利益を増やすためのレバーが、「売上を増やす」こと以外にも存在することが分かります。「費用を減らす」という、もう一つの、そしてしばしばより重要なレバーです。多くの経営者は、「売上」というアクセルを踏むことばかりに集中し、「費用」というブレーキのメンテナンスを怠ってしまうのです。
売上を上げずに「利益」を増やす、5つの具体的な方法
では、具体的にどうすれば、利益体質な会社へと生まれ変われるのでしょうか。ここでは、必ずしも売上を増やすことなく、利益を改善するための5つのアプローチをご紹介します。
- 価格を見直す(値上げする) 最も直接的で、効果的な利益改善策です。多くの人は「値上げ=顧客離れ」と恐れますが、あなたが提供している価値が価格を上回っていると顧客が感じていれば、彼らは離れません。むしろ、安売りはブランド価値を毀損し、「安さ」だけを求める顧客を引き寄せてしまいます。勇気を持って、自社の価値に見合った価格を設定しましょう。
- 顧客と商品を選別する あなたの顧客や商品はすべて、平等に利益をもたらしてくれているわけではありません。いわゆる「80:20の法則」で、利益の8割は、2割の優良顧客や高利益率商品が生み出していることがほとんどです。手間ばかりかかって利益の薄い取引から勇気を持って撤退し、そのリソースを優良顧客へのサービス向上に振り向けるべきです。
- 変動費を削減する 原材料の仕入れ先を見直す、製造プロセスの無駄をなくす、といった改善です。例えば、飲食店であれば、食材の廃棄ロスを管理することが、直接的に利益率の改善に繋がります。
- 固定費を削減する 本当にそのオフィススペースは必要ですか?使っていないサブスクリプションサービスはありませんか?固定費は、売上がゼロでも発生し続ける、最も重いコストです。定期的に聖域なく見直すことで、会社の損益分岐点を大きく下げることができます。
- 既存顧客からのリピートを増やす 新規顧客の獲得には、既存顧客を維持するコストの5倍かかると言われています(1:5の法則)。一度関係を築いた顧客に、より満足してもらい、再度購入してもらうための施策に投資することは、極めて費用対効果の高い利益改善策です。
「利益」は、未来への投資の原資である
なぜ、これほどまでに「利益」が重要なのでしょうか。それは、利益が、単に経営者の懐を潤すためだけのものではないからです
利益とは、会社の未来を創るための、唯一の投資原資です。
十分な利益があって初めて、会社は、より良い製品やサービスのための研究開発に投資できます。従業員に対して、より良い給与や労働環境を提供できます。そして、不測の事態に備えるための、財務的な体力(内部留保)を蓄えることができます。
利益なき成長は、砂上の楼閣です。目先の売上という数字に踊らされることなく、足元の利益と、その源泉である現金を着実に積み上げていくこと。それこそが、10年、20年と続く、持続可能な事業を築くための、唯一の道なのです。
よくある質問
Q: 値上げをしたら、顧客が離れてしまうのが怖いです。
A: もし、あなたのビジネスが「安さ」だけで成り立っているのであれば、一部の顧客は離れるでしょう。しかし、それは、あなたの提供する本質的な「価値」を評価してくれる、本当の顧客だけを選別する、絶好の機会です。値上げの前には、自社の価値を顧客に明確に伝え、納得感を得る努力が不可欠です。
Q: コスト削減をしすぎると、品質が落ちませんか?
A: 非常に重要なご指摘です。目指すべきは「盲目的なコストカット」ではなく、「賢明なコストの最適化」です。削減すべきは、顧客価値に貢献しない「無駄」なコストであり、品質を支える「必要」なコストではありません。例えば、無駄な広告費を削るのは賢明ですが、原材料の質を落として顧客の信頼を失うのは愚策です。
Q: どの数字を一番に見れば良いのでしょうか?
A: まずは「粗利益(売上総利益)」、つまり「売上 ー 売上原価」です。これが、あなたの商売の基本的な儲ける力を示します。次に、そこから家賃や人件費などの固定費を引いた「営業利益」を見ましょう。これが、会社の本業全体での利益です。売上高だけを見るのではなく、これらの「利益」の額と「率」を、常に把握しておくことが重要です。
Q: 赤字でも、事業を拡大してシェアを取るべき、という考え方もありますよね?
A: はい、それはベンチャーキャピタルなどから巨額の資金を調達し、特定の市場を独占(ウィナー・テイク・オール)することを目指す、ごく一部のITスタートアップなどが取る戦略です。ハイリスク・ハイリターンであり、ほとんどの中小企業にとっては現実的ではありません。ほとんどの事業者にとっては、まず持続可能な利益体質を築くことの方が、はるかに安全で、確実な成長戦略と言えます。
筆者について
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