想定読者
- 新しい商品やサービスのアイデアを考えている、起業家や開発者
- 自社の商品が、なぜか顧客に「刺さらない」と感じているマーケター
- 顧客の課題解決を起点とした商品開発を学びたい方
結論:「欲しい」は気まぐれ、「必要」は切実。顧客の「痛み」こそが、ビジネスの原点である。
あなたの開発した、あるいはこれから開発しようとしている商品は、顧客にとって「ビタミン」ですか?それとも「鎮痛剤」ですか?
これは、シリコンバレーの投資家たちが、新しいビジネスを評価する際によく使う、非常に重要な問いです。
- ビタミンとは、「あったら、もっと良くなる」もの。つまり、顧客の「欲しい(Want)」に応える商品です。健康増進サプリや、新しいSNSアプリ、面白いゲームなどがこれにあたります。
- 鎮痛剤とは、「ないと、困る・痛い」もの。つまり、顧客の「必要(Need)」に応える商品です。企業の会計ソフトや、急な頭痛を治す薬、壊れた水道を直すサービスなどがこれにあたります。
私たちは、つい「ビタミン」のような、華やかで、人々の生活をより豊かにする商品を作りたい、という誘惑に駆られます。しかし、ビジネスの持続可能性という観点から見ると、その選択は極めて危険かもしれません。
なぜなら、「欲しい」という感情は気まぐれで、景気や気分によって簡単に切り捨てられてしまうからです。一方で、「必要」という感情は切実です。顧客は、自分たちの抱える、リアルで、差し迫った「痛み」を解決するためなら、喜んで、時には必死になってでも、お金を払うのです。この記事では、あなたのビジネスを、単なる「あったらいいね」から、「なくてはならない」存在へと昇華させるための思考法を解説します。
なぜ、私たちは「ビタミン」を作りがちなのか
多くの起業家や開発者が、意図せずして「ビタミン」製品を開発してしまうのには、理由があります。
一つは、「ビタミン」の方が、作っていて楽しいからです。「こんな未来が実現できたら素晴らしい」「この技術は、きっと世界を面白くする」といった、ポジティブで、創造的な発想は、私たちを夢中にさせます。
一方で、「鎮痛剤」が解決する課題は、経費精算の効率化、面倒な行政手続きの簡略化、といった、地味で、退屈な「痛み」であることが多いのです。
もう一つの理由は、開発者が「課題」ではなく「解決策(ソリューション)」に恋をしてしまうからです。自分が持つ独自の技術や、美しいデザイン、画期的なアイデアといった「解決策」を先に作り上げ、後から「この素晴らしい解決策で、どんな課題が解決できるだろうか?」と考えてしまう。この「ソリューションありき」のアプローチが、「誰にとっての必需品でもないが、何となく良さそうなもの」、つまり「ビタミン」を生み出す温床となるのです。
「必要(痛み)」を見極めるための、3つの視点
では、どうすれば、単なる思い込みではない、本物の「必要性(痛み)」を見つけ出すことができるのでしょうか。以下の3つの視点から、顧客の課題を評価してみましょう。
- 頻度 (Frequency) その痛みは、どれくらいの頻度で発生するでしょうか? 毎日、毎週、それとも年に一度でしょうか。発生頻度が高ければ高いほど、顧客はその解決策を日常的に利用してくれる可能性が高まり、ビジネスとして安定しやすくなります。
- 深刻度 (Intensity) その痛みは、どれくらい深刻でしょうか?「少し不便だな」というレベルの小さな悩みか、それとも「これがないと、事業が立ち行かない」というレベルの大きな問題か。痛みが深刻であるほど、顧客は高い対価を払ってでも、それを解決したいと強く願います。
- 支払い意欲 (Willingness to Pay) 顧客は、その痛みを解決するために、すでに何らかの形でお金や時間を使っているでしょうか? たとえそれが、非効率な手作業や、間に合わせのツールであったとしても、すでに対価を払っているという事実は、「その痛みには、お金を払う価値がある」という、何よりの証拠となります。
あなたの「ビタミン」を、「鎮痛剤」に変える方法
もし、あなたのアイデアが「ビタミン」寄りだと感じても、諦める必要はありません。視点を変え、切り口を工夫することで、「鎮痛剤」へと進化させられる可能性があります。
例えば、汎用的なプロジェクト管理ツールは、多くの人にとって「ビタミン」です。しかし、特定のニッチな業界に特化させ、「建築事務所が、図面と工程を管理する際の、あの煩雑なやり取りをなくす」というツールになれば、その業界の人々にとっては、なくてはならない「鎮痛剤」に変わります。
また、痛みを定量化することも有効です。「業務効率が上がります」という漠然とした「ビタミン」的表現を、「このツールを使えば、毎週10時間かかっていた手作業がゼロになり、人件費を年間〇〇万円削減できます」と表現すれば、それはコスト削減という、明確な「鎮痛剤」の提案になります。
顧客の「欲しい」という表面的な言葉の裏にある、「なぜ、それが欲しいのか?」という、より高次の「必要性」に結びつけること。それが、あなたのアイデアを、ビジネスの荒波を乗り越えるための、強力な「鎮痛剤」へと変える鍵なのです。
よくある質問
Q: エンターテイメントや高級ブランド品は「ビタミン」ですが、成功していますよね?
A: 非常に良いご指摘です。これらのビジネスは、機能的な痛みではなく、「退屈を解消したい」「自己肯定感を満たしたい」「特別な存在でありたい」といった、人間のより根源的な心理的欲求(痛み)を解決する「鎮痛剤」と捉えることができます。ただし、これらの市場は、トレンドの移り変わりが激しく、莫大なマーケティング費用が必要となる、極めて競争の激しい世界です。多くの事業者にとっては、機能的な痛みを解決する方が、はるかに確実性の高い道と言えます。
Q: 顧客自身が、自分の「痛み」に気づいていない場合はどうすれば良いですか?
A: それは「破壊的イノベーション」が直面する課題です。その場合、あなたの最初の仕事は、製品を売ることではなく、「市場に、問題そのものを教育する」ことになります。顧客が当たり前だと思っている日常に、「実は、もっと良い方法があるんですよ」と、潜在的な痛みを目に見える形にしてあげるのです。これは、顧客がすでに感じている痛みを解決するより、はるかに難易度とコストが高い、上級者向けの戦略です。
Q: 自分のアイデアが「ビタミン」か「鎮痛剤」か、どうすれば分かりますか?
A: 顧客候補に、こう質問してみてください。「この問題の重要度は、10段階でどれくらいですか?」そして、「もし今日、この解決策が手に入るとしたら、いくら払いますか?」もう一つの強力な質問は、「今、この問題を解決するために、何かやっていることはありますか?」です。もし、彼らが何もしておらず、お金も払っていないのであれば、その痛みは、あなたが思うほど深刻ではないのかもしれません。
Q: 「鎮痛剤」市場は、競合が多いのではないでしょうか?
A: その通りです。しかし、それは悲観すべきことではありません。競合の存在は、その市場に、お金を払ってでも解決したい「本物の痛み」が存在することを、何よりも雄弁に証明してくれているのです。あなたの仕事は、痛みのない市場を探すことではなく、既存の解決策では十分に癒やされていない「痛み」や「副作用」を見つけ出し、より優れた「鎮痛剤」を提供することなのです。
筆者について
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