想定読者
- 右腕として信頼していた幹部や、エース級社員の突然の退職にショックを受けた経験のある経営者
- 高い成果を上げているにも関わらず、上司から正当に評価されていない、尊重されていないと感じている管理職やNo.2の方
- 組織内のコミュニケーション不全や、心理的安全性の欠如に強い問題意識を持つすべてのリーダー
結論:人の離反は「待遇」ではなく「尊厳」で起きる
「まさか、あの人が辞めるなんて」。経営者であれば、一度はこんな経験に肝を冷やしたことがあるかもしれません。特に、長年連れ添った右腕や、最も信頼していた幹部の突然の離反は、事業の存続すら揺るがす大事件です。その歴史上最大の例が、明智光秀による「本能寺の変」です。
なぜ、信長軍団で屈指の能力を持ち、方面軍を任されるほど信頼されていた光秀が、主君を討つという最悪の裏切り行為に及んだのか。その原因は、俗説で語られるような単純な怨恨や野心だけではありません。これは、現代企業でも繰り返される、優秀な人材が「尊厳」を踏みにじられ、心が折れていくプロセスそのものなのです。優秀な人材の離反は、給与や役職といった待遇の問題だけで起こるのではありません。それは、組織が彼らの「心」のマネジメントに失敗した時に起こる、静かで、しかし最も破壊的な崩壊のサインなのです。
本能寺の変は「事件」ではない。「組織の必然」である
明智光秀は、信長にその才能を見出され、異例のスピードで出世した、まさに信長チルドレンの筆頭でした。古い慣習にとらわれない合理的な思考、高い行政能力、そして武将としての実力。彼は、信長の理想を実現するために不可欠な、最も有能なパーツの一つでした。彼の謀反は、決して突発的な感情論で説明できるものではありません。
それは、日々の小さなストレスや、コミュニケーションの齟齬、評価への不満が、本人の中で静かに、しかし確実に蓄積していった結果です。現代の言葉で言えば、「エンゲージメント」が徐々に低下し、組織への貢献意欲が完全に失われた状態。そして、ある一つの出来事が引き金となり、蓄積されたマグマが爆発したのです。これは、400年以上前の昔話ではありません。あなたのオフィスで、今まさに静かに進行しているかもしれない、生々しい組織の問題なのです。
光秀の心を折った、信長の「3つの過ち」
信長は、なぜ最も有能な部下の心を離してしまったのでしょうか。その原因は、彼のマネジメントにおける3つの致命的な過ちに集約されます。
1. 公開の場での叱責(心理的安全性の破壊)
信長は、多くの家臣がいる前で、光秀を足蹴にしたり、些細なことで厳しく罵倒したりした、という逸話が数多く残っています。これが事実であれば、最悪のマネジメントです。人前で恥をかかせる行為は、相手の人格と尊厳を根底から否定するものです。たとえそれが、上司なりの「愛のムチ」であったとしても、受け取る側にとっては、消えない屈辱感と不信感を植え付けるだけです。
このような行為がまかり通る組織では、「心理的安全性」は完全に失われます。部下は、叱責を恐れて挑戦しなくなり、本音を語らなくなり、ただ上司の顔色をうかがうだけのイエスマンになってしまいます。
2. 成果の没収と理不尽な人事(公正な評価の欠如)
光秀は、長年の激戦の末に、ようやく丹波・丹後という領地を平定しました。しかし、信長は、その領地を召し上げ、代わりにまだ手に入れてもいない出雲・石見への国替えを命じたと言われています。これは、光秀のこれまでの功績をゼロにし、過酷な未来を一方的に押し付ける「梯子外し」に他なりません。
人は、自分の仕事が正当に評価され、その成果が報われると信じられるからこそ、困難な仕事にも立ち向かえます。成果を軽んじ、朝令暮改の理不尽な命令を下すリーダーの下では、誰もモチベーションを維持できません。「頑張っても、どうせ報われない」という無力感は、最も優秀な人材から組織を見限らせる、強力な毒となります。
3. 価値観の完全な不一致(ビジョンの乖離)
伝統や秩序を重んじる教養人であった光秀に対し、信長は、既存の権威や伝統を徹底的に破壊する革命家でした。当初、光秀は信長の革新的なビジョンに強く惹かれていたはずです。しかし、比叡山の焼き討ちなど、信長の苛烈なやり方を目にするうちに、次第に「この男とは、目指す世の形が違うのではないか」という疑念が生まれていった可能性があります。
企業のビジョンと、個人の価値観が大きく乖離した時、人は組織に留まる意味を見失います。特に、組織のNo.2として、リーダーの意思決定を最前線で実行する立場にある人間にとって、この価値観のズレは、日々の業務における深刻な精神的苦痛となるのです。
優秀なNo.2の離反を防ぐための3つの処方箋
では、経営者は、自らの「光秀」を生み出さないために、何をすべきなのでしょうか。
1. 「リスペクト」を行動で示す
感謝や称賛は、言葉にして初めて伝わります。「言わなくても分かっているだろう」は、リーダーの傲慢です。成果を出した時はもちろん、日々の地道な努力や、見えにくい貢献に対しても、具体的に、そしてタイムリーに感謝を伝えましょう。ネガティブなフィードバックが必要な時も、必ず1対1のクローズドな場を設定し、人格ではなく、あくまで「行動」や「事実」に対して、改善を促す対話を行う。この基本的な作法が、相手へのリスペクトを示し、信頼関係の土台を守ります。
2. 「未来」を共に描く
新しいミッションや、困難な役割を与える際には、その背景にある戦略や、本人への期待を丁寧に説明することが不可欠です。一方的な「命令」ではなく、「この会社の未来のために、あなたの力が必要だ」「この経験は、あなたのキャリアにとって、こういう意味がある」というように、組織の未来と個人の未来をすり合わせる対話を行いましょう。人は、その仕事の「意味」を理解して初めて、当事者として本気になれるのです。
3. 定期的に「心の声」を聴く
「最近、会議での発言が減った」「以前より、どこか表情が硬い」。そうした、日常の些細な変化こそが、離反の危険信号です。多くの経営者は、こうしたサインを見逃し、「まさか」という事態を招きます。1on1ミーティングなどを定期的に行い、業務の進捗だけでなく、本人が感じている課題や、キャリアへの不安、プライベートでの悩みなど、その人の「心の状態」に耳を傾ける仕組みを作りましょう。問題が小さいうちに早期発見し、対処することが、最悪の事態を防ぐ唯一の方法です。
よくある質問
Q: 厳しい態度で接しないと、部下は成長しないのではないでしょうか?
A: 厳しさと、尊厳を傷つけることは全く違います。高い目標を課し、妥協を許さない「仕事への厳しさ」は必要です。しかし、それは、相手の人格を否定したり、公衆の面前で辱めたりする理由にはなりません。リスペクトに基づいた厳しいフィードバックこそが、人を成長させます。
Q: 経営者と幹部の価値観が違うのは、当たり前ではないですか?
A: 細かい価値観が違うのは当然です。しかし、企業の根幹をなすパーパスや、倫理観といった、絶対に譲れない価値観が大きくズレている場合、遅かれ早かれ組織は立ち行かなくなります。採用段階で価値観のマッチングを重視すると共に、経営者は、常に自社のビジョンや価値観を発信し続ける努力が必要です。
Q: 離反のサインに気づいたら、どう対処すれば良いですか?
A: まずは、1対1で、オープンに話を聞く場を設けることが第一です。「何か悩んでいることはないか?」「最近、元気がないように見えるが、何か力になれることはあるか?」と、真摯に問いかけましょう。原因が分かれば、配置転換や、業務内容の見直し、あるいは誤解を解くための対話など、具体的な打ち手を考えることができます。手遅れになる前に、行動を起こすことが重要です。
Q: 光秀の謀反は、結局、彼の個人的な野心が原因ではないのですか?
A: 野心説も有力な一因ですが、組織論的に見れば、たとえ野心があったとしても、組織へのエンゲージメントが高く、正当に評価され、将来に希望が持てる状態であれば、謀反という最悪の選択には至らなかった可能性が高いです。個人の資質だけに原因を求めるのではなく、そうさせた「組織の構造」に目を向けることこそ、現代の我々が学ぶべき教訓です。
筆者について
記事を読んでくださりありがとうございました! 私はスプレッドシートでホームページを作成できるサービス、SpreadSiteを開発・運営しています! 「時間もお金もかけられない、だけど魅力は伝えたい!」という方にぴったりなツールですので、ホームページでお困りの方がいたら、ぜひご検討ください! https://spread-site.com