想定読者

  • 取引先や従業員に、値上げや納期変更といった「難しいお願い」をするのが苦手なスモールビジネスオーナー
  • 話を切り出すタイミングや、最初の言葉選びにいつも悩んでしまい、先延ばしにしてしまう方
  • ただお願いを聞いてもらうだけでなく、相手との信頼関係を維持、向上させたいと考えている経営者

結論:難しいお願いは、「本題」からではなく「相手への配慮」から切り出す

結論から申し上げます。難しいお願いをする際に、最もやってはいけないのは、いきなり「〇〇の件ですが、お願いがあります」と、用件から入ることです。

なぜなら、その一言で相手は瞬時に身構え、心のシャッターを下ろしてしまうからです。

成功する切り出し方の本質は、本題に入る前に、まず「あなたの時間を尊重しています」「あなたとの関係を大切に思っています」という、相手への配慮と敬意を、言葉と態度で示すことです。この記事では、気まずい空気を生み出さず、相手を対話のパートナーに変えるための、戦略的な「切り出し方」の技術を解説していきます。

第1章: なぜ、あなたの“切り出し方”は、相手を身構えさせるのか?

「ちょっと、お話があるのですが…」。この一言が、なぜか相手に緊張感を与え、その後の会話をギクシャクさせてしまう。まずは、その原因となる3つのNGな切り出し方を見ていきましょう。

NGパターン1:前置きが長すぎて、何を言いたいか分からない

相手に気を遣うあまり、天気の話や世間話を延々と続け、なかなか本題に入れない。これは、相手の時間を奪うだけでなく、「早く本題を言ってくれ…」と、かえってイライラさせてしまいます。

丁寧な前置きは必要ですが、それはあくまで本題にスムーズに入るための助走です。目的のない雑談は、相手の不信感を招くだけです。

NGパターン2:深刻すぎる雰囲気で、相手を過度に不安にさせる

「〇〇さん、大変申し上げにくいのですが…」「非常に重要な話がありまして…」。
このような、重々しい雰囲気の切り出し方は、相手に「何か、よほど悪いことが起きたのではないか」と、必要以上の不安と警戒心を与えてしまいます。

もちろん、誠実な態度は重要ですが、過度な演出は不要です。これから始まるのが「対立」ではなく、あくまで前向きな「相談」であることを、雰囲気作りで示す必要があります。

NGパターン-3:メールやチャットで、一方的に用件を送りつける

値上げや納期変更といった、相手にとってデリケートな内容は、テキストだけで一方的に伝えるべきではありません。

文字だけのコミュニケーションは、こちらの表情や声のトーンが伝わらないため、言葉が持つ本来の意味以上に、冷たく、高圧的に受け取られてしまう危険性があります。重要な話ほど、相手の顔が見える状況で、直接声で伝えるのが原則です。

第2章: 相手の心の扉を開く「切り出し方」の3ステップ

では、具体的にどのような手順で、どんな言葉で切り出せばいいのでしょうか。ここでは、相手を味方につけるための、3つのステップを解説します。

ステップ1:「相談」というスタンスを、最初に明確に伝える

まず、これから始まる話が、決定事項の「通告」や、一方的な「要求」ではないことを、最初に明確に伝えます。

  • 魔法の切り出しフレーズ
    • 「〇〇の件で、少しご相談したいことがあるのですが、今5分ほどよろしいでしょうか?」
    • 「〇〇について、ぜひ〇〇様のお知恵をお借りしたく、お時間をいただきました。」

相談という言葉には、相手を対等なパートナーとして尊敬し、その意見を求めている、という敬意が込められています。この一言で、相手は「上から目線のお願い」ではなく、「一緒に考えるべき課題」として、話を聞く態勢に入ってくれます。

ステップ2:相手の「時間」と「状況」への配慮を示す

次に、「あなたの貴重な時間を奪うこと」への配慮と、「相手の状況を理解している」という共感の姿勢を示します。

  • 配慮を示すフレーズ
    • 「お忙しいところ、大変恐縮です。」
    • 「もし今、お時間がなければ、改めてご都合の良い時にお伺いします。」
    • 「まずは、5分程度で要点だけお伝えさせてください。」

特に、話にかかる時間の目安を最初に伝えることは、非常に重要です。終わりが見えない話を聞かされるのは、誰にとっても苦痛です。最初に「5分」と伝えることで、相手は安心して話に集中することができます。

ステップ3:まず「ポジティブな共有」から入る

いきなり難しい本題に入る前に、まず相手との関係におけるポジティブな事実感謝を伝えることで、会話の土台を築きます。

  • ポジティブな共有のフレーズ
    • 取引先へ: 「先日の〇〇の件では、大変お世話になりました。おかげさまで、お客様からも大変好評です。」
    • 従業員へ: 「いつも〇〇の業務で、チームを支えてくれて本当にありがとう。君の仕事ぶりには、いつも助けられているよ。」

この一言があるだけで、その後の難しい話は、「あなたとの良い関係を、これからも続けたいからこそ、する話です」という、前向きなニュアンスを帯びるようになります。

第3章: ケース別・スマートな「切り出し方」実践フレーズ集

ここでは、スモールビジネスでよくある、言いづらいお願いの場面での、具体的な切り出し方のフレーズを紹介します。

ケース1:取引先に「値上げ」をお願いする場合

「〇〇様、いつも大変お世話になっております。(感謝) お忙しいところ恐縮ですが、今後の取引について、少しご相談させていただきたく、5分ほどお時間をいただけますでしょうか?(相談スタンス+時間配慮) 実は、〇〇の件で…」

ケース2:従業員に「厳しいフィードバック」をする場合

「〇〇さん、少しだけいいかな?いつも本当に一生懸命やってくれて、感謝しているよ。(感謝) その上で、〇〇さんがもっと成長するために、一つ相談したいことがあるんだ。(相談スタンス) 昨日の〇〇の件なんだけど…」

ケース3:外注パートナーに「急な仕様変更」を依頼する場合

「〇〇さん、プロジェクトの件、順調に進めていただきありがとうございます。(感謝) 大変申し上げにくいのですが、クライアントから変更依頼があり、今後の進め方について至急ご相談させてください。お電話で10分ほど、いかがでしょうか?(相談スタンス+時間配慮)

第4章: なぜ、「切り出し方」がビジネスの成否を分けるのか

上手な切り出し方は、単なるビジネスマナーではありません。それは、あなたのビジネスの未来を守るための、極めて重要な戦略です。

「交渉の主導権」を、最初に握る

切り出し方に失敗し、相手を感情的にさせてしまうと、その後の交渉の主導権は、完全に相手に握られてしまいます。あなたは、相手の怒りを鎮めるために、本来なら必要のない譲歩をさせられることになるでしょう。

逆に、敬意と配慮に満ちた切り出し方で、相手を冷静な対話のテーブルにつかせることができれば、その後の交渉は、論理的かつ建設的に進めることができます。主導権を握るとは、相手を支配することではありません。対話のルールと、場の空気をデザインすることなのです。

「心理的安全性」が、良い関係を築く

心理的安全性とは、組織の中で、誰もが安心して自分の意見や考えを表明できる状態のことです。これは、お客様やパートナーとの関係においても、全く同じことが言えます。

「この人には、難しいことでも正直に相談できる」
「この人は、こちらの事情もちゃんと聞いてくれる」

上手な切り出し方は、相手にこのような安心感を与え、心理的安全性の高い関係を築きます。このような関係性があれば、今回の難しいお願いがうまくいったかどうかに関わらず、長期的な取引は続いていくでしょう。

よくある質問

Q: 難しい話は、メールで先に伝えておいた方がいいですか?

A: ケースバイケースですが、基本的にはお勧めしません。メールで要件だけを伝えると、相手が最悪のシナリオを想像してしまい、会う前から警戒心を高めてしまうからです。まずは「〇〇の件でご相談があります」とだけ伝え、アポイントを取ることに集中し、詳細は直接会って、あるいは電話で、あなたの声と言葉で伝えるべきです。

Q: 相手の機嫌が悪そうな時は、切り出すのを避けるべきですか?

A: はい、可能であれば避けるべきです。相手が明らかに別の問題でイライラしている時に、難しい話を切り出しても、良い結果にはなりません。「何かお忙しそうなので、また改めてお伺いしますね」と、一旦引くのが賢明な判断です。相手の状況を察するのも、重要なコミュニケーションスキルです。

Q: こちらがどんなに丁寧に切り出しても、高圧的な態度を取る相手にはどうすればいいですか?

A: 世の中には、残念ながら、何を言っても聞く耳を持たない人もいます。その場合は、感情的に対抗せず、「本日はお時間をいただき、ありがとうございました。一度持ち帰って、再度検討いたします」と、冷静に、そして毅然とした態度でその場を収めましょう。そして、その相手とは、今後の取引自体を見直すことを検討すべきかもしれません。

Q: 良い切り出し方をしても、本題で結局「NO」と言われたら、意味がないのでは?

A: そんなことはありません。たとえ今回のお願いが通らなかったとしても、あなたが誠実なプロセスを踏んだことは、相手の記憶に残ります。「今回は無理だったけど、あの社長は筋を通す、信頼できる人だ」と感じてもらえれば、それは未来の取引に繋がる、無形の資産となります。

Q: 従業員へのフィードバックで、「相談」というスタンスだと、上司として軽く見られませんか?

A: 逆です。「俺の言うことを聞け」という高圧的な指示よりも、「君の成長のために、どうすればいいか一緒に考えたい」という相談のスタンスの方が、部下は心を開き、主体的に改善に取り組むようになります。尊敬されるリーダーとは、権威を振りかざす人ではなく、相手の成長に寄り添える人です。

筆者について

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