想定読者

  • 価格設定や値付けに、もっと戦略的な根拠を持ちたいと考えている経営者
  • 「松竹梅」の価格設定がなぜ有効なのか、その心理的な背景を知りたい方
  • 顧客の「お得感」を演出し、より高い価値を感じてもらいたいマーケティング担当者

結論:顧客にとって、1万円の価値は常に同じではない

同じ「1万円の値引き」でも、2万円の商品が1万円になるのと、20万円の商品が19万円になるのとでは、顧客が感じる「お得感」は全く違います。これが感応度逓減性です。人は、利得や損失の絶対額が大きくなるにつれて、その変化に対する感度(心の動き)が鈍くなっていくのです。この、人間の「金銭感覚のゆらぎ」を理解すれば、価格の見せ方や選択肢の提示方法を工夫するだけで、顧客をより望ましい選択へと、巧みに導くことが可能になります。

感応度逓減性とは?1万円の価値が変わる不思議

喜びも悲しみも、だんだん慣れていく

感応度逓減性は、私たちの日常感覚に深く根ざしています。以下の2つの状況を想像してみてください。

  • 喜びの場面: 道で1000円拾った時の喜びと、100万円の宝くじが当たった後に、さらに1000円拾った時の喜び。後者では、同じ1000円の価値が、なぜか小さく感じられます。
  • 悲しみの場面: 財布から1000円失くした時の苦痛と、100万円の投資で損をした上に、さらに1000円失くした時の苦痛。後者では、同じ1000円の損失の痛みが、少し和らいで見えます。

このように、基準となる金額(参照点)が小さいほど、そこからの変化に私たちは敏感に反応します。そして、基準となる金額が大きくなるほど、同じ量の変化に対しても、私たちの心は鈍感になっていくのです。これが感応度逓減性の本質です。

なぜ私たちの「金銭感覚」はアテにならないのか

脳は「絶対額」ではなく「変化率」で見ている

この現象は、行動経済学の「プロスペクト理論」における「価値関数」で説明されます。この理論によると、人間の価値判断は、富の絶対量ではなく、ある参照点からの「変化」によって決まります。そして、その価値の感じ方は、きれいな直線ではなく、中心(参照点)付近が最も急で、離れるにつれて緩やかになる「S字カーブ」を描きます。

これは、私たちの五感が、絶対的な刺激量ではなく、刺激の「変化率」に反応するのと似ています。例えば、静まり返った部屋では小さな物音でもはっきり聞こえますが、騒がしい工事現場では同じ音はかき消されてしまいます。お金に対する感覚も、これと全く同じ原理なのです。

感応度逓減性を価格戦略に応用する3つのテクニック

1. 「松竹梅の法則」で真ん中を選ばせる

飲食店やSaaSの料金プランでよく見る「松(1万5千円)」「竹(8千円)」「梅(5千円)」という価格設定。なぜ多くの人が、真ん中の「竹」を選ぶのでしょうか。ここに感応度逓減性が働いています。

顧客は「梅」プランを基準に考えます。すると、「梅(5千円)」と「竹(8千円)」の価格差3000円は、非常に大きな価値の差に感じられます。しかし、「竹(8千円)」から「松(1万5千円)」を見上げると、価格差は7000円もありますが、基準額が高くなっているため、その差が実際の金額ほど大きく感じられません。結果として、「梅は物足りないし、松は高すぎる。竹が一番コストパフォーマンスが良さそうだ」という心理が働き、真ん中のプランに落ち着くのです。

2. 高価な商品を「ついで買い」させる

20万円の高級スーツを購入した直後、店員に「ご一緒に、こちらの2万円のネクタイはいかがですか?」と勧められると、つい「それも貰おうか」となってしまう。これも感応度逓減性の仕業です。20万円という大きな出費をした後では、脳の金銭感覚は麻痺しています。2万円という金額が、普段よりも遥かに「端金」に感じられてしまうのです。

3. オプションやアップグレードを魅力的に見せる

基本料金が10万円のサービスに対して、「月々プラス5000円で、プレミアムサポートが受けられます」と提示されるとどうでしょう。10万円という高い参照点があるため、5000円の追加費用が心理的にとても安く感じられ、「それくらいなら」と受け入れられやすくなります。最初に大きな価格を提示することで、その後の小さな価格への抵抗感をなくすテクニックです。

顧客満足度を高める「小さな喜び」の演出し方

感応度逓減性は、顧客満足度の演出にも応用できます。それは「喜びは分割し、悲しみは統合せよ」という原則です。

  • 喜びは分割せよ: 1万円の値引きを一度に行うより、「5000円の値引き+次回使える3000円クーポン+送料無料(2000円相当)」のように喜びを複数回に分けた方が、顧客は何度も「得した気分」になり、トータルの満足度は高まります。
  • 悲しみは統合せよ: 逆に、支払いや損失といった「悲しみ」は、一度にまとめるべきです。基本料金、追加料金、手数料…と何度も請求されると、顧客はその都度、新鮮な苦痛を感じます。最初から全て込みの価格で提示する方が、顧客の心理的負担は軽くて済むのです。

よくある質問

Q: 感応度逓減性は、価格以外の分野でも応用できますか?

A: はい。例えば、プロジェクトの進捗報告で応用できます。10個のタスクが完了した場合、「10個完了しました」と一度に報告するより、「まず3個、次に5個…」と分割して報告した方が、上司やクライアントは何度も「進んでいる感」を得られ、満足度が高まる可能性があります。

Q: いつも一番安い「梅」プランしか選ばれないのですが、どうすればいいですか?

A: 「梅」プランの機能を意図的に制限し、「竹」プランとの価値の差を大きく見せる工夫が必要です。また、「松」プランを、現実離れした超高級プランに設定することで、「竹」プランがより手頃で魅力的に見える「おとり効果」を狙うのも一つの手です。

Q: この理論を悪用すると、顧客を騙すことになりませんか?

A: 重要なのは、顧客に提供する価値が価格に見合っているか、という大前提です。価値のないものを、見せ方だけで高く売ろうとするのは、ただの欺瞞です。しかし、本当に価値のあるものを、顧客が最も価値を感じやすい形で提示するのは、むしろ誠実なマーケティング活動と言えるでしょう。

Q: 感応度逓減性とアンカリング効果の違いは何ですか?

A: アンカリング効果は、最初に提示された情報(アンカー)が、その後の判断に影響を与える現象です(例:最初に高い価格を見せられると、その後の価格が安く感じる)。感応度逓減性は、そのアンカー(参照点)から離れるほど、変化への感度が鈍るという「感じ方の変化の度合い」を説明するものです。両者は密接に関連しており、多くの場合、同時に作用しています。

筆者について

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