価格と納期と作業内容を一緒に提案する
見積もりへの値引き依頼に、作業内容を変えずに応じると、受注で得られる金額が減ります。価格を下げるなら顧客が原稿を準備する案、価格を上げるなら納品を早める案など、 自社が受け入れられる複数の組合せを同時に提示 すると、価格以外も含めて商談を進められます。
このとき、どの案を選ばれても受注できるよう、自社にとっての価値をそろえます。この考え方は、複数の同等な提案を同時に示すMESOという交渉手法に対応します。同等とは、提案する側にとっての価値が同じという意味です。顧客が各案を同じように評価する必要はありません。(Multiple equivalent simultaneous offers (MESOs) reduce the negotiator dilemma: How a choice of first offers increases economic and relational outcomes)
本稿では、制作業務の架空例を使い、各案の売上と費用を計算します。価格の異なる案で受注後に得られる金額をそろえ、案の一部を組み替えた後も採算が保たれるかを考えます。
一案と三案を比べた実験では合意後の得点に差があった
Leonardelliらの実験1では、大学生76人が38組で契約交渉を行い、一つの提案か、提案側にとって同等な三つの提案を受け取る組に無作為に割り当てられました。合意した37組では、三案を示した方が提案側の得点と双方の合計得点が高くなりました。得点は実験内の評価表による値で、実際の営業利益ではありません。双方の合計が増えても、受け手自身の得点増加を意味しません。(Multiple equivalent simultaneous offers (MESOs) reduce the negotiator dilemma: How a choice of first offers increases economic and relational outcomes)
以下の価格表と商談の進め方は、この実験の再現ではなく、本稿で考えた実務上の例です。
価格が異なっても受注で得られる金額をそろえる
6ページのホームページ制作を受注する事業を仮定します。次の金額はすべて税抜きの円で、実際の相場や実測値ではありません。顧客が必要な素材を提出し、制作を始めた日から納品の日数を数えます。
| 提案する項目 | A案 | B案 | C案 |
|---|
| 受注価格 | 300,000円 | 270,000円 | 330,000円 |
| 納品 | 着手から4週間後 | 着手から6週間後 | 着手から3週間後 |
| 原稿の準備 | 顧客の原稿を制作側が校正 | 顧客が校正済み原稿を提出 | 顧客の原稿を制作側が校正 |
| デザイン修正 | 2回 | 1回 | 2回 |
| 受注に伴う追加費用の見積額 | 180,000円 | 150,000円 | 210,000円 |
| 価格から追加費用を引いた金額 | 120,000円 | 120,000円 | 120,000円 |
追加費用には、この受注のために発注する制作・校正の外注費などを含めます。C案では納品を早めるための外注費も含む仮定です。家賃や既存社員の月給など、どの案を受けても同額を支払う費用は表の追加費用に含めていません。12万円はそれらの費用を支払う前の金額です。
Aは300,000−180,000=120,000円、Bは270,000−150,000=120,000円、Cは330,000−210,000=120,000円となります。この例では、支払いの時期や回収のリスクは同じで、各案を受注しても他の案件を断る必要はないと仮定し、12万円を自社の評価基準にしています。
Bの値引き3万円は、校正と修正作業の削減による費用3万円の減少と対応しています。Cの追加料金3万円は、納品を早めるための追加費用3万円と対応します。 価格を同額にするのではなく、作業や日程も含めた各案の採算をそろえる 例です。
追加費用が同じでも、Cを引き受けることで既存案件を失うなら、自社にとって同等とは言えません。失う案件で得られた金額や、必要な担当者の作業時間も比較し、実行できる案だけを提示します。
同じ表で提示し選んだ理由を尋ねる
三案は同じ時点で、価格、納品日程、原稿準備、修正回数を並べて提示します。順に値下げ案を出すと、顧客は低価格の案でも最初の作業内容が含まれると受け取る可能性があるため、各案で提供する内容を明記します。社内の費用見積額は、採算の検討に使う数字です。顧客へ示す比較表には、価格と提供内容を記載します。
Bを選んだ理由が予算の上限なら、顧客による原稿の校正とデザイン修正1回で制作を完了できるかを顧客と確かめます。Cを選んだ理由がイベントの日程なら、原稿や写真の提出日も、その納品に間に合う日程で合意する必要があります。
一つの案を選んだという事実だけでは、顧客が価格、納品、作業内容のどれを重視したかは特定できません。選んだ理由と、受け入れられない項目を尋ねることで、次に変更する項目が具体化します。すべて断られたら、予算上限や必要な納品日、必須の作業を聞き、その範囲で提供できるかを再検討します。
別の案の一部を加えると採算も変わる
顧客がBの27万円で、Cの3週間後の納品とAの作業内容を求めたとします。その組合せに必要な追加費用がCと同じ21万円なら、価格から費用を引いた金額は27−21=6万円です。元の三案の12万円から半減します。
したがって、元の三案が同じ採算でも、 各案の有利な項目を組み合わせた新しい提案は、費用を再計算 します。この仮定で12万円を確保するには、価格は21+12=33万円となります。価格を27万円にするなら、追加費用が15万円になる作業内容や日程を改めて検討する必要があります。
顧客の要望が変わると、原稿準備、修正回数、外注の手配も変わります。合意した価格だけでなく、提供する作業と納品日程も見積書へ反映し、その組合せで実施できるかを確かめてください。
どの案でも受注できる提案を商談に持ち込む
複数案の提案では、価格の高い案と安い案を並べるだけでなく、どの案を選ばれても自社が実行でき、必要な金額を得られるようにします。本稿の例では、価格と費用が異なる三案で差額を12万円にそろえ、案の組替えで6万円へ減ることを計算しました。
次の商談では、値引き額だけを変える前に、顧客が準備する資料、修正回数、納品日程を含めて案を作成してください。各案を受けた際の追加費用と作業時間を見積もれば、受注できる内容を提示できます。
ホームページで標準的なサービスを案内するときも、料金と併せて、顧客が準備するもの、含まれる作業、納品日数の起点を掲載します。商談前に提供内容を伝えるための案内として使えます。
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