想定読者
- 部下や後輩の改善点を指摘するのが苦手、あるいはつい感情的に伝えてしまう管理職・リーダー
- 同僚やチームメンバーに、角を立てずにフィードバックしたいと考えている方
- 厳しいことを言った後の、気まずい雰囲気が苦手なすべての人
結論:フィードバックは「愛情のラッピング」で包んで渡せ
部下の成長を願うからこそ、ネガティブなフィードバック(改善点の指摘)はリーダーの重要な責務です。しかし、その伝え方を一歩間違えれば、相手の心を閉ざし、モチベーションを奪い、信頼関係さえも壊しかねません。
そこで絶大な効果を発揮するのが、ポジティブな言葉で改善点を挟み込むサンドイッチ話法です。これは、相手の自己肯定感を守り、指摘を「攻撃」ではなく「期待」として受け取ってもらうための、賢明かつ効果的なコミュニケーション技術なのです。
第1章:なぜ「正しい指摘」だけでは、人は動かないのか - 脳の防衛本能
多くのリーダーが陥りがちなのが、改善点や問題点だけを単刀直入に伝えてしまうことです。
「〇〇君、この前の資料、誤字が3つもあったぞ。提出前にもっとよく確認するように」
指摘している内容は、100%正しい。しかし、このように伝えられた相手の心の中では何が起きるでしょうか。人間の脳は、否定的な情報を受け取ると、まず「扁桃体」という部分が反応し、防衛本能が働きます。相手は瞬時に「自分は攻撃された」と判断し、心を閉ざし、反発を覚えたり、言い訳を考えたりし始めます。結果として、肝心の「次から気をつけよう」という前向きな行動変容には繋がりにくくなるのです。モチベーションの低下や、リーダーへの不信感、ひいてはチーム全体の心理的安全性の低下を招くリスクさえあります。
第2章:心理的安全性を作る「サンドイッチ話法」の構造と効果
サンドイッチ話法は、その名の通り、伝えたい本題をパンで挟むように構成します。この構造が、相手に「自分は認められている」という安心感を与え、本題である「具材」を素直に味わってもらうための土台(心理的安全性)を作るのです。
- パン(1枚目):ポジティブな言葉(承認・感謝・評価) 相手の存在や貢献を認め、受け入れられていると感じさせる部分です。これにより、相手は「自分は攻撃されているのではない」と安心し、耳を傾ける準備ができます。
- 具材:改善してほしい点(本題) 具体的に改善してほしい行動や事実を伝えます。感情的にならず、客観的な事実に基づいて伝えることが重要です。
- パン(2枚目):ポジティブな言葉(期待・激励・未来志向の言葉) 相手の成長への期待や、未来へのポジティブな展望を伝えます。これにより、指摘が「過去の失敗の糾弾」ではなく、「未来への成長の機会」として受け取られます。
具体例で見るサンドイッチ話法
先ほどの例を、サンドイッチ話法で伝えてみましょう
(パン1枚目:評価) 「〇〇君、先日の資料、非常にタイトなスケジュールの中、作成ありがとう。特に、△△の分析は独自の視点で、とても参考になったよ。君の迅速な対応にはいつも助けられている。」
(具材:改善点) 「その上で、一点だけ。資料の提出前に、誤字脱字がないか、声に出して一度読み上げる習慣をつけると、ケアレスミスが完全になくなって、君の資料の説得力がさらに盤石になると思うんだ。今回は3箇所ほど見受けられたから、次回から意識してみてほしい。」
(パン2枚目:期待) 「君の分析力と資料作成能力には、チームのみんなが本当に期待しているからね。この小さな改善で、君の仕事の質はさらに高まるはずだ。これからもその力を貸してほしい。応援しているよ。」
いかがでしょうか。伝えたい核心は同じでも、相手の受け取り方は全く違うものになるはずです。相手は「自分は攻撃されているのではなく、期待されている」と感じ、前向きに改善点を受け入れやすくなります。
第3章:「サンドイッチ話法」を成功させる3つのコツと応用
この話法をさらに効果的にするためには、いくつかのコツと、応用的な視点があります。
コツ1:1枚目のパンは「具体的に」褒める
「いつもありがとう」のような漠然とした感謝では、「これから何か言われるな」と相手に勘繰られてしまいます。「先日のA社への提案、あの場で即座に代替案を出した判断力は素晴らしかった」のように、具体的な事実を挙げて褒めることで、言葉の信頼性が格段に増します。日頃から相手の良い点を見つけ、メモしておく習慣をつけると良いでしょう。
コツ2:具材は「You」ではなく「I」で語る
「君はダブルチェックをするべきだ(Youメッセージ)」という命令口調は、相手に反発心を生みます。「君がダブルチェックをしてくれると、私は安心してクライアントに提出できる(Iメッセージ)」のように、自分の気持ちや状況を主語にして伝えることで、相手は「お願い」として受け取りやすくなります。相手の行動が自分にどう影響するかを伝えることで、相手は行動の重要性を理解しやすくなります。
コツ3:2枚目のパンは「未来」を向いている
最後のポジティブな言葉は、過去の功績を再度褒めるのではなく、「これからもっと良くなる」という未来への期待を伝えましょう。「この点が改善されれば、次のリーダー候補として、さらに周囲からの信頼が厚くなるはずだ」のように、相手の成長した姿をイメージさせることが、前向きな行動を促す原動力となります。相手の可能性を信じている、というメッセージが重要です。
応用:フィードバックのタイミングと場所
- タイミング: 問題が発生してから時間が経ちすぎると、相手は「なぜ今頃?」と感じ、改善意欲が薄れます。できるだけ早く、しかし冷静に話せるタイミングを選びましょう。
- 場所: 他の人がいない場所、例えば個室や会議室など、プライバシーが守られる場所を選びましょう。人前での指摘は、相手の自尊心を傷つけ、反発を招きます。
第4章:サンドイッチ話法が機能しない時と、その対策
サンドイッチ話法は万能ではありません。状況によっては、別の伝え方が必要な場合もあります。
1. 緊急性が高い、あるいは重大な規律違反の場合
例えば、情報漏洩やハラスメントなど、即座に是正が必要な重大な問題に対しては、遠回しなサンドイッチ話法は不適切です。この場合は、事実を明確に伝え、毅然とした態度で臨む必要があります。
2. 褒める点が全く見つからない場合
どんな相手でも、必ず評価できる点はあるはずです。もし本当に見つからない場合は、それはあなたの観察不足か、相手への先入観があるのかもしれません。日頃から相手の良い点を見つける努力をしましょう。それでも見つからない場合は、サンドイッチ話法ではなく、事実に基づいた客観的な指摘に留めるべきです。
3. 「テクニックを使っている」と見透かされる場合
褒め言葉が具体的でなかったり、本心から出ていなかったりすると、相手は「本題のための前置きだ」と見透かしてしまいます。日頃から相手の良い点を見つけ、心から褒める習慣がなければ、サンドイッチ話法は単なる「わざとらしいテクニック」になってしまいます。誠実さが最も重要です。
4. 何度指摘しても改善しない場合
この場合は、サンドイッチ話法だけでは不十分です。指摘内容が相手に理解されていないのか、理解はしているが行動できないのか、行動するモチベーションがないのか、原因を深く探る必要があります。コーチングや、より具体的な行動計画の策定、あるいは業務内容の見直しなど、別の介入が必要になります。
よくある質問
Q: 褒めることが何も思いつかない相手にはどうすればいいですか?
A: どんな相手でも、必ず評価できる点はあるはずです。「毎日時間通りに出社している」「挨拶の声が大きい」「頼んだ仕事は必ず期限内に提出する」など、当たり前に思えることでも、それを事実として認めて伝えることが重要です。相手を観察する良い機会にもなります。
Q: わざとらしい、テクニックを使っている、と相手に思われないでしょうか?
A: そう思われるとしたら、それは褒め言葉が具体的でなかったり、本心から出ていなかったりする場合です。日頃から相手の良い点を見つけ、伝える習慣をつけておけば、いざという時のサンドイッチ話法も、自然で誠実なコミュニケーションとして受け取られます。最も大切なのは、相手の成長を願う「本心」です。
Q: 何度指摘しても改善しない相手にも、サンドイッチ話法は有効ですか?
A: 有効ですが、具材(本題)の伝え方を少し変える必要があるかもしれません。「〇〇という行動が、チーム全体に△△という影響を与えている。この状況をどう思う?」と、本人に問題の影響を考えさせるような、少し踏み込んだ伝え方も必要になります。また、指摘内容が相手に理解されているか、行動できない原因は何かを深く探る対話も必要です。
Q: フィードバックの最適なタイミングはいつですか?
A: 問題が発生してから時間が経ちすぎると、相手は「なぜ今頃?」と感じ、改善意欲が薄れます。できるだけ早く、しかし冷静に話せるタイミングを選びましょう。相手が感情的になっている時や、非常に疲れている時は避けるべきです。
Q: サンドイッチ話法と似たような他の話法はありますか?
A: 「SBIフィードバック」という手法も有名です。これは「Situation(状況)」「Behavior(行動)」「Impact(影響)」の順で伝えるもので、より客観的な事実に基づいたフィードバックに適しています。サンドイッチ話法と組み合わせて使うことも可能です。
筆者について
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