想定読者
- 評価制度や報酬制度が、どうもうまく機能していないと感じている経営者や人事担当者
- チームの目標と個人の目標の「ズレ」に悩んでいるマネージャー
- 社員のモチベーションを健全な形で引き出し、組織を本気で成長させたいと考えているリーダー
結論:ニンジンをぶら下げたつもりが、崖への道しるべになっていた
社員のやる気を引き出すために設定したインセンティブ制度。
しかし、それが原因で、社員が顧客のためにならない行動をしたり、不正の抜け道を探したり、組織全体の目標とは違う方向に走り出したり…。心当たりはありませんか?
それがインセンティブの非整合性です。
これは、設定したインセンティブ(報酬)と、組織が本当に達成したい目的がズレてしまうことで発生する、極めて根深い問題です。この記事では、なぜこの悲劇が起こるのか、そして、社員も会社も幸せになる「賢いインセンティブ」をどう設計すれば良いのかを解説します。
インセンティブの非整合性とは?コブラだらけになった町の寓話
報酬目当てでコブラを養殖?
この問題を説明する上で、非常に有名な「コブラ効果」という寓話があります。
昔、イギリス植民地時代のインドでのこと。政府は、町にいる毒蛇のコブラを減らすために、「コブラの死骸を持ってきたら報奨金を支払う」という制度を導入しました。最初は順調にコブラが持ち込まれ、作戦は成功に見えました。しかし、しばらくすると、報奨金目当てに「コブラを養殖する」人々が現れたのです。そして、政府がこの制度を廃止すると、用済みになった大量のコブラが野に放たれ、結果的にコブラは以前よりも増えてしまいました。
良かれと思って設定したインセンティブが、本来の目的(コブラを減らす)とは全く違う、望ましくない行動(コブラを養殖する)を引き起こしてしまったのです。これが、インセンティブの非整合性の本質です。
あなたの会社にも潜む「残念なインセンティブ」
この「コブラ効果」は、現代のビジネスシーンでも形を変えて頻繁に発生しています。
- 営業部門の例: インセンティブを「契約件数」だけに設定した結果、営業マンが利益率の低い短期的な契約や、後のサポートコストがかさむ質の低い契約を量産してしまう。本来の目的である「会社の持続的な利益向上」とはズレています。
- 開発部門の例: 「バグの修正数」をエンジニアの評価指標にした結果、わざと質の低いコードを書いてバグを埋め込み、それを自分で修正して評価を稼ぐ、といった本末転倒な事態が起こりうる。
- コールセンターの例: 「一件あたりの対応時間」の短縮をインセンティブにした結果、オペレーターが顧客の問題を解決する前に無理やり電話を切り、顧客満足度が地に落ちてしまう。
これらは全て、測定しやすい短期的な指標に飛びついた結果、本当に大切な目的を見失ってしまった「残念なインセンティブ」の典型例です。
なぜインセンティブの非整合性は起こるのか
「測りやすいもの」に頼ってしまう人間の弱さ
では、なぜこんなことが起こるのでしょうか。最大の理由は、私たちが測定の容易さに依存してしまうからです。本来測るべき「顧客満足度」や「長期的なブランド価値」「会社の利益への真の貢献」といった指標は、定義が曖昧で、測定が非常に難しい。そのため、つい「契約件数」や「対応時間」といった、誰でも簡単に測れる数字に頼ってしまうのです。
そして、人間はインセンティブを与えられると、そのルールの中で最も効率的に報酬を得るための「抜け道」や「ハック」を探し始める、という性質を持っています。経営者が思っている以上に、社員はインセンティブのルールを熟知し、最適化しようとするのです。その結果、目的と手段が入れ替わってしまいます。
「賢いインセンティブ」を設計する3つの原則
では、どうすればこの罠を避けられるのでしょうか。重要なのは以下の3つの原則です。
原則1: 最終目標(KGI)と明確に連動させる
まず、評価指標(KPI)が、本当に達成したい会社の最終目標(KGI: 例:顧客生涯価値、営業利益率)に繋がっているかを徹底的に検証します。「このKPIを追いかけることが、本当にKGIの達成に貢献するのか?」と何度も自問しましょう。多くの場合、単一のKPIでは不十分です。「契約件数」と「契約後の顧客継続率」のように、複数の指標を組み合わせることで、短期的な利益追求への偏りを防ぐことができます。
原則2: 「数字にならない貢献」も評価に加える
数値目標だけで人を評価しようとすると、必ず歪みが生まれます。そこで、「チームメンバーへの協力姿勢」や「後輩の育成への貢献」「顧客からの感謝の声」といった、数値化しにくい定性的な貢献も評価に加えることが重要です。これにより、数字ハックの弊害を減らし、より健全なチームワークを育むことができます。
原則3: 定期的に見直し、副作用をチェックする
完璧なインセンティブ制度など存在しません。一度決めた制度を放置せず、「この制度によって、何か意図しない行動は起きていないか?」と、常に副作用をチェックする姿勢が不可欠です。定期的に現場の社員からヒアリングを行い、実態に合わせて制度を柔軟にアップデートしていくことが、インセンティブの非整合性を防ぐ最善の策となります。
よくある質問
Q: インセンティブはない方が良いのでしょうか?
A: そうとは限りません。適切に設計されたインセンティブは、強力なモチベーションツールになります。問題なのは「悪いインセンティブ」であり、インセンティブそのものではありません。「何もしない」のではなく、「どうすれば賢いインセンティブを設計できるか」を考えることが重要です。
Q: 成果主義(フルコミッション)はダメなのでしょうか?
A: フルコミッションが有効に機能する場合もありますが、インセンティブの非整合性を引き起こしやすい諸刃の剣です。特に、チームワークや長期的な顧客関係が重要なビジネスでは、個人の成果のみに偏った制度は、組織全体に悪影響を及ぼすリスクが高いと言えます。
Q: 小さな会社でも気をつけるべきですか?
A: むしろ、社長が社員一人ひとりの動きを把握しきれない、成長段階の小さな会社こそ気をつけるべきです。創業当初の「みんなで頑張る」という文化が、不適切なインセンティブ一つで、いとも簡単に崩れてしまうことがあります。
Q: 良いインセンティブ制度の事例はありますか?
A: 例えば、Googleでは個人の目標設定(OKR)において、野心的な目標を立てること自体を奨励し、達成率が60〜70%でも成功と見なす文化があります。これは、達成しやすい簡単な目標ばかり立てるようになるのを防ぎ、挑戦を促すための賢い仕組みと言えるでしょう。
筆者について
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