想定読者
- 自社の価格設定や商品・サービスのラインナップに悩んでいる経営者
- 顧客の選択をより効果的に誘導したいマーケティング担当者
- 意思決定の裏にある人間の面白い心理のクセを学びたい方
結論:「極端」は比較のための「アンカー」。本命は「真ん中」に置け
レストランのランチメニューに「松:2,500円」「竹:1,500円」「梅:1,000円」という3つの選択肢があった場合、多くの人が真ん中の「竹」を選ぶという経験則があります。
これは決して偶然ではありません。そこには人間がよく分からない状況で意思決定をする際に、極端な選択肢(高すぎる・安すぎる)を避け、最も安全で無難に思える「真ん中」の選択肢に強く惹きつけられるという心理的な傾向が働いています。
この現象こそが「ゴルディロックス効果(の法則)」です。
この法則を理解すると価格設定の見方が180度変わります。「松」や「梅」といった極端な選択肢はそれ自体が選ばれるためではなく、顧客の頭の中に「価格の物差し」を作り出し、あなたが本当に売りたい「竹」という選択肢を**「ちょうどいい(Just Right)」**と思わせるための戦略的な「おとり」や「錨(アンカー)」として機能しているのです。
少女ゴルディロックスと3びきのくま
この法則の名前はイギリスの有名な童話『3びきのくま』に由来します。
森の中でくまの留守宅に迷い込んだ少女ゴルディロックス。彼女はテーブルの上にあった3つのスープを見つけます。一つ目を飲むと「熱すぎる!」二つ目を飲むと「冷たすぎる!」そして三つ目のスープを飲むと「ちょうどいいわ!」
次に彼女は3つの椅子を見つけます。一つ目の椅子は「大きすぎる」二つ目の椅子は「小さすぎる」そして三つ目の椅子は「ちょうどいいわ!」
ベッドも同様でした。一つ目は「硬すぎる」、二つ目は「柔らかすぎる」、そして三つ目のベッドが「ちょうどいい」
この物語は私たちが無意識のうちに常に極端を避け、「ちょうどいい」中間点を探し求めているという人間の本質的な性質を見事に描き出しているのです。
なぜ私たちは「極端」を避けてしまうのか
この心理的な傾向はいくつかの要因によって説明できます。
- 損失回避と後悔の最小化 私たちの脳は「得をすること」よりも「損をしないこと」をはるかに重視するようにできています(損失回避性)。極端な選択は常に「失敗」のリスクを伴います。一番安いものを選べば「安物買いの銭失い」になるかもしれません。一番高いものを選べば「無駄遣いだった」と後悔するかもしれません。真ん中の選択肢はそのどちらのリスクも最小化してくれる最も「安全」な選択に感じられるのです。
- 認知的な安易さ(ヒューリスティック) すべての選択肢の価値をゼロから詳細に比較検討するのは非常にエネルギーのいる面倒な作業です。そのため私たちは無意識のうちに「真ん中を選んでおけば、まあ平均的で大きな間違いはないだろう」という思考のショートカット(ヒューリスティック)を使います。
- 相対性による魅力 真ん中の選択肢の魅力は両端の選択肢が存在することによって初めて生まれます。もし「竹:1500円」と「梅:1000円」の2つしかなければ、1500円は高く感じられるかもしれません。しかしそこに「松:2500円」という選択肢が加わることで、1500円が急に「お買い得」で「ちょうどいい」選択肢に見えてくるのです。
「松竹梅」戦略:ゴルディロックス効果のビジネス応用
この効果の最も有名で強力な応用例が価格設定における「松竹梅」の階層作りです。重要なのはそれぞれの選択肢に明確な「役割」を与えることです。
価格設定における3つの選択肢の役割
- 「梅」プラン(おとり役:Decoy) 最も価格の低い選択肢です。これを積極的に売って利益を出すことが目的ではありません。その主な役割は機能やサービスを意図的に制限することで、顧客に「もう少しお金を出せばもっと良いものが手に入る」と感じさせ、「竹」プランの魅力を引き立てる比較対象としての「おとり役」です。
- 「竹」プラン(本命役:Target) あなたが本当に最も多くの顧客に買ってほしいと考えている選択肢です。利益率と価値のバランスが最も良く、会社の収益の柱となるべき商品です。「梅」と「松」に挟まれることで顧客の目には最も合理的で賢明で「ちょうどいい」選択肢として映ります。
- 「松」プラン(固定役:Anchor) 最も価格の高いプレミアムな選択肢です。もちろんこれを買ってくれる価格に糸目をつけない顧客も一定数存在します。しかしその主な役割は顧客の頭の中にある「価格の物差し」の上限をグッと引き上げる「錨(アンカー)」の役目です。2,500円の選択肢が存在することで1,500円という価格への心理的な抵抗が一気に和らぐのです。
よくある質問
Q: 選択肢は常に3つが良いのでしょうか?
A: 3は非常に強力な数字ですが絶対のルールではありません。選択肢が2つだと顧客は「買うか買わないか」の二元論に陥りがちです。一方で4つや5つに増えると今度は「選択のパラドックス」に陥り、情報量が多すぎて逆に何も選べなくなってしまう危険があります。多くの場合「3」という数字が比較検討しやすく、かつ顧客を混乱させない絶妙なバランスなのです。
Q: 「竹」プランを一番売りたいなら「梅」と「松」の価格はどう設定すれば良いですか?
A: 「梅」プランは「竹」プランとの価格差がその機能差以上に「お得」に感じられるように設定します。「あと少し足すだけでこんなに機能が増えるなら竹の方がいいな」と思わせるのが狙いです。「松」プランは「竹」プランが非常にお買い得に見えるくらい十分に高い価格に設定します。ただしあまりに非現実的な価格にするとアンカーとしての効果が薄れるので注意が必要です。
Q: この効果はすべての顧客に当てはまりますか?
A: いいえ、あくまで一般的な「傾向」です。一部には常に最も安いものを選ぶ「価格重視層」や常に最高級品を選ぶ「品質重視層」も存在します。ゴルディロックス効果が最も強く作用するのはその中間にいる大多数の「どの選択が一番損をしないか確信が持てない」と感じている一般の顧客層です。
Q: 選択肢が多すぎると顧客は選べなくなると聞きました。
A: その通りです。それは「選択のパラドックス」と呼ばれる心理現象です。ゴルディロックスの法則は選択肢を無限に増やすことを推奨するものではありません。むしろ戦略的に選択肢を「3つ」に絞り込み、その提示の仕方を工夫することで顧客の意思決定の負担を減らし、あなたが望む方向へそっと後押ししてあげるための洗練された技術なのです。
筆者について
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