想定読者
- 顧客のエンゲージメントや継続率を高めたい経営者
- 学習コンテンツやサービスの離脱率を改善したい教育関係者
- 顧客の行動を促す心理的なトリガーを探しているマーケター
結論:人は「やり残したこと」を忘れられない
あなたはテレビドラマや漫画の最終回で、物語が途中で終わってしまい「続きはWebで!」と表示された時、思わず続きを探してしまった経験はありませんか?
あるいはゲームで、あと一歩でクリアというところで中断せざるを得なくなった時、そのことがずっと頭から離れず早く続きをプレイしたくてうずうずしたことはないでしょうか?
これらの「人は達成できた事柄よりも、達成できなかった事柄や中断された事柄の方が記憶に残りやすい」という心理現象を「ツァイガルニック効果(Zeigarnik Effect)」と呼びます。
この効果はロシアの心理学者ブリューマ・ツァイガルニックが、教授のクルト・レヴィンの観察から着想を得て実験によって提唱しました。レヴィンはウェイターが注文を完了した客の注文はすぐに忘れるのに、まだ注文が完了していない客の注文は正確に覚えていることに気づいたのです。
ビジネスにおいてこのツァイガルニック効果を理解し活用することは顧客のエンゲージメントを高め、購買行動を促しサービス利用を継続させるための強力な鍵となります。顧客の「完了したい」という本能的な欲求を刺激することであなたは顧客を望ましい行動へと導くことができるのです。
なぜ未完了のタスクは記憶に残るのか
ツァイガルニック効果がこれほどまでに強力な影響力を持つのは人間の根源的な心理に深く根ざしているからです。
- 目標達成への欲求(達成動機) 人は一度目標を設定するとそれを達成したいという強い欲求を抱きます。タスクが未完了の状態だとこの欲求が満たされず心理的な緊張状態が続きます。この緊張がタスクを記憶に留め完了を促す原動力となります。
- 認知的な負荷の継続 未完了のタスクは脳内で「未解決の課題」として常に活性化された状態にあります。これにより脳はそのタスクを処理し続けるため記憶に残りやすくなります。完了したタスクは脳から「解放」されるため記憶から薄れやすくなります。
- 好奇心と情報ギャップ 物語や情報が途中で中断されると人は「どうなるのだろう?」という強い好奇心を抱きます。この「情報ギャップ」を埋めたいという欲求が続きを求める行動に繋がります。
ビジネスにおけるツァイガルニック効果の活用法
顧客の「完了したい」という本能的な欲求を刺激することで顧客の行動を促しエンゲージメントを高めることができます。
- 「続きはWebで!」戦略(情報提供の小出し) ブログ記事や動画コンテンツ、メールマガジンなどで情報を一度にすべて提供するのではなく、意図的に「未完了」の状態を作り出し続きを別の場所(ウェブサイト、ランディングページなど)で提供しましょう。これにより顧客は続きを知りたいという欲求からあなたのウェブサイトへ誘導されます。
- プログレスバーや達成度表示の活用(ゲーミフィケーション) オンライン学習サービスや会員登録プロセス、購買プロセスなどで現在の進捗状況をプログレスバーや達成度(例:「あなたのプロフィールは50%完成しています」)で表示しましょう。顧客は未完了の状態を解消したいという欲求から次のステップへと進みやすくなります。
- 無料トライアルの「途中」で価値を実感させる 無料トライアル期間中にサービスのすべての機能を開放するのではなく、顧客が「あと少しでもっと便利になるのに」と感じるような未完了の状態を作り出しましょう。例えば無料期間中に顧客がある程度のデータを入力したり設定を完了させたりすることでその後の有料プランへの移行を促します。
- シリーズものや連載コンテンツの提供 顧客に継続的にサービスを利用してもらうためにシリーズ化されたコンテンツや連載形式の情報を定期的に提供しましょう。顧客は次のコンテンツを期待しあなたのブランドとの接点を持ち続けるようになります。
- 「あと一歩」で購買を促すメッセージ ECサイトでカートに商品が入ったままの顧客に対して「あと〇〇円で送料無料です」といったメッセージを表示したり、会員登録の途中で離脱した顧客に「登録はあと一歩で完了します」といったリマインダーを送ったりすることで顧客の完了欲求を刺激し購買や登録を促します。
ツァイガルニック効果の注意点と限界
ツァイガルニック効果は強力ですがその活用には注意点と限界があります。
- 過度な未完了は顧客のストレスになる 未完了の状態があまりにも多すぎたり複雑すぎたりすると顧客はストレスを感じ途中で諦めてしまう可能性があります。顧客の負担にならない範囲で適切に未完了の状態を設計することが重要です。
- 「完了」の喜びを奪わない ツァイガルニック効果は完了への欲求を刺激しますが、最終的に完了した際の「達成感」や「喜び」がなければ顧客は次の行動へのモチベーションを失います。未完了の状態を解消した後のポジティブな体験を必ず提供しましょう。
- 倫理的な配慮 顧客を不必要に不安にさせたり強制的に行動させたりするような悪用は避けましょう。顧客の利益を第一に考え誠実なコミュニケーションを心がけることが長期的な信頼関係を築く上で不可欠です。
よくある質問
Q: 従業員のモチベーション向上にも、ツァイガルニック効果は使えますか?
A: はい有効です。例えばプロジェクトを細かく分割しそれぞれのタスクの進捗を可視化することで従業員は未完了のタスクを意識し完了へのモチベーションを維持しやすくなります。また目標達成までの道のりを段階的に示すことで達成感を積み重ね継続的な努力を促すことができます。
Q: 学習コンテンツの離脱率を下げるには、どうすれば良いですか?
A: 学習コンテンツを細かく区切り各セクションの最後に次のセクションへの「予告」や「問いかけ」を設けることが有効です。また学習の進捗状況をプログレスバーなどで可視化し達成度を明確にすることで学習者は未完了の状態を意識し学習を継続しやすくなります。
Q: ツァイガルニック効果は、すべての顧客に同じように効果がありますか?
A: いいえ個人差があります。特に完璧主義の傾向が強い人や目標達成意欲が高い人ほどツァイガルニック効果の影響を受けやすいと言われています。顧客の特性を理解しターゲット層に合わせたアプローチを検討することが重要です。
Q: 顧客に「続きが気になる」と思わせるコンテンツを作るには?
A: 物語性を持たせること、具体的な問いかけをすること、そして次の情報への期待感を高めることが重要です。例えばブログ記事であれば最後に「次回はこの問題の具体的な解決策について詳しく解説します」といった予告を入れる。動画であればクリフハンガー(引き)を設けるなどが考えられます。顧客の好奇心を刺激し情報ギャップを作り出すことを意識しましょう。
筆者について
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