想定読者
- 「先延ばし」のクセに悩み、自己肯定感が下がってしまっている方
- ダイエットや禁煙、勉強といった長期的な目標を今度こそ達成したい方
- 自分やチームの生産性を、心理学的なアプローチで高めたいリーダー
結論:「未来の自分」はもはや「他人」。今の自分を手なずける技術が必要だ
「明日から本気出す」
このあまりにも有名な決意表明を、私たちは人生で何度繰り返してきたでしょうか。ダイエット、勉強、運動、面倒な仕事の処理。その重要性を理性では痛いほど理解しているにも関わらず、私たちの足はなぜか快楽へと向かい、やるべきことから遠ざかってしまいます。
その根本的な原因が、「時間割引(Time Discounting)」という強力な心理バイアスです。これは、人間が遠い未来の大きな価値(健康な身体、試験の合格)よりも、目の前の小さな快楽(ケーキ、SNS)を不合理なほど優先してしまうという心のクセを指します。
なぜこんなことが起きるのか。それは、私たちの脳にとって「未来の自分」はもはや「他人」に近い存在だからです。私たちは赤の他人に自分の面倒な仕事を平気で押し付けたりはしません。しかし「未来の自分」という見知らぬ他人に対しては、「まあ、彼ならなんとかしてくれるだろう」と平気で大量のツケを回してしまうのです。
このどうしようもない「現在の自分」の暴走を、根性や意志の力だけで抑え込むのは至難の業です。必要なのは自分を責めることではありません。「現在の自分」をうまく騙し、手なずけ、おだてて行動させるための具体的な「技術」なのです。
「現在の自分」をうまく騙し、動かすための5つの戦略
「未来の自分」のために「現在の自分」をいかにして動かすか。そのための科学的に裏付けられた5つの具体的な戦略をご紹介します。
- 「2分ルール」で始めるハードルを極限まで下げる 物事を先延ばしにする最大の原因は、その「取り掛かる際の心理的な苦痛」にあります。であれば、その苦痛を限りなくゼロに近づければ良いのです。「レポートを10ページ書く」と考えてはいけません。「Wordファイルを開いて、一行だけタイトルを書く」と考えるのです。2分以内で終わる赤ちゃんのような一歩を設定することで、面倒な作業への心理的な抵抗をハックします。一度始めてしまえば、作業興奮(行動することでやる気が出てくる現象)があなたを次の一歩へと導いてくれるはずです
- 「コミットメントデバイス」で未来の自分を強制的に縛る これは、古代ギリシャの英雄オデュッセウスが、セイレーンの歌声の誘惑を断ち切るために自らをマストに縛り付けたという逸話に由来する強力な技術です。あらかじめ「もし目標を達成できなかったら、〇〇という罰を受ける」というペナルティ付きの「契約」を自分自身や友人と結ぶのです。例えば、「今週中にこの仕事を終わらせなければ、友人に一万円を支払う」と約束する。この「現在の自分が未来の自分に仕掛ける罠」によって、行動せざるを得ない状況を強制的に作り出すのです。
- 「ご褒美」を現在に持ってくる 「現在の自分」は遠い未来のご褒美には興味がありません。彼が欲しいのは今すぐの快楽です。であれば、その習性を利用してしまいましょう。「この面倒なタスクを1時間頑張ったら、好きなドラマを1話だけ観ていい」といったように、長期的な目標達成に向けた行動と即時的なご褒美をセットにするのです。「現在の自分」に小さな賄賂を渡し、協力関係を築きましょう。
- 「未来の報酬」を具体的に五感で味わう 「老後のために貯金する」という目標はあまりに抽象的で、現在の自分には響きません。未来の報酬が抽象的であればあるほど、その価値は大きく割り引かれてしまいます。そうではなく、「〇〇歳になったら、この写真の海の見える家でこんな生活を送る」と、未来の自分の姿を具体的で感情を伴う鮮やかな「映像」として何度も思い描くのです。未来がリアルになればなるほど、現在の自分はその実現のために協力を惜しまなくなるでしょう。
- 「環境」をデザインし意志力に頼らない 最も強力で本質的な戦略がこれです。そもそも人間は誘惑に弱い生き物であると諦める。そして意志の力に頼るのではなく、望ましい行動が自然と生まれるような「環境」を物理的にデザインしてしまうのです。ダイエットしたいなら家にお菓子を置かない。勉強に集中したいならスマートフォンを別の部屋に置く。望ましくない行動への物理的な障壁を高くし、望ましい行動への障壁を徹底的に低くするのです。
よくある質問
Q: これらのテクニックをビジネスのチーム管理に応用できますか?
A: もちろんです。大きなプロジェクトを担当者不明の抽象的な目標として提示してはいけません。それを具体的な週単位の「スプリント」に分解し、担当者を明確にする。そして小さなマイルストーンを達成するたびに、チームでささやかなお祝い(ご褒美)をする。長期的なビジョンを具体的なイメージ(未来の報酬)として繰り返し共有する。すべて同じ原理の応用です。
Q: 誘惑が多すぎて環境をコントロールできません。
A: 最初から完璧な環境を目指す必要はありません。まず、あなたの生産性を最も阻害しているたった一つの「最大の誘惑」を見つけましょう。そして「一日たった1時間だけ」その誘惑を物理的に遠ざけることから始めてみてください。小さな成功体験が次のより大きな挑戦への自信に繋がります。
Q: 「コミットメントデバイス」はなんだか自分を罰しているようで気が進みません。
A: それは罰ではありません。むしろ逆です。「将来必ず自分はより良い選択をするだろう」という未来の自分への最大限の「信頼の証」です。衝動的な「現在の自分」の判断から、理性的な「未来の自分」を守るための高度な自己管理術であり、自分を大切にする行為なのです。
Q: 結局、意志が強い人が成功するのではないですか?
A: 近年の研究では、一般的に「意志が強い」と見なされている人々は、必ずしも誘惑と正面から戦って勝利しているわけではないということが分かっています。むしろ彼らは、無意識のうちに自らが誘惑に遭遇しないような「環境」をデザインするのが非常に上手なのです。彼らは意志が強いのではなく、意志力を使わなくても済む「仕組み」を作るのが賢いのです。
筆者について
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