想定読者
- フェイクニュースやプロパガandaがどのように人々の心に浸透していくのか、そのメカニズムを知りたい方
- 広告やPR活動において長期的な態度変容を促したいマーケター
- 自分自身の記憶や信念がいかに曖昧で不確かであるかを理解したい方
結論:私たちの記憶の中で、情報とその「出所」は別々に忘れられていく
あなたは信頼性の低いゴシップサイトで「人気俳優Aと女優Bが交際している」という記事を目にしました。あなたの最初の反応は「どうせガセネタだろう。信じる価値もない」というものでした。
しかし数週間後。友人とテレビを見ていると俳優Aが映りました。その時あなたは思わずこう口にしてしまいます。 「ああ、この人、女優のBと付き合ってるんだよね」
あなたは記事の「内容」は覚えています。しかしその情報が「信頼できないゴシップサイト」という信憑性の低い出所からもたらされたという重要な文脈をすっかり忘れてしまっているのです。
このように信憑性の低い情報源からのメッセージが、時間の経過と共にその出所が忘れ去られることで、かえって説得力を増してしまうという皮肉な心理現象。それが「スリーパー効果」です。
まるでスパイ映画の潜伏工作員(スリーパー)のように、私たちの記憶の中に静かに潜り込み、時間差でその影響力を発揮し始める。この効果の存在は、私たちが情報に「出所」を忘れやすく、そしてその結果、誤った情報を信じ込んでしまう危険性をはらんでいることを示しています。
なぜ時間の経過が説得力を「復活」させるのか
この奇妙な現象は私たちの記憶の仕組み、特に「記憶の分離(Dissociation)」というプロセスによって説明されます。
私たちが新しい情報に触れる時、私たちの脳は主に二つのことを記憶します。
- メッセージの「内容」そのもの(例:「俳優Aと女優Bが交際している」)
- メッセージの「手がかり」情報(例:「信頼できないゴシップサイトで見た」)
そして多くの場合、この二つの記憶は同じ強度で結びついているわけではありません。メッセージの内容に比べて、その出所や文脈といった「手がかり」の記憶は弱く、より早く忘れ去られていく傾向があるのです。
その結果、時間が経つとどうなるか。
「あの情報は信頼できない筋からのものだった」というメッセージの価値を割り引く手がかり(割引手がかり)だけが記憶から消え去り、インパクトの強いメッセージの内容だけが記憶に残り続けます。そしてその出所不明となったメッセージは、あたかも客観的な事実であるかのように私たちの中でその説得力を増していくのです。
スリーパー効果が発動するための条件
ただしこの効果は常に発動するわけではありません。研究によればいくつかの条件が必要であるとされています。
- メッセージの「内容」そのものに説得力があること そもそもメッセージの内容自体が陳腐で面白くなければ、記憶に残ることはありません。スリーパー効果が働く大前提は、たとえ出所がうさんくさくとも、そのメッセージ自体が人の心を動かす力を持っているということです。
- 「信頼性が低い」という情報(割引の手がかり)がメッセージの「後」に提示されること 研究によればこの効果は、まず説得的なメッセージを聞き、その「後」で「ちなみに今の話は信頼できない筋からの情報です」と伝えられた時に最も強く働くとされています。これによりメッセージそのものは一旦脳に深く刻み込まれるのです。
- 時間が十分に経過すること この効果は即効性のものではありません。割引の手がかりであった「情報の出所」が記憶から薄れ、忘れ去られるための熟成期間が必要なのです。
よくある質問
Q: 良い情報を発信する側としてこの効果をどう考えれば良いですか?
A: この効果は信頼性の高い情報源にとってはむしろ「避けたい」現象です。あなたはせっかくの良い情報がその「出所(=あなた)」を忘れられ、どこにでもある情報の一つとして扱われてしまうことを望まないはずです。だからこそ信頼できる情報源は、メッセージの内容と自社のブランド名を強く結びつけ、忘れられないようにする努力が必要なのです。
Q: 逆に信頼性の低い競合からネガティブな情報を流された場合は?
A: これこそスリーパー効果が最も脅威となるケースです。人々は最初は「どうせあの会社のネガティブキャンペーンだろう」とその情報を割り引いて解釈します。しかし時間が経つとその出所を忘れ、「そういえばあの商品には何か悪い噂があったな…」というネガティブな印象だけが記憶に残ってしまうのです。これに対抗するには、その噂の不正確さを繰り返し指摘し、割引の手がかりを忘れさせないようにする地道な努力が必要となります。
Q: プライミング効果とはどう違うのですか?
A: 「プライミング効果」は先行する情報が直後の思考や行動に即時的な影響を与える短期的な現象です。一方で「スリーパー効果」は情報の説得力が時間の経過と共に変化する長期的な記憶と態度変容の現象です。前者は「連想」の即時性、後者は「記憶」の忘却性が鍵となります。
Q: この効果から自分を守るにはどうすれば?
A: 情報に触れた際に常にその「出所」を意識するクセをつけることです。特に感情を揺さぶる衝撃的な情報に出会った時には「この情報は誰がどんな意図で発信しているのだろうか?」と一歩引いて考える。そして何かを思い出した時には「あれ、その話どこで聞いたんだっけ?」と自らの記憶のソースを確認する。この批判的な情報接触の態度こそが最善の防御策です。
筆者について
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