想定読者

  • 自社商品の価格設定に戦略的な根拠を持ちたい経営者
  • 値引きセールや価格表示の方法をより効果的にしたいマーケティング担当者
  • 顧客の「お得感」を心理学的に演出し購買を後押ししたい方

結論:価格は「絶対値」では判断されない。「比較対象」があって初めて意味を持つ

自動販売機で缶コーヒーが一本300円で売られていたらあなたはどう感じますか?おそらく多くの人が「高い!」と感じるでしょう。ではホテルのラウンジで同じコーヒーが一杯1,000円で提供されたらどうでしょう。「まあ、そんなものか」と思うかもしれません。

中身は同じコーヒーなのに、なぜ私たちの「高い」「安い」という感覚はこうも変わるのでしょうか。

その答えが「参照価格(Reference Price)」という概念にあります。人間は絶対的な価値基準を持っているわけではありません。私たちは何かを判断する時、常に頭の中にある「何か」と比較しています。価格についても同様で、顧客は目の前の価格を無意識のうちにある「基準となる価格」と比較し、その差によってお得かどうかを判断しているのです。

つまりビジネスにおける価格戦略とは単に「価格を決める」ことではありません。それは顧客の頭の中にある「基準(参照価格)」をいかにして自社に有利な形に設定し提示できるかという巧みな心理戦なのです。

あなたの頭の中にある「相場観」

「参照価格」は言い換えればあなたの頭の中にあるその商品カテゴリーの「相場観」です。

  • 近所のスーパーで売っているティッシュペーパー5箱パックの値段。
  • 牛丼チェーンの並盛一杯の値段。
  • あなたが前回美容院でカットに支払った値段。

これらすべてがあなたの「内的参照価格」を形成しています。これは過去の購買経験や記憶によってあなたの頭の中に自然と蓄積されていくものです。顧客があなたの店の値札を見た時、まず最初に比較するのはこの「内的参照価格」です。

しかしビジネスにおいてより重要で戦略的に活用できるのがもう一つの参照価格です。

顧客の「参照価格」をコントロールする4つの価格戦術

それが売り手が購買のその場で顧客に提示する「外的参照価格」です。これは顧客の頭の中にある相場観に直接介入し、「今この価格はお得ですよ」とささやきかける強力なテクニックです。

  1. 「希望小売価格」や「当店通常価格」を併記する 最も古典的で分かりやすい手法です。値札に「メーカー希望小売価格 10,000円のところ、7,980円!」と書かれているのを見ると、私たちは「10,000円」という価格を無意識のうちに「基準(参照価格)」として設定します。そしてその基準と比較することで「7,980円」という価格が2,020円も「お得」であるかのように感じてしまうのです。
  1. 「アンカリング効果」を利用する(松竹梅モデル) 以前の「ゴルディロックス効果」の記事でも触れましたが、価格帯の異なる3つの選択肢(松竹梅)を提示することも参照価格を巧みにコントロールするテクニックです。非常に高価な「松」プランが存在することで顧客の参照価格はその高い価格帯に「錨(アンカー)」を下ろします。その結果中間の「竹」プランが非常に手頃で合理的な価格に見えてくるのです。
  1. 競合価格や市場価格を提示する他社では〇〇円のところ、当店では…」といった形で競合の価格を参照価格としてあえて提示する手法です。あるいは「市場価格〇〇円の高級豆を特別に…」といった形でより広い市場の相場観を基準に設定することもあります。これは自社の価格の優位性や品質の高さを直接的にアピールする際に有効です。
  1. 価格を「分割」または「合計」して見せる 高額な商品の場合「月々たったの3,000円から」と支払いを分割して見せることで、顧客が想起する参照価格を総額ではなく月々の負担額へと引き下げることができます。逆に複数の商品をセット販売する際には「総額〇〇円相当のセットが今なら…」と個々の価格の合計という高い参照価格を提示することで、セット価格のお得感を際立たせることができるのです。

「偽りの参照価格」は信頼を破壊する

ここで一つ極めて重要な注意点があります。それは提示する「外的参照価格」は必ず根拠のある誠実なものでなければならないということです。

例えば実際にはその価格で販売した実績がほとんどないにも関わらず、不当に高い「通常価格」を掲げそこから大幅に値引きしたように見せかける。このような「二重価格表示」は景品表示法で厳しく禁じられている違法行為です。

顧客はあなたが思うよりも賢明です。信憑性のない参照価格はすぐに見抜かれ、一度失った信頼を取り戻すのは容易ではありません。参照価格戦略は常に顧客への誠実さを土台として実行されなければならないのです。

よくある質問

Q: 新しい商品で顧客が参照価格を持っていない場合はどうすれば?

A: それはビジネスにとって絶好のチャンスです。なぜならあなたが市場における「最初の参照価格」を自らの手で設定できるからです。例えば「この新技術は従来〇〇万円かかっていたAという課題を半分のコストで解決します」といったように既存のより高価な代替品を基準として提示する。あるいはこの商品が将来顧客にもたらすであろう金銭的な利益(ROI)を具体的に示すことで、価格の妥当性を顧客の頭の中に強力にインプットすることができます。

Q: 値引きセールを頻繁に行うと参照価格はどうなりますか?

A: 非常に危険な問いです。もしあなたが常にセールを行っていると、顧客の頭の中ではその「セール価格」が新しい「通常価格(参照価格)」として上書きされてしまいます。その結果顧客はあなたが定価で販売している時に「あの店はいつもセールをやっているのに今は高すぎる」と感じ、セールになるまで買い控えをするようになってしまうのです。頻繁なセールは自社製品の価値を自ら毀損していく行為なのです。

Q: 高級ブランドはなぜ価格を明示しないことがあるのですか?

A: 彼らは意図的に「価格」という分かりやすい比較の土俵から降りているのです。価格を隠し「知る人ぞ知る」という希少性を演出することで、参照価格を「ステータス」や「特別な体験」といった金銭以外の価値基準に置き換えようとしているのです。また顧客に問い合わせをさせることで質の高い接客の機会を生み出し、ブランドの世界観をじっくりと伝える狙いもあります。

Q: 参照価格を高く設定しすぎるとどうなりますか?

A: 提示する参照価格に信憑性がなければ逆効果になります。例えばどう見ても安価な商品に「参考価格10万円」と表示しても、顧客は「馬鹿にしているのか」と感じブランドへの信頼を完全に失うでしょう。提示する参照価格は顧客が「なるほど、それくらいはするかもしれないな」と納得できる信憑性の範囲内にある必要があります。

筆者について

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