想定読者
- 自社商品の「値付け」に自信が持てない経営者
- 「値上げは不可能だ」と思い込んでいる事業責任者
- 価格競争から脱却し、自社のブランド価値を高めたいと考えている方
結論:顧客は「価格」を見ているのではない。「価値」と「代替案」を天秤にかけている
あなたのビジネスの収益性を左右する、極めて重要な問いがあります。
「もし、あなたの商品の価格を明日から10%値上げしたら、顧客の数は何%減るでしょうか?」
この問いに対する答え、すなわち価格の変動に対して顧客の需要がどれだけ変化するか、その度合いを示す指標が「価格感受性(Price Sensitivity)」です。(経済学では「価格弾力性」とも呼ばれます)
- 価格感受性が高い(需要が弾力的): 少し価格を上げただけで、顧客が潮が引くようにいなくなってしまう状態。顧客は価格に非常に敏感です。
- 価格感受性が低い(需要が非弾力的): 価格を上げても、顧客がそれほど離れていかない状態。顧客は価格以外の「何か」を重視しています。
多くの経営者は、「お客様は常に少しでも安いものを求めている」と考えがちです。しかし、それは半分しか正しくありません。顧客は単に「絶対的な価格」を見ているのではありません。彼らは常に、あなたが提供する「価値」と、他に存在する「代替案」を頭の中で無意識に天秤にかけているのです。
ビジネスの目的は最安値を目指すことではありません。顧客の「価格感受性」をいかにして下げ、価格競争の引力から自社を解放するか。その戦略の中にこそ、長期的な利益の源泉があるのです。
「ティッシュ」と「iPhone」の価格の物語
この「価格感受性」の違いを身近な例で考えてみましょう。
- ティッシュペーパー: あなたがいつも買っているティッシュペーパーが今日、スーパーで20円値上がりしていたらどうしますか?おそらく、多くの人は何の躊躇もなく、隣に並んでいる別のメーカーのより安いティッシュをカゴに入れるでしょう。ティッシュペーパーはメーカーごとの差が小さく、代替品が多いため、価格感受性が極めて高い商品です。
- iPhone: 一方で、Appleが新しいiPhoneを前モデルよりも2万円高い価格で発表したとしても、発売日には世界中で何百万人もの人々が行列を作ってそれを購入します。iPhoneの顧客は、その価格の上昇に対して比較的動じません。つまり、価格感受性が低いのです。
この違いはどこから来るのでしょうか。それは、製品の機能だけでなく、ブランドへの信頼、独自のOSというエコシステム、そして「iPhoneを持つ」という感情的な価値。それらが顧客の価格感受性を強力に鈍化させているのです。
あなたの商品の「価格感受性」を決める4つの要素
では、何が価格感受性の高低を分けるのでしょうか。主に以下の4つの要素が複雑に絡み合っています。
- 代替品の多さ あなたの商品の代わりになるものが世の中にどれだけ存在するか。これは最も決定的な要因です。他に選択肢が多ければ多いほど、顧客はより安いものへと簡単に乗り換えることができます。逆に、他に選択肢がない独占的な商品であれば、価格感受性は極めて低くなります。
- 商品の「必需性」と「贅沢性」 その商品が生活やビジネスにとってどれだけ「なくてはならない」ものかという度合いです。例えば、毎日飲まなければならない処方薬や、生活に不可欠な水道代は、価格が上がっても需要は大きくは減りません。一方で、なくても困らない嗜好品や贅沢品は、価格が上がると真っ先に購入が控えられてしまいます。
- ブランドや品質への「こだわり」 顧客があなたのブランドに対してどれだけの「愛着」や「信頼」を寄せているか。強力なブランドは、「このブランドだから買いたい」「このブランドなら高くても安心だ」という合理性を超えた購買動機を生み出します。これは、価格感受性を下げる非常に強力な防波堤です。
- スイッチングコストの高さ 顧客があなたのサービスから競合のサービスに乗り換える際に、どれだけの「負担(金銭的・時間的・心理的)」がかかるかということです。長年使い慣れたソフトウェアから新しいものにデータを移行し、操作を覚え直すのは非常に面倒です。この「乗り換えの面倒くささ」がスイッチングコストとして機能し、顧客をあなたのサービスに留まらせるのです。
よくある質問
Q: 自社商品の価格感受性を、どうやって調べれば良いですか?
A: 最も直接的なのは、実際にテストしてみることです。例えば、期間限定で小幅な値上げ、あるいは値引きを実施し、販売数量がどれだけ変化するかを観察します。あるいは、既存顧客に「もし、価格が10%高くなったら、購入を継続しますか?」といったアンケート調査を行うのも有効な手段です。完璧な数字を出すのは難しくとも、おおよその「感度」を肌で掴むことが重要です。
Q: 価格を下げれば、売上が増えて、結果的に利益も増えるのでは?
A: それは、需要が非常に「弾力的(価格感受性が高い)」場合にのみ当てはまります。例えば、10%の値下げによって販売量が30%増えるなら、利益は増えるかもしれません。しかし、もし販売量が5%しか増えなければ、売上は増えても利益は確実に減ってしまいます。値下げは、その商品の価格感受性を慎重に見極めた上で実行すべき劇薬なのです。
Q: BtoBとBtoCで、価格感受性に違いはありますか?
A: 一般的に、BtoBの購買はBtoCよりも「合理的」だと言われますが、基本的な心理原則は同じです。例えば、ある企業は事務用品のコピー用紙(代替品が多い、コモディティ)の価格には非常に敏感かもしれません。しかし、その会社の業務の根幹を支える特殊な基幹システム(代替品が少なく、スイッチングコストが高い)の利用料には非常に鈍感であるといったことが起こり得ます。
Q: 「参照価格」と、「価格感受性」は、どう関係しますか?
A: 両者は密接に関係しています。「参照価格」とは、顧客が「高い・安い」を判断する際の「基準点」です。一方で、「価格感受性」は、その基準点から価格がどれだけズレたら顧客が「行動を起こすか(買うのをやめるか)」という「感度」のことです。例えば、高価な「松」プランを提示することで顧客の参照価格を引き上げれば、本命である「竹」プランの価格に対する感受性を鈍化させる(=割安に感じさせる)ことができるのです。
筆者について
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