想定読者
- 「リーダーは弱みを見せるべきではない」「常に完璧であるべきだ」といった、強い思い込みに苦しんでいる経営者やリーダー
- 自分自身や他人に対して、つい「〜べきだ」と厳しく要求してしまい、ストレスや人間関係の軋轢を生んでいる方
- 物事が自分の思い通りに進まないと、過度にイライラしたり、落ち込んだりしてしまう方
結論:「〜べき」という思考は、現実を無視した、あなただけの“非合理的なルール”である
結論から申し上げます。あなたを苦しめている「〜べきだ」という思考は、世の中の普遍的な真実や、誰もが守るべき絶対的な法則ではありません。それは、あなたの過去の経験から作られた、あなただけの個人的で、非合理的、かつ硬直的なルールに過ぎないのです。
そして、このルールブックが分厚ければ分厚いほど、あなたは、ルール通りにいかない現実とのギャップに、常に苦しみ続けることになります。
この記事では、心理療法の一つである認知行動療法のアプローチを使い、この自分を縛る不合理なルールに気づき、より柔軟で、現実的な思考へと書き換えていくための、具体的な方法を解説していきます。
第1章: あなたを苦しめる「べき思考」の正体
べき思考とは、認知行動療法でいうところの認知の歪みの一種です。まずは、その特徴と、なぜそれが問題なのかを理解しましょう。
「べき思考(Should Statements)」とは何か
べき思考とは、自分自身や他人、そして世界に対して、「こうあるべきだ」「こうでなければならない」という、厳格で、融通の効かない基準を、一方的に設定してしまう思考のクセのことです。
- 自分に対する「べき」: 「私は、常に生産的であるべきだ」「私は、決して失敗するべきではない」
- 他人に対する「べき」: 「部下は、上司の指示に素直に従うべきだ」「顧客は、約束の時間に遅れるべきではない」
- 世界に対する「べき」: 「努力は、必ず報われるべきだ」「世の中は、公正であるべきだ」
なぜ、「べき思考」は問題なのか?
この思考法の最大の問題点は、柔軟性の欠如です。
現実は、常に私たちの「べき」という理想通りに動くわけではありません。部下は指示を誤解しますし、顧客は約束を破ることもあります。そして、努力が報われないことも、残念ながら多々あります。
「べき思考」に囚われていると、この理想と現実のギャップに直面するたびに、
- 自分を責め(自己嫌悪、罪悪感)
- 他人を責め(怒り、失望)
- 世界を呪う(無力感、絶望)
といった、ネガティブな感情の渦に巻き込まれてしまうのです。
第2章: 認知行動療法に学ぶ、「べき思考」を手放す3ステップ
では、どうすれば、この厄介な思考のクセから抜け出せるのでしょうか。認知行動療法では、以下の3つのステップで、思考の歪みを修正していきます。
ステップ1:自分の「べき思考」に“気づく”
まず、自分がどんな時に、どんな「べき思考」を使っているかを、客観的に認識することから始めます。
イライラしたり、落ち込んだりした瞬間に、心の中でどんな自動思考が浮かんだかを、紙に書き出してみましょう。
「ああ、またやってしまった…。プレゼンは、絶対に完璧であるべきだったのに」
「なぜ、彼は時間通りに来ないんだ!約束は、守るべきだろう!」
このように、自分の思考を言語化することで、それが単なる一つの「考え」であり、絶対的な事実ではない、ということに気づくことができます。
ステップ2:その「べき」に、根拠を“問う”
次に、その「べき」という考えが、本当に合理的で、現実的なのかを、自分自身で検証していきます。自分の中の探偵になったつもりで、その思考に反証を探してみましょう。
- 「プレゼンは、絶対に完璧であるべきだ」という考えに対して:
- 根拠は?: 完璧でないと、信用を失うかもしれないから。
- 反証は?: 過去に、少しミスはあったけど、結果的に契約が取れたことはなかったか?そもそも、100%完璧なプレゼンなど、存在するのか?少しのミスも許さないのは、自分だけではないか?
- 「部下は、指示に素直に従うべきだ」という考えに対して:
- 根拠は?: その方が、仕事がスムーズに進むから。
- 反証は?: 過去に、部下が指示とは違うやり方をして、結果的にもっと良い成果が出たことはなかったか?部下にも、自分の考えややり方があるのではないか?
この自問自答を通じて、自分の「べき」が、いかに非現実的で、一方的なルールであったかに気づくことができます。
ステップ3:より柔軟な「新しい考え方」に“書き換える”
最後に、その硬直的な「べき思考」を、より柔軟で、現実的で、役に立つ新しい考え方に、意識的に書き換えます。
- 書き換え前: 「プレゼンは、絶対に完璧であるべきだ」
- 書き換え後: 「プレゼンは、ベストを尽くすが、多少のミスはつきものだ。大切なのは、誠意と熱意を伝えることだ」
- 書き換え前: 「部下は、指示に素直に従うべきだ」
- 書き換え後: 「部下には、まず指示の意図を伝えるようにしよう。違うやり方の提案があれば、それも聞いてみよう」
ポイントは、「〜べき」を、「〜であることが望ましい」「〜だと嬉しいな」「〜という選択肢もある」といった、柔らかい表現に置き換えることです。
第3.章:「べき」を手放した先にある、しなやかなリーダーシップ
この思考のトレーニングを続けることで、あなたの心と、あなたの周りの世界は、どのように変わっていくのでしょうか。
完璧主義から「最善主義」へ
「完璧であるべき」という呪縛から解放されると、あなたは100点を目指すのではなく、その時々の状況で、最善を尽くすことに集中できるようになります。
これにより、失敗への過度な恐怖がなくなり、新しいことへの挑戦がしやすくなります。また、自分だけでなく、部下の小さなミスにも、寛容になることができるでしょう。
「支配」から「信頼」のマネジメントへ
「部下は、こう動くべきだ」という支配的なマネジメントから、「部下は、自分の力で考え、成長できるはずだ」という、信頼に基づいたマネジメントへと、スタイルが変わっていきます。
マイクロマネジメントをやめ、権限を委譲することで、部下の主体性は育まれ、組織全体のパフォーマンスは向上します。
世界は“思い通りにならない”のが当たり前
「世界は、こうあるべきだ」という過度な期待を手放すと、思い通りにいかない現実に対して、いちいち腹を立てたり、落ち込んだりすることがなくなります。
予期せぬトラブルや、理不尽な出来事も、「まあ、そういうこともあるか」と、冷静に受け止め、その状況の中で、自分にできる最善の次の一手を考える。この精神的なしなやかさ(レジリエンス)こそが、変化の激しい時代を生き抜く経営者に、最も求められる資質なのです。
よくある質問
Q: 「べき思考」が、モチベーションの源泉になっている部分もあります。完全に手放すべきですか?
A: 素晴らしい指摘です。「こうあるべきだ」という高い理想が、自分を成長させる原動力になることは、確かにあります。問題なのは、その「べき」が絶対的で、融通が効かなくなり、自分や他人を苦しめ始めた時です。理想を持つことは大切ですが、その理想に100%到達できなくても、自分を許せる「柔軟さ」を併せ持つことが重要です。
Q: 他人の「べき思考」に、どう対処すればいいですか?
A: 相手の「べき」を、正面から「それは間違っている」と否定するのは、対立を深めるだけです。まずは、「あなたは、〇〇であるべきだと、強く感じていらっしゃるのですね」と、相手の価値観を一度受け止め、共感を示します。その上で、「私は、△△という考え方もあると思うのですが、いかがでしょうか?」と、あくまで一つの選択肢として、自分の意見を提示するのが、賢明なアプローチです。
Q: この思考の書き換えは、どのくらいの期間で効果が出ますか?
A: 思考のクセは、長年の習慣なので、一朝一夕には変わりません。しかし、この記事で紹介したステップを、意識的に毎日続けることで、早ければ数週間で、物事への感じ方や、自分の感情の反応が、少しずつ変わっていくのを実感できるはずです。焦らず、根気強く続けることが大切です。
Q: これは、認知行動療法(CBT)そのものなのですか?
A: これは、認知行動療法の中心的な技法である「コラム法」を、非常にシンプルにしたものです。本格的な認知行動療法は、専門家の指導のもとで行うのが理想ですが、このセルフケアの形でも、日常的なストレスの軽減には、十分に効果が期待できます。
Q: 自分を許せるようになると、逆に自分に甘くなって、成長が止まってしまいませんか?
A: 自分を許すことと、自分に甘くなることは、全く違います。むしろ、過度な自己批判は、挑戦への恐怖心を生み、成長を妨げます。「失敗しても大丈夫。そこから学べばいい」という、自分への信頼と安心感があるからこそ、人は安心して新しい一歩を踏み出すことができるのです。
筆者について
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