こんな人におすすめの記事です

  • 従業員の性善説に立ってマネジメントした結果、手痛い失敗を経験した経営者
  • 部下を信頼して任せたいが、どこまで権限委譲すべきか悩んでいるリーダー
  • 会社のルールやシステムを設計する立場にある、管理職や起業家
  • 感情論ではなく、合理的で持続可能な組織運営の原則を学びたい方

結論:心は性善説で、行動は性悪説で管理する

「部下を信じて任せたのに、期待通りの成果が出なかった」「信頼していた従業員が、会社の資金を不正に利用していた」。経営における問題の多くは、人間関係に起因します。この問題に対し、「人を信じるべきか、疑うべきか」という二者択一で悩む経営者は少なくありません。

しかし、結論から言います。優れた組織運営は、この二者択一では実現できません。最も効果的で持続可能なマネジメントとは、①従業員の意欲や良心を信じる「性善説」を基本姿勢とし、②人はミスを犯し、誘惑に負ける不完全な存在であるという「性悪説」に基づいて、堅牢な仕組み(システム)を構築する、という2つの層を明確に分けて両立させることです。

人の心、つまりモチベーションは性善説で引き出し、人の行動、つまり業務プロセスは性悪説で管理する。この記事では、この普遍的な原則を、具体的なビジネスシーンにどう落とし込むかを解説します。

第1章:性善説と性悪説- 経営における定義

まず、経営における両者の定義を明確にします。

  • 経営における「性善説」とは これは、従業員の心や意欲に対する基本的なスタンスです。「従業員は、基本的に会社に貢献したいと思っており、成長意欲がある」と信じることを指します。この信頼が、権限委譲や、従業員の自主性を尊重するポジティブな職場文化の土台となります。従業員は、信頼されることで初めて、その期待に応えようと高いパフォーマンスを発揮します。
  • 経営における「性悪説」とは これは、従業員の行動を管理する仕組みを設計する上での基本的なスタンスです。従業員が悪人であると仮定するのではなく、「どれだけ優秀で誠実な人間でも、間違い(ヒューマンエラー)を犯す、うっかり忘れる、時には誘惑に負ける、体調不良で正常な判断ができないことがある」という事実を前提とします。仕組みの目的は、こうした人間の不完全さが、事業にとって致命的な損害に繋がることを未然に防ぐことです。

第2章:なぜ「性善説」だけの経営は、ほぼ確実に失敗するのか

従業員を信じることは重要ですが、信頼だけに依存した経営は、極めて高いリスクを伴います。具体的には、以下のような事態を引き起こします。

  • ケース1:経理・財務における不正 特定の担当者一人の誠実さを信じ、入出金の管理や承認プロセスを任せきりにする。その結果、出来心から会社の資金が横領される、という事件は後を絶ちません。これは、その担当者の倫理観だけの問題ではなく、不正が可能な状態を放置した、仕組みの不備の問題です。
  • ケース2:重大なヒューマンエラーによる信用の失墜 重要な納品前の最終チェックを、ベテラン従業員の経験と記憶だけに頼る。その結果、確認漏れから重大な欠陥が見過ごされ、顧客からの信用を失う事態に繋がります。これも、個人の能力を過信し、誰がやっても同じ結果になるチェックリストのような仕組みを導入しなかったことが原因です。
  • ケース3:業務の属人化とブラックボックス化 特定のスタープレイヤーの個人的なスキルや人脈に依存し、その業務プロセスをマニュアル化・情報共有することを怠る。その結果、その従業員が退職した途端、業務が完全に停止し、事業が立ち行かなくなるリスクです。

第3章:「性悪説」に基づく、具体的な仕組みの作り方

では、人間の不完全さを前提とした、堅牢な仕組みとはどのようなものでしょうか。4つの具体的なアプローチを紹介します。

1. 権限の分散と相互チェック(ダブルチェック)

一つの業務プロセスを、一人の担当者だけで完結させないように設計します。特に、お金や契約に関わる業務では必須です。

具体例

  • 請求書を作成する担当者と、それを承認し、送付する担当者を分ける。
  • 一定金額以上の支払いについては、必ず二人の責任者の承認がなければ実行できないようにする。

2. プロセスの標準化とマニュアル化

個人の経験や勘に頼らず、誰が担当しても一定の品質を保てるように、業務の手順を文書化・標準化します。

具体例

  • 新人でも理解できる、具体的な業務マニュアルや手順書を作成する。
  • ミスが発生しやすいポイントを洗い出し、チェックリストを作成して、確認作業を義務付ける。

3. 情報の透明性と記録

業務の進捗や、やり取りの履歴を、個人のPCや頭の中ではなく、関係者全員がアクセスできるオープンな場所で管理します。

具体例

  • 顧客とのやり取りを、個人のメールではなく、共有の顧客管理システム(CRM)やプロジェクト管理ツールに記録する。
  • システムの操作ログや、入退室の記録など、誰がいつ何をしたかが自動的に記録される仕組みを導入する。

4. フェイルセーフとフールプルーフ

そもそもミスが起こりにくい、あるいはミスが起きても損害が最小限に留まるような、物理的・システム的な設計を取り入れます。

具体例

  • 重要なデータを削除しようとすると「本当に削除しますか?」という確認ダイアログを表示させる(フェイルセーフ)。
  • 数量を入力する欄に、誤って文字を入力できないようにシステムを設計する(フールプルーフ)。

第4章:「性弱説」- もう一つの重要な視点

「性悪説」という言葉に抵抗がある場合は、「性弱説」という考え方を取り入れると、より本質的な理解が進みます。これは、「人間は、善でも悪でもなく、根本的に弱い存在である」という考え方です。

人は、プレッシャーに晒されたり、誘惑に駆られたり、あるいは誰の目も届かない状況に置かれたりすると、弱い心が出てきて、過ちを犯してしまう可能性がある。したがって、仕組みの目的は、悪人を罰することではなく、弱い人間が過ちを犯さずに済むように、支え、助けることにある、と捉えることができます。この視点は、よりポジティブな形で、ルールの必要性を組織に浸透させる助けとなります。

よくある質問

Q: 仕組みで縛ると、従業員に「信頼されていない」と感じられませんか?

A: ルール導入の意図を、丁寧に説明することが重要です。「あなたを疑っているのではなく、会社全体を、そしてあなた自身を、万が一のミスやトラブルから守るための仕組みだ」と伝えることで、従業員はむしろ、会社が自分たちを守ろうとしていると理解します。

Q: スタートアップのような少人数の組織でも、厳格なルールは必要ですか?

A: はい、必要です。むしろ、事業の基盤が固まっていない初期段階こそ、基本的なルール(特に経費精算や契約関連)を整備しておくことが、将来の成長に向けた土台となります。組織が大きくなってからルールを変えるのは、はるかに困難です。

Q: ルールで縛りすぎると、従業員の自主性や創造性が失われませんか?

A: その懸念は重要です。そのため、ルールで縛るべき領域と、個人の裁量に任せるべき領域を、明確に区別する必要があります。例えば、経費精算のプロセスは厳格にルール化する一方で、新商品のアイデア出しは、ルールを設けず自由な発想を奨励する、といった使い分けが求められます。

Q: 信頼していた従業員に不正をされました。どうすれば?

A: まずは、起きてしまった事実に対して、就業規則や法に則り、冷静かつ厳正に対処する必要があります。それと同時に、なぜ不正が可能な状態にあったのか、仕組みの不備を徹底的に検証し、再発防止策を講じることが、経営者の最も重要な責務です。

筆者について

記事を読んでくださりありがとうございました! 私はスプレッドシートでホームページを作成できるサービス、SpreadSiteを開発・運営しています! 「時間もお金もかけられない、だけど魅力は伝えたい!」という方にぴったりなツールですので、ホームページでお困りの方がいたら、ぜひご検討ください! https://spread-site.com