想定読者
- お客様からのクレームに、どう対応していいか分からず苦手意識を持っているスモールビジネスオーナーの方
- スタッフのクレーム対応スキルを向上させたいと考えている店舗経営者の方
- ただ謝るだけの対応から脱却し、顧客満足度を高めたいと考えている方
結論:クレーム対応は、「解決」する前に「共感」せよ
結論から申し上げます。怒っているお客様が最初に求めているのは、完璧な解決策や論理的な説明ではありません。まず、「自分の怒りや不満を、きちんと理解してほしい」という感情的な承認です。
この感情的な部分を無視して、いきなり解決策を提示しようとするから、話がこじれてしまうのです。
この記事では、クレーム対応の成否を分ける最も重要なスキル、傾聴術に焦点を当てます。相手の怒りを鎮め、冷静な対話のテーブルにつかせるための、具体的な「聞き方」の技術を徹底的に解説していきます。
第1章: なぜ、あなたのクレーム対応は“火に油を注ぐ”のか?
良かれと思って対応したはずが、逆にお客様をさらに怒らせてしまった。そんな経験はありませんか?それは、多くの人がやりがちな、典型的な失敗パターンに陥っているからです。
失敗パターン1:「でも」「しかし」で話を遮る
お客様が話している最中に、「いえ、でもそれは…」「しかし、弊社の規定では…」と、相手の話を遮って反論や説明を始めてしまう。これは最悪の対応です。
お客様からすれば、「私の話はまだ終わっていないのに!」と、不満を聞いてもらえないどころか、自分の存在を否定されたように感じてしまいます。たとえ相手の主張に事実誤認があったとしても、まずは最後まで、黙って話を聞くことが鉄則です。
失敗パターン2:すぐに「解決策」や「正論」を提示する
「では、すぐに代わりの商品をお送りします」「本来であれば、これは保証の対象外なのですが…」。
怒っている相手に、いきなり解決策や正論をぶつけても、火に油を注ぐだけです。なぜなら、お客様の感情が昂っている状態では、論理的な話は耳に入らないからです。
彼らが求めているのは、解決策の前に「そうですよね、それはご不便でしたよね」という、感情への寄り添いです。この共感のプロセスを飛ばして解決を急ぐと、「マニュアル通りの対応だ」「こちらの気持ちを分かっていない」と、さらなる怒りを買ってしまうのです。
失敗パターン3:「申し訳ございません」の連呼で思考停止する
とりあえず謝っておけばいいだろう、と「申し訳ございません」を繰り返すだけの対応も、実は危険です。もちろん謝罪は重要ですが、それだけではお客様に「本当に悪いと思っているのか?」「ただやり過ごそうとしているだけではないか?」という不信感を与えてしまいます。
本当に重要なのは、何に対して謝罪しているのかを明確にすることです。そして、謝罪の言葉と共に、相手の話を真摯に聞く姿勢を見せることが、信頼回復の第一歩となります。
第2章: 怒りを“信頼”に変える「傾聴」の3ステップ
では、具体的にどう「聞く」のが正解なのでしょうか。ここでは、相手の感情を鎮め、冷静な対話へと導くための、傾聴の3つのステップを解説します。
ステップ1:まず、黙って最後まで聞く(遮らない勇気)
クレーム対応の8割は、これで決まると言っても過言ではありません。相手が話している間は、口を挟みたくなっても、ぐっとこらえてください。
あなたの仕事は、ただひたすら相手の話に耳を傾けることです。相槌を打ちながら、時にはメモを取り、「私は、あなたの話を真剣に聞いていますよ」という姿勢を全身で示します。
お客様は、溜まっていた不満をすべて吐き出すことで、少しずつ冷静さを取り戻していきます。この「ガス抜き」の時間を十分に確保することが、その後の対話をスムーズに進めるための、最も重要な準備運動になります。
ステップ2:感情を受け止める「クッション言葉」と「相槌」
相手の話をただ聞くだけでなく、積極的に「受け止めている」ことを示す技術が必要です。そのために有効なのが、クッション言葉と相槌です。
- 効果的なクッション言葉の例
- 「さようでございますか」
- 「おっしゃる通りでございます」
- 「ご不便をおかけし、大変申し訳ございません」
- 「それは、ごもっともでございます」
- 効果的な相槌の例
- 単純な「はい」だけでなく、「ええ」「なるほど」とバリエーションを持たせる。
- 相手の感情に合わせて、「それは大変でしたね」「ご心配をおかけしました」と、共感の言葉を添える。
これらの言葉は、相手の主張に同意するという意味ではありません。あくまで「あなた様が、そのようにお感じになったのですね」と、相手の感情を事実として受け止めるためのテクニックです。
ステップ3:「オウム返し」で、相手の言葉を要約し、理解を示す
相手の話が一通り終わったら、すぐに解決策に移るのではなく、まずはこちらの理解が正しいかを確認するステップを挟みます。そのために有効なのが、オウム返し(復唱)と要約です。
「〇〇様、貴重なお話をありがとうございます。念のため確認させていただけますでしょうか。〇〇という商品をご購入後、△△という状況になり、その結果、□□という点についてご不満を感じていらっしゃる、という認識でよろしかったでしょうか?」
このように、相手が話した内容を自分の言葉で要約して確認することで、以下の3つの効果が生まれます。
- 認識のズレを防げる: こちらの聞き間違いや、相手の意図の誤解を防ぎます。
- 理解を示せる:「この人は、ちゃんと私の話を理解してくれた」という安心感を相手に与えます。
- 論点を整理できる: 感情的に語られた話の中から、解決すべき問題点を明確にすることができます。
第3章: “聞いて”から“話す”。解決策を提示する正しい順序
相手の感情が落ち着き、こちらの話を聞く準備が整って初めて、解決策の提示フェーズに移ります。ここでも、焦りは禁物です。
謝罪のポイント:何に対して謝るのかを明確にする
まず、改めて謝罪をします。しかし、この時の謝罪は、全面的に非を認めるという意味ではありません。明確にすべきは、「お客様にご不便、ご不快な思いをさせたこと」に対して謝罪する、という点です。
「この度は、私どもの製品により、〇〇様にご不便をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。」
このように、何に対する謝罪なのかを具体的にすることで、誠意が伝わりやすくなります。
解決策の提示:一方的に押し付けず、相手に「選んで」もらう
解決策を提示する際は、「こうします」と一方的に決めるのではなく、複数の選択肢を用意し、相手に選んでもらう形を取るのが理想です。
「〇〇様、今回の件につきまして、私どもとしましては2つのご提案がございます。1つは、すぐに新しい商品と交換させていただく案。もう1つは、全額ご返金させていただく案です。どちらが、〇〇様にとってよろしいでしょうか?」
人は、自分で選んだものに対しては、納得感を持ちやすいものです。相手に選択権を委ねることで、「一方的に押し付けられた」という不満を防ぎ、主体的に問題解決に参加してもらうことができます。
第4章: クレームは「宝の山」。事業を改善するチャンスに変える方法
クレーム対応は、その場を収めるだけで終わらせては非常にもったいないです。一件のクレームは、あなたの事業をより良くするための、貴重なヒントに満ちています。
一人のクレームの裏には、99人の“サイレントクレーマー”がいる
わざわざ時間と労力を使ってクレームを伝えてくれるお客様は、実はごく一部です。ほとんどのお客様は、不満があっても何も言わずに、静かに去っていきます。これをサイレントクレーマーと呼びます。
つまり、一件のクレームは、声なき多くのお客様が抱えているかもしれない、潜在的な問題点を教えてくれる、無料の経営コンサルティングのようなものなのです。この視点を持つだけで、クレーム対応への向き合い方は180度変わります。
クレームを記録し、組織の「資産」に変える
クレームは、担当者個人の記憶の中に留めてはいけません。必ず記録し、組織全体で共有する仕組みを作りましょう。
- いつ、誰から、どんな内容のクレームがあったか
- どのように対応し、結果どうなったか
- そこから見えた、自社の課題や改善点は何か
これを、簡単なスプレッドシートに記録していくだけでも十分です。蓄積されたクレーム情報は、新商品開発や、業務プロセスの見直し、スタッフ教育のための、何物にも代えがたい資産となります。
ファン化の決定打:「改善報告」
クレーム対応の究極のゴールは、お客様を熱狂的なファンに変えることです。そのための決定打となるのが、クレームをくれたお客様への改善報告です。
「先日いただいた〇〇に関するご指摘を受け、社内で検討した結果、△△のように業務を改善いたしました。貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。」
このように、後日改めて連絡をすることで、お客様は「自分の声が、本当にこの会社を変えたんだ」と実感し、強い当事者意識とロイヤリティを持ってくれます。ここまでできて初めて、クレームは本当の意味で「宝の山」になるのです。
よくある質問
Q: 理不尽な要求をしてくるクレーマーには、どう対応すればいいですか?
A: まずは、傾聴のステップを徹底し、相手の言い分を冷静に聞きます。その上で、明らかに事実と異なる点や、社会通念上、応えられない過度な要求(土下座の要求や、法外な金銭要求など)に対しては、「そのご要望にはお応えできかねます」と、毅然とした態度で断る勇気も必要です。対応に困る場合は、一人で抱え込まず、上司や弁護士などの第三者に相談しましょう。
Q: 電話ではなく、メールやSNSでのクレーム対応の注意点は何ですか?
A: テキストでの対応は、感情が伝わりにくく、冷たい印象を与えがちです。そのため、対面以上に「共感の言葉」を丁寧に使い、「ご不便をおかけし、大変心苦しく思っております」といった、心情を表現する一文を加えることが重要です。また、話が複雑になりそうな場合は、「よろしければ、お電話にて詳しくお話を伺えませんでしょうか」と、対話の場を提案するのも有効です。
Q: スタッフにクレーム対応を任せる際の、権限委譲の範囲はどこまでですか?
A: スタッフが自信を持って対応できるよう、明確なルールを決めておくことが重要です。例えば、「〇〇円までの返金や値引きであれば、現場の判断で対応して良い」「それ以上の要求や、判断に迷う場合は、必ず責任者に報告する」といった、具体的な金額や基準で権限の範囲を定めておくと、対応がスムーズになります。
Q: 返金を求められた場合、どこまで応じるべきですか?
A: 自社に明確な非がある場合は、速やかに全額返金に応じるのが基本です。しかし、そうでない場合は、商品の使用状況や、契約内容に照らし合わせて、ケースバイケースで判断する必要があります。返金規定などを、あらかじめホームページや利用規約に明記しておくことが、トラブルを防ぐ上で重要です。
Q: 対応後、お詫びの品などを送るべきですか?
A: 必須ではありませんが、会社の誠意を示す上で有効な場合があります。ただし、高価すぎる品物は、かえって相手に気を遣わせたり、今後の過度な期待に繋がったりする可能性もあります。会社のロゴが入ったお菓子や、次回の割引クーポンなど、相手が負担に感じない程度のものが良いでしょう。送るかどうかは、クレームの深刻度や、お客様との関係性に応じて判断します。
筆者について
記事を読んでくださりありがとうございました!
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