こんな人におすすめの記事です
- 事業の売上や利益が順調に伸びてきた個人事業主・フリーランスの方
- 「法人化した方が得」と聞いたが、具体的な判断基準が分からない方
- どのタイミングで法人化(法人成り)を検討すべきか知りたい方
- 個人事業主と法人のメリット・デメリットを客観的に比較したい方
結論:所得800万円超が法人化を検討する一つの目安
事業が軌道に乗り、売上や利益が安定してくると、多くの個人事業主が「法人成り」という選択肢を意識し始めます。しかし、その最適なタイミングや、本当に自社にとってメリットがあるのかどうか、判断に迷う方も少なくありません。
結論から言います。法人成りを検討すべき客観的な指標の一つは、事業の所得(売上から経費を引いた額)が800万円から900万円を超えたタイミングです。これは、個人に課される所得税の税率が、法人の実効税率を上回り始める分岐点であり、税負担の観点から法人化が有利になる可能性が出てくるためです。
ただし、これはあくまで一つの目安です。法人化の判断は、税金だけでなく、消費税、社会保険、社会的信用、そして将来の事業展開など、多角的な視点から総合的に行う必要があります。この記事では、そのための判断材料を網羅的に提供します。
第1章:個人事業主と法人の4つの根本的な違い
まず、個人事業主と法人の間にある、基本的な違いを4つの観点から比較します。
項目 | 個人事業主 | 法人(株式会社など) |
---|---|---|
税金 | 所得に対して所得税(累進課税:5%〜45%)が課される。 | 役員報酬(給与)に対して所得税、法人所得に対して法人税(約23%)が課される。 |
社会的信用 | 個人としての信用に依存。金融機関からの融資や大企業との取引で不利になる場合がある。 | 法人としての信用がある。融資や取引、許認可の取得などで有利になる傾向がある。 |
経費の範囲 | 事業に関連する費用のみ経費として認められる。 | 経営者自身への給与(役員報酬)や退職金、生命保険料の一部なども経費にできる。 |
社会保険 | 国民健康保険と国民年金に加入。扶養の概念がない。 | 健康保険と厚生年金に加入。保険料は会社と折半。保障が手厚く、扶養家族も対象になる。 |
第2章:法人化を検討すべき「4つのサイン」
では、具体的にどのような状況になったら、法人化を検討すべきなのでしょうか。代表的な4つのタイミングを解説します。
サイン1:所得が800万円を超えた
個人事業主の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税(最大45%)です。一方、法人税の税率は、資本金1億円以下の中小企業の場合、所得800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.2%と、ほぼ一定です。この税率構造の違いから、一般的に所得が800万〜900万円を超えると、個人の税率が法人の税率を上回り始め、法人化した方が税負担を抑えられる可能性が出てきます。
サイン2:消費税の納税義務が発生した
前々年の課税売上高が1,000万円を超えると、その年から消費税の課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。しかし、新たに設立された法人は、原則として設立から最大2年間、消費税の納税が免除されます。この制度を利用して、消費税の負担を抑えるために法人化するケースは非常に多いです。
サイン3:融資や大口取引で信用が必要になった
金融機関からの融資や、大企業との取引、特定の事業(建設業など)に必要な許認可の取得など、事業を拡大していく上で、法人格が求められる場面が増えてきます。個人事業主に比べて、法人は会計の透明性が高く、社会的な信用度が高いと判断されるためです。
サイン4:社会保険の保障を手厚くしたい
個人事業主が加入する国民健康保険・国民年金に比べ、法人が加入する健康保険・厚生年金は、傷病手当金や出産手当金、将来の年金受給額などの面で保障が手厚くなっています。従業員を雇用する場合だけでなく、経営者自身の保障を充実させたい場合も、法人化のメリットは大きいです。
第3章:法人化の具体的なメリット
法人化には、特に節税面で個人事業主にはない多くのメリットが存在します。
- 給与所得控除の活用:自分への給与を「役員報酬」として法人から受け取ることで、給与所得者に適用される「給与所得控除」を利用できます。これにより、課税対象となる所得を圧縮できます。
- 所得の分散:家族を役員にし、業務実態に応じて役員報酬を支払うことで、世帯全体の所得を分散し、高い累進税率の適用を避けることができます。
- 退職金の活用:経営者自身や家族従業員に対して、退職金を支払うことができます。退職金は税制上非常に優遇されており、大きな節税効果が期待できます。
- 経費範囲の拡大:個人事業主では経費にできない、経営者自身の生命保険料(一部)や、社宅の家賃(一部)などを、法人の経費として計上できます。
- 赤字の繰越:事業で発生した赤字(欠損金)を、最大10年間繰り越して、将来の黒字と相殺できます(個人事業主は3年間)。
第4章:法人化のデメリットと注意点
一方で、法人化にはコストや事務負担の増加といったデメリットも存在します。
- 設立コスト:株式会社の場合、定款認証や登録免許税などで、最低でも25万円程度の設立費用がかかります。
- 維持コスト:たとえ赤字であっても、法人住民税の「均等割」が最低でも年間約7万円かかります。
- 社会保険料の負担:健康保険・厚生年金は、保険料の約半分を会社が負担する必要があります。これは個人事業主にはない、大きな固定費となります。
- 事務負担の増加:会計処理や税務申告が個人事業主より複雑になるため、税理士への依頼が必須となるケースが多く、その分の費用も発生します。
第5章:シミュレーション - 年間所得1,000万円の場合
【前提条件】
- 事業所得:1,000万円(青色申告65万円控除適用前)
- 経費:300万円
- 本人:40歳未満、独身、東京都在住
- 法人化した場合の役員報酬:月額50万円(年額600万円)
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
個人の手取り(概算) | 約680万円 | 約475万円(役員報酬から) |
法人に残るお金(概算) | - | 約320万円 |
合計(手取り+法人内部留保) | 約680万円 | 約795万円 |
※上記はあくまで簡易的なシミュレーションです。実際には、経費の額や控除の種類によって変動します。
このケースでは、法人に残るお金(内部留保)を含めた合計額で、法人の方が有利になっていることが分かります。この内部留保を、将来の事業投資や退職金に活用していくのが、法人化の基本的な戦略となります。
よくある質問
Q: 法人化したら、個人事業主の時の屋号は使えなくなりますか?
A: 法人名(商号)として登記すれば、引き続き使用できます。ただし、商号と商標は別の制度なので、ブランド名として保護したい場合は、別途、商標登録が必要です。
Q: 資本金はいくらにすれば良いですか?
A: 2006年の会社法施行により、資本金1円から株式会社を設立できます。ただし、資本金は会社の信用の指標の一つでもあるため、当面の運転資金などを考慮し、100万円〜300万円程度で設立するケースが多いです。
Q: 会社設立の手続きは、自分でもできますか?
A: はい、可能です。法務局のウェブサイトなどで情報を収集し、自分で行えば費用を抑えられます。ただし、時間と手間がかかるため、司法書士などの専門家に依頼するのも有効な選択肢です。
Q: 合同会社と株式会社、どちらを選ぶべきですか?
A: 外部からの資金調達を考えている、あるいは社会的な信用度をより重視するなら株式会社が適しています。設立コストを抑え、経営の自由度を高くしたい場合は合同会社が有利です。事業内容によって選択は異なります。
筆者について
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