こんな人におすすめの記事です

  • 個人事業主からの法人化(法人成り)を検討している方
  • 1人社長として会社を設立する予定で、社会保険の変更点を知りたい方
  • 法人化による社会保険料の具体的な負担額や、保障内容の違いを理解したい方
  • 将来の年金受給額を増やしたいと考えている、すべての事業主の方

結論:1人社長の社会保険は「健康保険・厚生年金」へ。負担は増えるが、保障は手厚くなる

法人化を検討する際、多くの事業主が税金面のメリット・デメリットに注目しがちです。しかし、それと同じくらい、あるいはそれ以上に大きな影響を及ぼすのが社会保険制度の変更です。個人事業主から法人になると、たとえ社長一人だけの会社であっても、加入する社会保険制度が強制的に切り替わります。

結論から言います。1人社長として法人化すると、加入する社会保険は「国民健康保険+国民年金」から「健康保険+厚生年金」に変わります。社会保険料の会社負担分が新たに発生するため、事業主が負担する名目上のコストは増加します。しかしその一方で、保障内容は格段に手厚くなり、特に将来の年金受給額や家族の保険という観点では、大きなメリットを享受できます。

この記事では、1人社長のケースに絞って、両制度の違いを客観的な事実に基づいて徹底的に比較・解説し、あなたの最適な経営判断をサポートします。

第1章:個人事業主が加入する社会保険制度

まず、個人事業主が加入する社会保険制度について確認します。これは、主に「国民健康保険」と「国民年金」の2つで構成されます。

1. 国民健康保険

市区町村が運営する公的な医療保険です。前年の所得に応じて保険料が計算されるため、所得が高い人ほど保険料も高額になります。また、扶養という概念がないため、配偶者や子供など、家族一人ひとりについて保険料が発生するのが大きな特徴です(世帯単位で合算して請求されます)。業務外の病気やケガで長期間働けなくなった場合の、所得を補償する傷病手当金制度はありません

2. 国民年金

日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入を義務付けられている公的年金制度です。保険料は、所得にかかわらず一律の金額です。将来、老齢基礎年金として受け取ることができますが、これは日本の年金制度の1階部分にあたります。

第2章:1人社長が加入する社会保険制度

法人を設立すると、社長一人であっても、強制的に「健康保険」と「厚生年金保険」に加入する義務が生じます。これらは、まとめて「社会保険」と呼ばれます。

1. 健康保険

全国健康保険協会(協会けんぽ)や、各健康保険組合が運営する医療保険です。保険料は、毎月の役員報酬(標準報酬月額)に基づいて計算され、その金額を会社と本人が半分ずつ負担(労使折半)します。国民健康保険との大きな違いは、扶養家族の制度がある点と、傷病手当金制度がある点です。これにより、本人の収入が一定の基準内であれば、配偶者や子供の保険料負担がなくなります。

2. 厚生年金保険

国民年金(基礎年金)に上乗せして加入する、公的年金の2階部分です。保険料は、健康保険と同様に、毎月の役員報酬に基づいて計算され、会社と本人が労使折半で負担します。国民年金に加えて厚生年金にも加入することで、将来受け取れる年金額が大幅に増加します。

第3章:【徹底比較表】1人社長の社会保険、法人化前後の違い

両制度の違いを、4つの重要な観点から比較します。

観点

個人事業主(国保・国民年金)

1人社長の法人(健保・厚生年金)

1. 保険料の計算と負担

国保:前年の所得に応じて変動。全額自己負担。

国民年金:所得にかかわらず定額。全額自己負担。

健保・厚生年金:役員報酬額に応じて変動。会社と本人で50%ずつ負担(労使折半)

2. 保障内容(給付)

・医療費の自己負担軽減

・老齢基礎年金

傷病手当金なし

・医療費の自己負担軽減

・老齢基礎年金+老齢厚生年金(2階建て)

傷病手当金あり

・出産手当金あり

3. 扶養家族の扱い

扶養の概念なし。家族の人数分、保険料負担が増加する。

扶養の概念あり。被保険者の収入が一定基準内であれば、配偶者や子供の追加保険料負担はゼロ

4. 経費計上の可否

支払った保険料は、全額が個人の所得控除の対象となる。

会社負担分の保険料は、全額が法人の経費(損金)となる。本人負担分は個人の所得控除の対象。

第4章:法人化による金銭的メリット・デメリット(社会保険の観点)

上記の比較を踏まえ、社会保険の観点から見た、1人社長の法人化における金銭的なメリットとデメリットを整理します。

メリット

  • 将来の年金受給額が増加する:厚生年金に加入することで、国民年金のみの場合と比較して、老後の年金手取り額が大幅に増え、生活の安定に繋がります。
  • 保障が手厚くなる:病気やケガで働けなくなった場合に、給与の約3分の2が支給される傷病手当金制度は、個人事業主にはない大きな安心材料です。
  • 扶養家族の保険料負担がなくなる:配偶者や子供がいる場合、国民健康保険料の負担がなくなるため、世帯全体での支出を大きく削減できる可能性があります。
  • 会社負担分は経費になる:会社が負担する社会保険料は、法人の経費として計上できるため、法人税の課税対象となる所得を圧縮する効果があります。

デメリット

  • 会社の固定費が増加する:社会保険料の会社負担分は、たとえ会社が赤字であっても、役員報酬を支払う限り発生する固定費です。これは、個人事業主時代にはなかった、明確なコスト増となります。
  • 個人の手取り額が減少する:役員報酬から、健康保険料と厚生年金保険料が天引きされるため、同額の売上であっても、個人の可処分所得は減少します。

第5章:法人化に伴う社会保険の手続きの流れ

法人を設立したら、速やかに社会保険の切り替え手続きを行う必要があります。

  1. 健康保険・厚生年金保険の新規適用手続き 法人設立から原則5日以内に、管轄の年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出します。
  1. 被保険者資格取得手続き 社長自身の「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を提出します。扶養家族がいる場合は、「健康保険 被扶養者(異動)届」も同時に提出します。
  1. 国民健康保険・国民年金の資格喪失手続き 新しい健康保険証が届いたら、それを持って市区町村の役所へ行き、国民健康保険と国民年金の資格喪失手続きを行います。これを忘れると、保険料の二重払いが発生してしまうため注意が必要です。

第6章:従業員を雇用した場合の注意点:労働保険への加入

本記事では1人社長のケースを解説してきましたが、将来的に初めて従業員を一人でも雇用した場合は、これまで説明してきた社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加えて、新たに「労働保険」への加入手続きが必要になります。

労働保険は、「労災保険」と「雇用保険」の総称です。

  • 労災保険:業務中や通勤中のケガなどに対する保険です。保険料は全額会社負担です。
  • 雇用保険:従業員の失業時の給付などのための保険です。保険料は、会社と従業員の双方が負担します。

社長自身は、原則として労働保険の対象者にはなりませんが、従業員を雇用した場合は、会社としてこれらの保険に加入し、保険料を納付する義務が生じることを覚えておいてください。

よくある質問

Q: 1人社長でも社会保険(健康保険・厚生年金)の加入は義務ですか?

A: はい、義務です。法人の場合、たとえ社長一人であっても、社会保険の強制適用事業所となり、加入が法律で義務付けられています。

Q: 役員報酬をゼロにすれば、社会保険料はかかりませんか?

A: はい、かかりません。社会保険料は役員報酬を基に計算されるため、報酬がゼロであれば保険料も発生しません。ただし、その場合、社長個人の収入がゼロになる、社会保険の保障が受けられない、といった問題が生じます。

Q: 国民健康保険料が高すぎるのですが、法人化すれば安くなりますか?

A: 一概には言えません。法人化後の役員報酬額によって決まります。役員報酬を低く設定すれば、社会保険料の本人負担分は国保より安くなる可能性がありますが、その分、個人の手取りや将来の年金額は減少します。逆に役員報酬を高く設定すれば、国保より負担が増えることもあります。

Q: 法人化のタイミングで、保険証が一時的に使えなくなる期間はありますか?

A: 手続きがスムーズに進めば、空白期間は生じません。国民健康保険の資格喪失手続きは、新しい会社の健康保険証が手元に届いてから行うため、医療機関にかかれない期間は発生しないのが通常です。

Q: 1人社長ですが、労災保険や雇用保険に加入できますか?

A: 社長は原則として労働保険の対象外ですが、「労働保険事務組合」を通じて労災保険に特別に加入できる制度(特別加入制度)があります。雇用保険については、社長は加入できません。

筆者について

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