こんな人におすすめの記事です

  • 初めて従業員の採用を検討している、小規模事業主・店舗オーナーの方
  • 従業員を一人雇用するために、実際にいくら費用がかかるのかを正確に把握したい方
  • 人件費のコスト構造を理解し、適切な事業計画や価格設定を行いたい経営者
  • 採用活動における、長期的な資金計画の立て方を知りたい方

結論:従業員に支払う給与の、約1.5倍のコストを想定すべき

事業が成長し、初めて従業員を雇用しようと考える時、多くの経営者が人件費を「時給(または月給) × 労働時間」という単純な式で計算してしまいがちです。しかし、この計算は、実際に会社が負担する費用の全体像を捉えていません。

結論から言います。従業員を一人雇用する際に会社が負担する総コストは、本人に支払う給与額のおおよそ1.5倍から2倍に達することがあります。なぜなら、会社には、給与以外にも、負担が義務付けられている社会保険料労働保険料(これらを合わせて「法定福利費」と呼びます)が存在するからです。

この「見えないコスト」を理解せずに採用計画を進めると、想定外の費用負担に繋がり、深刻な資金繰りの悪化を招く危険性があります。この記事では、人件費の全体像を分解し、会社が負担する費用の内訳を具体的に解説します。

第1章:人件費の全体像 - 会社が負担する費用の内訳

「人件費」と一言で言っても、その内訳は多岐にわたります。大きく分けると、以下のようになります。

  1. 給与・賞与:従業員本人に直接支払われる賃金。時給、月給、残業代、ボーナスなどが含まれます。
  2. 法定福利費:法律によって会社に負担が義務付けられている費用。主に「社会保険料」と「労働保険料」から構成されます。
  3. 福利厚生費:法律上の義務ではないが、会社が任意で提供する費用。住宅手当、慶弔見舞金、社員旅行の費用などが含まれます。
  4. 採用・教育費:求人広告の掲載費用や、業務に必要なスキルを習得させるための研修費用などです。

この中で、特に金額が大きく、かつ経営者が必ず負担しなければならないのが法定福利費です。本記事では、この法定福利費に焦点を当てて詳しく見ていきます。

第2章:会社負担の義務① 社会保険料

社会保険は、主に「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」から構成され、従業員の病気やケガ、老後の生活を保障するための制度です。原則として、法人はすべて、個人事業主であっても常時5人以上の従業員を雇用する場合は、加入が義務付けられています。

保険料は、従業員の給与額(標準報酬月額)に、定められた保険料率を掛けて算出され、その金額を会社と従業員が半分ずつ負担(労使折半)します。

  • 健康保険料・介護保険料 業務外の病気やケガの治療費などを保障します。40歳以上の従業員は、介護保険料も合わせて徴収されます。保険料率は、会社が所属する健康保険組合や、都道府県(協会けんぽの場合)によって異なります。
  • 厚生年金保険料 老後の年金(老齢厚生年金)や、障害・死亡時の保障(障害厚生年金・遺族厚生年金)のための保険です。保険料率は、全国一律です。

第3章:会社負担の義務② 労働保険料

労働保険は、「雇用保険」と「労災保険」から構成されます。

  • 雇用保険料 従業員が失業した場合の生活保障(失業等給付)や、育児・介護休業中の給付などを行うための保険です。保険料は、従業員の給与総額に保険料率を掛けて算出し、会社と従業員の双方が、定められた負担率に応じて支払います。
  • 労災保険料(労働者災害補償保険料) 従業員が業務中や通勤中にケガ、病気、あるいは死亡した場合に、治療費や休業中の賃金を保障するための保険です。保険料は、従業員の給与総額に保険料率を掛け合わせて算出され、その全額を会社が負担します。保険料率は、事業の種類(例:事務職中心の事業は低く、建設業などは高い)によって細かく定められています。

第4章:【モデルケースで計算】時給1,200円のパート、会社の本当の負担額

では、実際に時給1,200円のパートタイマーを一人雇用した場合、会社の負担額はいくらになるのか、具体的なモデルケースで計算してみましょう。

【前提条件】

  • 勤務先:東京都の飲食店
  • 時給:1,200円
  • 勤務時間:週30時間(月120時間)
  • 従業員の年齢:35歳(介護保険料の負担なし)
  • 交通費:別途支給(月5,000円)
  • 社会保険・労働保険の加入義務あり
  • 各種保険料率は2025年度の料率と仮定

1. 従業員に直接支払う給与・手当

  • 給与:1,200円 × 120時間 = 144,000円
  • 交通費:5,000円
  • 小計:149,000円

2. 会社が負担する法定福利費(月額概算)

  • 健康保険料(標準報酬月額142,000円で計算):会社負担分 約7,100円
  • 厚生年金保険料(同上):会社負担分 約13,100円
  • 雇用保険料(給与総額14.4万円で計算):会社負担分 約940円
  • 労災保険料(同上):会社負担分(全額) 約430円
  • 小計:約21,570円

3. 会社の月間総負担額

  • 給与・手当(149,000円) + 法定福利費(約21,570円) = 約170,570円

4. 実質的な時給負担額の算出

  • 総負担額(約170,570円) ÷ 労働時間(120時間) = 実質時給 約1,421円

この計算結果から、会社は時給1,200円の従業員に対して、実際には時給換算で約1,421円のコストを負担していることが分かります。これは、給与額の約1.18倍にあたります。さらに、ここには求人広告費や備品代、教育にかかる時間的コストなどは含まれていません。それらを含めると、負担はさらに大きくなります。

第5章:コスト構造を理解した上での経営戦略

この「見えないコスト」の存在を正確に理解することは、健全な会社経営において不可欠です。

  • 適正な採用計画:従業員一人当たりの売上や利益が、総人件費を上回るような、事業計画に基づいた採用計画を立てる必要があります。
  • 適切な価格設定:自社の商品・サービスの価格を決める際には、材料費や家賃だけでなく、この総人件費を正確に反映させなければ、利益を確保することはできません。
  • 生産性の向上:採用した従業員に適切な教育を行い、働きやすい環境を整え、生産性を高めることが、結果的に総人件費の負担を吸収し、企業の成長に繋がります。

よくある質問

Q: 従業員を雇ったら、社会保険への加入は必ず必要ですか?

A: はい、法人であれば、代表者一人でも加入義務があります。個人事業主の場合でも、常時5人以上の従業員を雇用している場合は、一部の業種を除き、加入が義務付けられています。パートタイマーであっても、週の労働時間などが一定の基準を超えれば、加入対象となります。

Q: 試用期間中も、社会保険料は発生しますか?

A: はい、発生します。試用期間も法的には労働契約が成立しているため、加入要件を満たしていれば、入社日から社会保険の被保険者となります。

Q: 業務委託契約でフリーランスに仕事を頼む場合も、社会保険料はかかりますか?

A: いいえ、かかりません。業務委託契約は雇用契約ではないため、発注者である企業に社会保険料や労働保険料の負担義務は発生しません。ただし、契約の実態が「雇用」であると判断された場合は、保険料の支払いを命じられるリスクがあります。

Q: これらの法定福利費は、経費として計上できますか?

A: はい、会社が負担した法定福利費は、全額を会社の経費(損金)として計上することができます。

筆者について

記事を読んでくださりありがとうございました! 私はスプレッドシートでホームページを作成できるサービス、SpreadSiteを開発・運営しています! 「時間もお金もかけられない、だけど魅力は伝えたい!」という方にぴったりなツールですので、ホームページでお困りの方がいたら、ぜひご検討ください! https://spread-site.com